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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年広審第63号
件名

貨物船第五大運丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年8月1日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(?橋昭雄)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:第五大運丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
船首船底外板に凹損及び擦過傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月23日02時21分
 瀬戸内海備讃海域東部

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五大運丸
総トン数 198トン
全長 57.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

3 事実の経過
 第五大運丸は、鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、木材チップ500トンを載せ、船首2.50メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、平成13年10月22日12時30分山口県三田尻中関港を発し、徳島県富岡港に向かった。
 ところで、本船は、親戚知人などいわゆる家族船員が乗り組んだ生業船で、オペレーターの傘下のもとで運航されていたものの、生業船であることから労務管理等についてはオペレーターの管理外であり、オペレーターから居眠り運航防止に関する安全運航等の配布物の提供を受ける程度で、これを船橋に掲示していた。したがって、船舶所有者の社長の実弟にあたる機関長が実質的な運航指揮をとり、甥にあたるA受審人は、長年の海運倉庫会社での勤務を経て昨年5月から乗船するようになった経緯から、運航等に関して機関長の指示を受けていた。そして、船橋当直体制の編成に際して、休息時間をまとめて取ることを念頭に置いて、船長と機関長の2交替制による5時間ないし6時間の長時間の単独当直体制がとられていた。
 こうして、A受審人は、前日休日でもあったので休息を十分に取ったうえで、当22日04時ごろ荷役準備のため起床して午前中の積み荷役に携わったのち、発航時から機関長とともに当直にあたり、上関海峡通峡後単独で当直を行うようになり、17時30分クダコ水道付近で機関長と交替して自室に退き、その後夕食を済ませて約3時間の休息を取った。
 22時30分A受審人は、高井神島を過ぎたところで昇橋し、機関長と交替して単独で船橋当直に就き、いつものように立直に努めて当直にあたった。翌23日01時48分小槌島灯台から002度(真方位、以下同じ。)850メートルの地点で、針路を77度に定め、機関を全速力前進にかけたまま11.0ノットの対地速力で自動操舵により備讃瀬戸東航路を東行した。
 ところが、02時03分A受審人は、宇高東航路北上船を左舷側に替わして原針路に戻したころ、早朝からの荷役準備と積荷役の監督そして当直などで必ずしも休息を十分に取れない体調で夜間当直に就いたので、疲れのため立直し続けることに苦痛を感じる状態となった。しかし、予定の当直時間を勤めようとするあまり、休息中の次当直者である叔父と早目に交替するなどして居眠り運航の防止措置をとることなく、少しの間のつもりでいすに腰掛けた姿勢で当直を行うようになって居眠りに陥ってしまった。
 こうして、単独当直中のA受審人が居眠りに陥ったまま続航し、02時21分第五大運丸は、男木島灯台から223度650メートルの地点において、原針路、原速力のまま男木島西岸に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。
 乗揚の結果、第五大運丸は、船首船底外板に凹損及び擦過傷を生じた。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、山口県三田尻中関港から備讃瀬戸を経て徳島県富岡港に向かう際、居眠り運航の防止措置が不十分で、男木島に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、小人数の家族船員によって荷役及び単独2交替制の船橋当直を維持しながら運航する際、夜間長時間の船橋当直中に著しく疲れを覚えるようになった場合、早朝からの荷役準備作業に続いて荷役そして船橋当直に従事し、休息を十分に取らない状態であったから、単独当直中に居眠りに陥らないよう、休息中の次当直者である叔父と交替するなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、予定の当直時間を勤めようとして、当直を交替するなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、疲れの余りいすに腰掛けて当直を続けるようになり、居眠りに陥って男木島に向首したまま進行し、同島西岸への乗揚を招き、船首船底外板に凹損及び擦過傷を生じさせるに至った。





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