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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年長審第14号
件名

漁船福生丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年7月26日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、半間俊士、寺戸和夫)

理事官
弓田

受審人
A 職名:福生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
主軸受とクランクピン軸受及びクランク軸を焼損し、のち換装

原因
定期的な整備不十分

主文

 本件機関損傷は、定期的な整備が不十分で、主機直結冷却水ポンプの軸シールの水密性が失われたことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月2日11時30分
 長崎県度島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船福生丸
総トン数 17.72トン
登録長 14メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 301キロワット
回転数 毎分2,100

3 事実の経過
 福生丸は、昭和56年3月に進水した中型まき網漁業に灯船兼運搬船として従事するFRP製漁船で、主機として、アメリカ合衆国キャタピラートラクター社製の3406TA型機関を備え、一回の操業期間を3日間として月間20日間程度出漁しており、主機の運転時間は年間約4,000時間であった。
 主機は、右舷船首側の機側に直結の冷却水ポンプを備え、同ポンプの軸シールには冷却水側にカーボン製の回転リングとセラミック製の固定リングを備えたメカニカルシールが、玉軸受及び駆動歯車の潤滑油側にオイルシールがそれぞれ組み込まれ、機関全体では潤滑油を34リットル及び冷却水を61リットル保有していた。
 主機及び付属機器の開放整備については、取扱説明書に整備間隔が何も記載されていなかったが、製造会社としてはピストン抽出などの全開放の運転時間基準を12,000時間としていた。また出力や回転数などが同等クラスの国産機関の場合、前示ポンプのメカニカルシールの整備間隔は一般的には5,000時間が基準であった。
 ところで、福生丸の所有者は、同船を年間二度ほど入渠して船体の整備を行っていたが、機関については定期的な整備は行わず、運転に不具合が発生した都度修理することとしており、平成5年4月主機の弁腕駆動装置損傷事故の修理を行い、このとき冷却水ポンプの軸シール及び玉軸受を新替えしたものの、その後は同ポンプを一度も開放点検しないで運航していた。
 A受審人は、福生丸に平成4年以来単独で乗り組み、主機については発航前点検で潤滑油及び冷却水の量を確認し、2箇月毎に潤滑油と同油こし器のカートリッジを交換するほか汚損した過給機のエアフィルタや消耗した冷却器の亜鉛棒を取り替えるなど自身でできる簡単な整備は行っていたものの、船舶所有者の意図を知っていたことから、同人に業者による冷却水ポンプの定期的な開放整備などを進言しないまま運転を続け、この間同ポンプメカニカルシールの回転リングの摩耗が徐々に進行していた。
 こうして福生丸は、A受審人が単独で乗り組み、発航前に主機を点検して異状がないことを確認したのち操舵室から遠隔で始動し、平成13年5月2日10時00分船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水で僚船とともに長崎県臼浦港を発し、間もなく回転数毎分1,800の全速力前進で的山大島東方の漁場に向けて航行中、前示メカニカルシールの水密性が失われ、大量の冷却水が短時間のうちに潤滑油に混入したことから同油の性状が著しく劣化して軸受などの潤滑が不良となり、11時30分崎瀬鼻灯台から真方位091度2.0海里の地点において、主機が回転の不均一を生じると同時に潤滑油圧力低下の警報を発して自停した。
 当時、天候は曇で風力3の北風が吹いていた。
 A受審人は、僚船に救援を依頼し、福生丸は、14時00分発航地に引きつけられ、調査したところ冷却水全量のほぼ4分の3がクランク室の潤滑油に混入して同油が乳白色に変色していること及び同室底部に白濁沈殿化しているのが認められた。
 その結果、主機は、主軸受とクランクピン軸受及びクランク軸を焼損し、のち換装された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の保守管理について定期的な整備が不十分で、漁場に向けて航行中、直結冷却水ポンプの軸シールが経年摩耗によって水密性を失い、大量の冷却水がクランク室の潤滑油に混入して同油の性状が劣化し、軸受の潤滑が不良となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、船長として機関の取扱い及び整備を含めて運航の実務に単独で携わる場合、船舶所有者に対し、一定の運転時間を経過したのちには業者に依頼して主機直結冷却水ポンプの開放、同ポンプの軸シールの新替えなどについて、定期的な機関整備が行われるよう、進言しなかったことは、本件発生の原因となる。
 しかしながら、機関の開放整備については、船舶所有者の判断だけによって行われていた実態に徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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