日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成14年門審第25号
件名

遊漁船元洋丸遊漁船さくら丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年9月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、上野延之、橋本 學)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:元洋丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:さくら丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
元洋丸・・・船首部に擦過傷
さくら丸・・・左舷前部ブルワークを損傷、釣り客1人が溺死

原因
元洋丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主 因)
さくら丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守 (一因)

主文

 本件衝突は、元洋丸が、見張り不十分で、漂泊中のさくら丸を避けなかったことによって発生したが、さくら丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年2月4日11時30分
 関門港下関区

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船元洋丸 遊漁船さくら丸
全長 13.15メートル  
登録長   9.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 253キロワット 113キロワット

3 事実の経過
 元洋丸は、船体後部に操舵室を有するFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客7人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.56メートル船尾1.24メートルの喫水をもって、平成13年2月4日07時30分関門港門司区の第2船だまりを発し、08時00分山口県下関市長府外浦沖合の釣り場に至って遊漁を始め、その後火ノ山下潮流信号所南西方沖合に場所を移して遊漁を続けていたところ、潮流が強まってきたので再び移動することとし、11時22分半下関導灯(前灯)から090度(真方位、以下同じ。)120メートルの地点を発進して巌流島東方の釣り場に向かった。
 発進後、A受審人は、釣り客7人のうち、操舵室前方の船体中央部左右両舷に各2人を、同室後方の船尾部左舷側に2人を、同右舷側に1人をそれぞれ座らせ、自らは同室舵輪後方に置いたいすに腰を掛けて操船に当たり、関門航路北側の航路外を陸岸に沿って南下したのち、11時26分少し過ぎ下関岬ノ町防波堤灯台から059度1,380メートルの地点で、針路を228度に定め、機関を回転数毎分1,700にかけ、11.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 定針したとき、A受審人は、正船首1,300メートルのところに漂泊中のさくら丸を視認することができる状況であったが、そのころ左舷前方の目的の釣り場付近に3隻ばかりの釣り船を認めたことから、それらの釣り船の動静に気を奪われ、見張りを十分に行わなかったので、さくら丸を見落とし、同船の存在に気付かなかった。
 A受審人は、前示釣り船を注視して自船の釣り位置を思案しながら続航し、11時28分半下関岬ノ町防波堤灯台から075度600メートルの地点に達したとき、さくら丸が正船首510メートルとなり、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、見張り不十分で、このことに気付かず、同船を避けないで進行中、同時30分少し前ふと正船首方を見たところ、至近に同船を認め、急いで左舵一杯をとったが、効なく、11時30分下関岬ノ町防波堤灯台から131度270メートルの地点において、元洋丸は、船首が183度に向いたとき、原速力のまま、その船首が、さくら丸の左舷前部に後方から53度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近には微弱な北東流があり、視界は良好であった。
 また、さくら丸は、船体後部に操舵室を有するFRP製小型遊漁兼用船で、B受審人ほか1人が乗り組み、釣り客4人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.50メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、同日07時30分関門港門司区の第2船だまりを発し、下関市長府外浦沖合や壇ノ浦沖合などの釣り場で遊漁を行ったのち、11時20分ごろ同市岬之町ふ頭沖合の前示衝突地点付近に移動して機関を中立運転とし、海面上高さ約5メートルの船尾マストに白色スパンカー2枚を展張し、折からの南東風に船首を立てて漂泊を始めた。
 B受審人は、釣り客4人を、船体前部及び船体中央部の左右両舷にそれぞれ1人ずつ配置し、いずれも釣りざおによる魚釣りを再開させ、自らは操舵室後壁右舷に備えた舵輪後方に立ち、潮流の方向や強さを判断するため、船体中央部右舷側の釣り客が垂らす釣り糸の流される方向を見つめていたところ、11時26分少し過ぎ左舷正横方1,300メートルのところに元洋丸を視認できる状況であったが、潮流の状態を観察することに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かなかった。
 11時28分半B受審人は、船首が130度を向いていたとき、元洋丸が左舷船首82度510メートルとなり、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、周囲の見張り不十分で、このことに気付かず、機関のクラッチを前進に入れて移動するなど、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けた。
 B受審人は、11時30分わずか前釣り客の叫び声を聞いて左舷正横方を見たところ、至近に元洋丸を認めたものの、どうすることもできず、さくら丸は、船首を130度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、元洋丸は、船首部に擦過傷を生じ、さくら丸は、左舷前部ブルワークを損壊したが、のちいずれも修理された。また、さくら丸の釣り客2人が衝突による船体傾斜で海中に転落し、両人とも直ちに元洋丸に救助され、意識不明であった釣り客K(昭和49年3月2日生)が門司区第2船だまりから救急車で病院に搬送されたが、同人は、溺水死と検案された。

(原因)
 本件衝突は、関門港下関区において、釣り場を移動中の元洋丸が、見張り不十分で、漂泊中のさくら丸を避けなかったことによって発生したが、さくら丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、関門港下関区において、巌流島東方の釣り場に向けて移動する場合、前路の他船を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、左舷前方の目的の釣り場付近に認めた釣り船の動静に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のさくら丸に気付かず、同船を避けないで進行して衝突を招き、元洋丸の船首部に擦過傷を、さくら丸の左舷前部ブルワークに損壊をそれぞれ生じさせ、同船の釣り客1人を死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、関門港下関区において、漂泊して遊漁を行う場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、釣り客が垂らす釣り糸を見つめて潮流の状態を観察することに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向けて接近する元洋丸に気付かず、中立運転としていた機関のクラッチを前進に入れて移動するなど、衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自船の釣り客1人を死亡させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:33KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION