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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年神審第12号
件名

漁船第二愛鷹丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年8月14日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:第二愛鷹丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)

損害
1号発電機の巻線が焼損

原因
海水管を取り外す際の関係諸弁の閉止措置不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、海水管を取り外す際の関係諸弁の閉止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月16日23時00分(南アフリカ共和国標準時)
 モザンビーク海峡

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二愛鷹丸
総トン数 349トン
全長 44.75メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分380

3 事実の経過
 第二愛鷹丸(以下「愛鷹丸」という。)は、昭和60年12月に進水した鋼製漁船で、就航以来、南アフリカ沖合でのまぐろはえ縄漁業に従事しており、機関室中央部に据え付けた主機の両舷に、ディーゼル機関で駆動される神鋼電機株式会社製の容量330キロボルトアンペアの三相交流発電機を装備し、右舷機を1号発電機、左舷機を2号発電機と呼称していた。また、同船は、魚倉用の冷凍装置として、機関室上部の冷凍機室に3台の冷凍機を、機関室右舷側にコンデンサ(以下「1号コンデンサ」という。)及びコンデンサ兼予備冷却清水ポンプ(以下「1号ポンプ」という。)を、同左舷側にコンデンサ(以下「2号コンデンサ」という。)及びコンデンサポンプ(以下「2号ポンプ」という。)をそれぞれ設置していた。
 コンデンサの冷却海水管系統は、右舷側の船底弁から1号ポンプによって吸引・加圧された海水が、1号コンデンサを冷却したのち右舷側の船外弁を経て船外に排出され、同様に、左舷側の船底弁から2号ポンプによって吸引・加圧された海水が、2号コンデンサを冷却したのち左舷側の船外弁を経て船外に排出される一方、各ポンプ1台で両コンデンサが冷却できるよう、各ポンプの吐出側に連絡管が設けられていた。また、同連絡管には、圧力が高くなったときに海水の一部を船外に逃がす圧力調整弁を設けた配管や糧食用冷凍装置に海水を供給する配管等がそれぞれ接続されていたほか、各ポンプ側に海水の供給量を調節するバタフライ弁が各1個設けられていた。
 ところで、糧食用冷凍装置への海水の供給管は、呼び径が40ミリメートルの管をフランジ継手で連結し、各継手が4本のボルトで締め付けられており、糧食用冷凍装置に至る途中の海水管が、1号発電機至近上方の天井に沿って配管されていた。
 A受審人は、平成2年8月から機関長として乗り組んでいたもので、愛鷹丸が南アフリカ共和国ケープタウン港を基地として1航海が4箇月ないし7箇月の操業を行っていたことから、1年ないし2年ごとに日本に帰国して休暇を取りながら乗船を繰り返し、インドネシア人機関員を指揮して各機器の運転及び保守管理に従事しており、魚倉用の冷凍装置については、普段1号及び2号ポンプを2台とも運転し、各バタフライ弁の開度を2分の1に調整して使用していた。
 愛鷹丸は、A受審人ほかインドネシア人機関員5人を含む22人が乗り組み、同11年10月10日14時(南アフリカ共和国標準時、以下同じ。)ケープタウン港を発し、その後、モザンビーク共和国沖合の漁場で操業を繰り返しているうち、いつしか、1号発電機至近の糧食用冷凍装置用の海水管に腐食による破孔が生じ、海水が漏洩する状況となっていた。
 同12年2月16日の操業中、A受審人は、冷凍機の調整を行うために21時30分ごろ冷凍機室に赴き、冷凍機の調整を終えたのち、インドネシア人機関員が当直している機関室の点検を行っていたところ、前示の海水管の漏洩を発見し、破孔部に自転車のゴムチューブを巻いて応急処置を試みたものの、漏洩が止まらなかったことから、同管を取り外して切継ぎ修理することにした。
 ところで、A受審人は、破孔が生じた海水管を取り外すにあたり、同管が右舷側に配管されていたことから、右舷側に配置された1号ポンプ側のバタフライ弁や圧力調整弁用の入口弁は閉止したものの、左舷側に配置された2号ポンプ側のバタフライ弁が開弁中であることに思いが及ばず、同弁を閉止しないまま海水管の取り外し作業を開始した。
 こうして、愛鷹丸は、1号発電機を単独で運転して揚網中、A受審人が、海水管のフランジ継手のボルト2本を取り外したのち、残る2本のボルトを緩めた途端、フランジ面に張り付いていたパッキンが剥がれ、同継手部から噴出した海水が運転中の1号発電機に降りかかり、23時00分南緯19度54分東経35度58分の地点において、同機の巻線が焼損して船内電源が喪失した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、緩めていたボルトを締め直して海水の噴出を止めたのち、直ちに2号発電機を運転して船内電源を確保した。
 愛鷹丸は、2号発電機のみを運転して操業を継続し、その後、水揚げのために帰港したケープタウン港において、焼損した1号発電機の巻線を新替えするなどの修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、修理のために海水管を取り外す際、関係諸弁の閉止措置が不十分で、ボルトを緩めたフランジ継手部から海水が噴出し、噴出した海水が運転中の発電機に降りかかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、修理のために海水管を取り外す場合、海水が噴出して付近の電気機器に降りかかることのないよう、関係諸弁を全て閉止すべき注意義務があった。ところが、同人は、取り外そうとする海水管が右舷側に配管されていたことから、右舷側に配置された諸弁は閉止したものの、左舷側に配置されたバタフライ弁が開弁中であることに思いが及ばず、同弁を閉止しなかった職務上の過失により、同弁が開弁したままフランジ継手のボルトを緩めて、同継手部から噴出した海水が運転中の発電機に降りかかる事態を招き、同機の巻線を焼損させるに至った。





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