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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年長審第23号
件名

貨物船京丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年8月7日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、道前洋志、寺戸和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:京丸機関長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
船底外板に大破口、沈没し、全損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月17日03時35分
 五島列島宇久島南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船京丸
総トン数 198トン
登録長 50.76メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット

3 事実の経過
 京丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人と船長の2人が乗り組み、堆肥391トンを積載し、船首2.5メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成13年10月16日22時15分佐賀県唐津港を発し、長崎県三井楽漁港に向かった。
 A受審人は、息子を船長に選任していたが、これまで永年船主船長として豊富な経験があったことから、実質船長として操船に当たっており、当日も出航操船を行ったのち、船橋当直に就き、九州北岸を西行して生月瀬戸を航過し、翌17日02時10分生月長瀬鼻灯台から116度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で針路を252度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの風潮流によって8度ばかり左方に圧流されながら9.8ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、この海域の航海に慣れており、生月瀬戸を航過したころ東シナ海を北東進していた台風21号の影響で北東の風雨が強まってきたことから、潮流と相まって徐々に左偏することを予測し、宇久島東方の黒母瀬付近に近づいてから針路を津和崎瀬戸に向ける予定で、レーダーを3海里レンジで作動させ、これを監視しながら続航した。
 03時10分ころA受審人は、左舷船首8度4海里ばかりに黒母瀬灯台の灯火が視認できる距離に接近していたが、雨のためかこれを認めないで続航していたところ、同時20分ころ空腹を覚えたことから即席麺を食べることとし、ギャレイで麺のカップにポットの湯を入れて船橋に戻り、そろそろ黒母瀬が近くなるころと思い、同時25分これを食べながらレーダーを見たとき、左舷船首8度1.6海里に黒母瀬の映像があったが、たまたま船首2.5海里付近で発達した雨雲が大きな縞模様に映っていたことから、その映像に気をとられ、画面の確認を十分に行ったり、レンジを切り替えて船位を確認しなかったので、黒母瀬の1.6海里に接近したことに気付かず、その後雨雲が自船の上空を覆い、画面のほぼ全域が白地となったのを認め、麺のカップを置いてレーダーの天候や感度の調整を始めたが、思うように画面の映像を調整できず、これに熱中していたところ、03時35分黒母瀬灯台から335度220メートルの黒母瀬に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は雨で風力6の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、船底外板に大きな破口が生じ、間もなく船橋の一部を海面に出して沈没、全損となった。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、雨雲が発達し、風雨の激しい平戸島西方海域を西行中、船位の確認が不十分で、黒母瀬に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、雨雲が発達し、風雨の激しい平戸島西方海域を西行する場合、レーダーを適正に監視して船位を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船位を確認しなかった職務上の過失により、黒母瀬への乗揚を招き、船底に大きな破口が生じ、ここから海水が大量に浸入して沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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