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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年函審第11号
件名

漁船第五十五宝生丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年8月2日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、古川隆一)

理事官
杉?忠志

受審人
A 職名:第五十五宝生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
主軸受及びクランク軸等損傷し、主機換装

原因
主機油受の潤滑油量の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機油受の潤滑油量の点検が不十分で、油量不足により潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月15日12時10分
 北海道奥尻海峡

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十五宝生丸
総トン数 19.85トン
登録長 15.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 102キロワット
回転数 毎分1,020

3 事実の経過
 第五十五宝生丸(以下「宝生丸」という。)は、昭和55年2月に進水した、いか一本釣り漁業及びえびかごはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、同54年9月にヤンマーディーゼル株式会社が製造した6BN−T型と呼称するディーゼル機関を備えていた。
 宝生丸は、平成10年6月中古船が購入されたもので、操舵室には、新造時に主機の潤滑油圧力低下警報装置等を組み込んでいる計器盤が装備されていたものの、購入前に同盤が取り外され、計器として回転計だけがあった。
 主機の潤滑油系統は、標準油量75リットルの油受から直結歯車式潤滑油ポンプに吸引された潤滑油が、潤滑油こし器、潤滑油冷却器を経て油圧力調整弁で3.5ないし4.0キログラム毎平方センチメートルに調圧されたのち分岐し、一方が主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン、他方がカム軸など各部の潤滑あるいは冷却を行い、油受に戻って循環しており、はねかけによる油がピストンとシリンダライナとの摺動面を注油するようになっていた。そして油受は、クランク室中央下方に検油棒が差し込まれていて、検油棒の下限目盛が41リットルの最低油面に相当していた。
 宝生丸は、毎年いか漁の漁期には4月下旬に能登半島沖の漁場で操業を開始して魚群を追いながら9月末にかけ日本海の漁場を北上した後、えび漁に切り替えて北海道久遠漁港を根拠地とし、同漁の漁期には10月中旬から翌年3月末にかけ北海道奥尻海峡の漁場で操業を繰り返していた。
 A受審人は、宝生丸の購入時に業者による主機のピストン等の整備工事を行い、船長として操船のほか主機の運転保守等にあたり、各漁期の操業の合間に3箇月を経過するごと潤滑油を新油と交換した後、約1箇月間隔で潤滑油こし器を掃除する都度、運転による消費に見合う潤滑油量を油受に補給していた。
 ところが、主機は、前示整備工事後に長期間運転が続けられているうちピストンリング溝等に燃焼生成物が付着し、同12年12月下旬えび漁の漁期中、シリンダライナの摺動面で燃焼する潤滑油の消費が増加して油受の潤滑油量の減少状況が変化し始めた。
 しかし、A受審人は、同月30日主機の潤滑油を定期交換し、翌13年2月1日潤滑油こし器の掃除の際に油受の潤滑油量がいつもより減少していたが、これを補給した後、無難に運転しているから大丈夫と思い、操業を繰り返して出港前に主機を始動する都度、潤滑油量を点検しなかったので、潤滑油量の減少状況の変化に気付かなかった。
 こうして、宝生丸は、主機の油受に潤滑油が補給されないまま、A受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、3月15日03時00分久遠漁港を発し、奥尻海峡の漁場に至り、クラッチを中立位置として主機を回転数毎分900にかけ揚縄作業中、右舷側に船体が傾斜した際、油受の潤滑油量不足により潤滑油ポンプが空気を吸い込んで各部の潤滑が阻害され、12時10分小歌岬灯台から真方位233度10海里の地点において、各シリンダのクランクピン軸受及び主軸受とクランク軸が焼き付き、主機が自停した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、船尾甲板でえびかご等を片付けていて主機の運転音の変化に気付き、機関室に急行したところ、自停したこと及び油受の潤滑油量不足を認め、ターニングを試みたものの果たせず、運転を断念した。
 宝生丸は、僚船により久遠漁港に曳航された後、業者により主機が精査された結果、前示クランクピン軸受、主軸受及びクランク軸のほかシリンダブロック主軸受取付部等の損傷が判明し、換装された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機油受の潤滑油量の点検が不十分で、潤滑油が補給されないままに運転が続けられ、油量不足により潤滑油ポンプが空気を吸い込んで潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転保守にあたり、操業を繰り返して出港前に主機を始動する場合、潤滑油こし器の掃除の際に油受の潤滑油量がいつもより減少していたから、運転による消費の増加を見落とさないよう、その都度、潤滑油量を点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、無難に運転しているから大丈夫と思い、油受の潤滑油量を点検しなかった職務上の過失により、潤滑油量の減少状況の変化に気付かず、潤滑油を補給しないままに運転を続け、油量不足により潤滑油ポンプが空気を吸い込んで各部の潤滑が阻害される事態を招き、クランクピン軸受、主軸受及びクランク軸のほかシリンダブロック等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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