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平成14年那審第10号
件名

漁船信栄丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年7月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:信栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
シフタを損傷し、新替

原因
船内外機ドライブユニットの潤滑油量の点検不十分及び同ユニットの開放整備不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、船内外機ドライブユニットの潤滑油量の点検が十分でなかったこと及び同ユニットの開放整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年12月17日10時20分
 鹿児島県徳之島犬田布岬北北東沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船信栄丸
総トン数 1.24トン
登録長 5.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 18

3 事実の経過
 信栄丸は、昭和55年6月に進水した一本釣り漁業に従事するプラスチック製漁船で、主機として船内に備えられたディーゼル機関と推進装置として船外に備えられたヤンマーディーゼル株式会社が製造したSZ60型と称するドライブユニットとで構成された船内外機を装備していた。
 ドライブユニットは、互いに咬み合う爪と溝とによって動力を伝えるドグクラッチ式と称するクラッチが入力軸の嵌脱クラッチ及びクラッチ軸の前後進クラッチとしてそれぞれ1組ずつ備えられていた。
 入力軸、ボールジョイント軸、クラッチ軸などの各軸には、スプラインと称する数条のV字形の溝が軸方向に部分的に削り加工され、クラッチの嵌脱や各軸の連結などに使用されていた。
 嵌脱クラッチは、断面が凹字形の円筒で内面にスプラインを削り加工したクラッチドグと称する部品の一端に複数の爪を加工し、入力軸とスプラインを介して咬み合わせ、クラッチドグが軸方向に移動してボールジョイント軸に設けられた溝と前示爪とが嵌脱することで動力の伝達を行うようになっていた。
 クラッチドグの移動は、シフタと称する半径約40ミリメートル(以下「ミリ」という。)4分の1円弧形で幅7ないし13ミリ、厚さ11.8ミリの真鍮(しんちゅう)製部品をクラッチドグ外周中央部の窪んだ矩形の溝に組み込み、ケーブル、シフトレバーなどを介してシフタを変位させることによって行うようになっていた。
 各クラッチケース内は、潤滑油が入っており前後進クラッチケースにはねじ込み式検油棒と透明な油面計が取り付けられ、嵌脱クラッチケースにはねじ込み式検油棒のみが取り付けられていた。
 ところで、主機運転中の嵌脱クラッチにおいて、回転しないシフタは、入力軸とともにスプラインを介して常時回転しているクラッチドグと接触することから、両部品の潤滑が阻害されると金属接触を生じ、シフタが摩耗するおそれがあった。
 また、ドライブユニットのメーカーは、始動前点検で各クラッチケース内の潤滑油量を点検し、運転時間が250時間毎に同油を交換すること、各種転がり軸受、軸、歯車などを2年毎に点検し、4年毎には交換することなどを機関取扱説明書に記載して取扱者に注意を促していた。
 A受審人は、昭和59年12月信栄丸を購入したのち、機関の運転及び保守管理にあたり、業者にドライブユニットの開放整備要領を問い合わせることなどをしないまま、これまで運転に支障がなかったことから大丈夫と思い、同ユニットの開放整備を十分に行うことなく、同ユニットの異状に気付かないまま船内外機の運転を続け、また、各クラッチケース内に潤滑油が入っていることを知っており、前後進クラッチケース内については潤滑油量の点検を行って同油の補給を行っていたものの、嵌脱クラッチケース内については油面計が取り付けられていなかったことからか、同油量の点検を十分に行うことなく、同油の補給を行わないまま船内外機の運転を続けていた。
 信栄丸は、いつしか嵌脱クラッチケース内の潤滑油量不足でシフタとクラッチドグとの潤滑が阻害されるようになり、両部品が金属接触してシフタが徐々に摩耗し、クラッチドグが船首方に移動して嵌脱クラッチの嵌合が保持できなくなるおそれのある状況となっていた。
 こうして、信栄丸は、A受審人が単独で乗り組み、平成13年12月17日07時00分鹿児島県平土野港を発し、操業の目的で同県徳之島犬田布岬北東沖合の漁場に向った。
 A受審人は、途中餌を釣ったのち08時ごろ漁場に到着し、錨泊して一本釣りを始めたが南寄りの風が強くなってきたことから、漁を中止して帰港することとし、10時13分主機を全速力前進の7割程度にかけて漁場を発航した。
 信栄丸は、7ないし8ノットの対地速力で航行中、シフタが異常摩耗して損傷したことから嵌脱クラッチの嵌合が外れ、10時20分犬田布岬から真方位026度1.4海里の地点において、主機の動力がドライブ軸に伝わらなくなり推進器翼の回転が停止した。
 当時、天候は晴で風力5の南風が吹き、海上にはやや波があった。
 A受審人は、推進器翼の回転が停止したことに気付き、調査したものの原因がわからないことから主機を停止した。
 信栄丸は、北北東方に約1.5海里漂流して13時00分岩場に漂着し、A受審人は船固めを行ったのち帰宅し、のち異常摩耗して厚さが11.8ミリから7.4ないし9.2ミリに減じたシフタなどが新替えされた。

(原因)
 本件機関損傷は、船内外機ドライブユニットの運転及び保守管理にあたる際、同ユニットの潤滑油量の点検が不十分で、嵌脱クラッチのシフタとクラッチドグとの潤滑が阻害されてシフタが異常摩耗したこと及び同ユニットの開放整備が不十分で、同ユニットの異状に気付かないまま、運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、船内外機ドライブユニットの運転及び保守管理にあたる場合、潤滑油量不足で運転を続けると嵌脱クラッチのシフタとクラッチドグとの潤滑が阻害され、金属接触してシフタに異常摩耗が生じるおそれがあったから、同ユニットの潤滑油量の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同ユニットの潤滑油量の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同クラッチのシフタとクラッチドグとの潤滑阻害を招き、異常摩耗でシフタを損傷させるに至った。





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