日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 火災事件一覧 >  事件





平成14年門審第33号
件名

漁船第三幸丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成14年7月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、河本和夫、米原健一)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:第三幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
賄室及び船員室を全焼、機関室の一部を焼損

原因
火気管理不十分

主文

 本件火災は、ガスこんろを使用する際、火気の管理が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年6月18日13時10分
 鹿児島県串木野漁港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三幸丸
総トン数 19.96ン
登録長 14.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160

3 事実の経過
 第三幸丸は、昭和55年に進水した、中型まき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、あじ・さば漁の目的で、平成13年6月17日15時00分鹿児島県串木野漁港を発し、僚船5隻とともに同漁港西方沖合の漁場に向かい、同日16時00分ごろ漁場に到着して魚群の探索を始め、翌18日05時00分ごろ操業を終え、同漁港に向けて帰途に就き、06時05分串木野漁港に帰港し、串木野港北防波堤灯台から真方位354度600メートルの地点にあたる、同漁港魚市場前の物揚場岸壁に右舷横付け係留した。
 A受審人は、同日夕刻の出漁に備えてそのまま在船することにし、賄室で朝食の準備に取り掛かり、ガス炊飯器を使用して炊飯し、僚船の乗組員1人と岸壁上で朝食をとりながら缶ビールを2本飲み、07時30分ごろ朝食を終えて片付けをした後、仮眠をとる前に湯で体を拭くことにし、湯を沸かすため賄室に入った。
 ところで、第三幸丸は、まき網船団付属の探索船で、船体のほぼ中央部に操舵室が、後部に船員室及び賄室がそれぞれ設けられ、操舵室には、左舷後部に寝台が設置され、船員室には、畳が敷かれて乗組員の休息場所となっていた。また、船員室後部に隣接した賄室は、縦(船首尾方向をいう。以下同じ。)1.25メートル横1.75メートル高さ1.98メートルの広さで、右舷側壁に面して縦1.25メートル横0.48メートルの流し台が、左舷側壁には木製の食器棚がそれぞれ設置されており、周囲の壁には、内張りとして厚さ2ミリメートル(以下「ミリ」という。)の化粧合板が張られていた。
 流し台は、右側が流しに、左側がこんろ台になっており、同こんろ台は、その表面が、ガラス繊維基材に不飽和ポリエステル樹脂を塗布して厚さ5ないし8ミリに積層された、いわゆる強化プラスチック(FRP)で被覆され、その上に、縦55センチメートル(以下「センチ」という。)横43センチ高さ20センチの箱型をした、厚さ1ミリのステンレス製こんろ枠が設置されていて、同枠が船体の動揺により移動しないよう、同枠と左横の壁との間の隙間に当て板(以下「木枠」という。)が差し込まれていた。また、こんろ枠の中には、リング型二重バーナー方式の、内外輪それぞれにコックが付いたガスこんろが置かれており、こんろ枠の上面が直径35センチの円形にくり抜かれて、この中にやかんなどを掛けるようになっていた。
 ガス管は、船尾甲板に格納された24リットル入りのプロパンガス容器から船尾甲板上を賄室後壁まで鋼管で配管され、同室内の後壁に分配器が取り付けられていて、同分配器からガスこんろ及び同室床上に設置されたガス炊飯器までゴムホースにより配管されていた。
 A受審人は、賄室において、直径20センチの4リットル入りアルミニウム製のやかんに、水を一杯まで入れてガスこんろに掛け、右側のコックを開放して内輪のバーナーにだけ点火したが、湯が沸くまではしばらく時間が掛かるので、その間に操舵室で操業日誌の整理をしておこうと思い立ち、短時間で賄室に戻るつもりで操舵室に赴き、操業日誌に出入港時刻や漁模様などの記入を始めた。
 ところが、A受審人は、操業日誌を記入しているうち、操業中に一睡もしていなかったことから、次第に眠気を催すようになって、いつしかガスこんろに点火して湯を沸かしていることを失念し、07時45分ごろ同日誌の記入を終えたものの、速やかに賄室に戻って火気の管理を十分に行うことなく、そのまま操舵室後部の寝台で横になって仮眠をとった。
 こうして、A受審人は、ガスこんろに点火したまま仮眠をとって長時間放置したため、やかんの水が完全に蒸発して空たき状態が続き、過熱したやかんの底部及びバーナーからの輻射熱により、バーナー直下のこんろ台表面の不飽和ポリエステル樹脂が過熱されて燻り(くすぶり)続け、やがて同樹脂が溶解して可燃性ガスが発生し、こんろ枠と木枠との隙間などに滞留するようになり、第三幸丸は、13時10分前示係留地点において、滞留した可燃性ガスに引火し、過熱していた木枠が発火して壁材などに燃え移り、賄室から火災が発生した。
 当時、天候は曇で風力4の南南東風が吹き、海上は平穏であった。
 A受審人は、「煙が出ている。」との叫び声を聞いて目が覚め、直ちに賄室に駆け付けたところ、同室内には煙が充満しており、ガスこんろのコックを閉めたうえで、僚船の乗組員とともに粉末消火器及び清水ポンプを始動しての消火作業に当たったが、火勢が衰えず、初期消火を断念して、13時26分消防署への通報を依頼し、14時10分消防車の放水により鎮火した。
 火災の結果、賄室及び船員室を全焼したほか、機関室の一部を焼損したが、のち修理された。

(原因)
 本件火災は、鹿児島県串木野漁港において、操業を終えて岸壁に係留中、賄室のガスこんろにやかんを掛けて湯を沸かす際、火気の管理が不十分で、ガスこんろにやかんを掛けたまま仮眠をとり、長時間放置したことによってやかんの水が蒸発して空たき状態となり、やかん底部及びバーナーからの輻射熱で、こんろ台表面の不飽和ポリエステル樹脂が過熱されて燻り続け、同樹脂が溶解して発生した可燃性ガスがこんろ枠と木枠との間の隙間などに滞留し、これに引火して、更に過熱していた木枠が発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、鹿児島県串木野漁港において、操業を終えて岸壁に係留中、賄室のガスこんろにやかんを掛けて湯を沸かす場合、ガスこんろに点火したまま長時間放置することのないよう、 火気の管理を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、湯が沸くまではしばらく時間が掛かるので、その間に操業日誌の整理をしておこうと思い立ち、賄室を離れて操舵室で操業日誌を記入しているうち、眠気を催してガスこんろを使用していることを失念し、そのまま操舵室後部の寝台で仮眠をとり、火気の管理を十分に行わなかった職務上の過失により、ガスこんろにやかんを掛けたまま長時間放置したため、空たき状態となり、やかんの底部及びバーナーからの輻射熱でこんろ台表面の不飽和ポリエステル樹脂が過熱され、同樹脂から発生した可燃性ガスに引火し、更に過熱していた木枠が発火して壁材などに延焼したことによって火災の発生を招き、賄室及び船員室を全焼したほか、機関室の一部を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同受審人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION