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平成13年横審第81号
件名

漁船第一亀吉丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年6月14日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(花原敏朗、森田秀彦、長谷川峯清)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:第一亀吉丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
B 職名:M船舶工業株式会社生産部次長兼機関課長 

損害
左舷前進軸船首側及び船尾側両軸受に損傷等

原因
ボルトの締付け点検不十分、整備の際の軸心の確認不十分

主文

 本件機関損傷は、主機及び逆転減速機共通機関台据付けボルトの締付け状態の点検が不十分であったことによって発生したものである。
整備業者が、軸系の定期整備を行う際、軸心の確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月16日17時00分
 小笠原群島父島北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一亀吉丸
総トン数 64.97トン
全長 31.74メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 698キロワット
回転数 毎分800

3 事実の経過
 第一亀吉丸(以下「亀吉丸」という。)は、昭和54年12月に進水した、一本釣り及び延縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造したT220A―ET2型と呼称するディーゼル機関を据え付けており、同社が製造したYC−850型と称する逆転減速機(以下「減速機」という。)を介してプロペラ軸を駆動し、操舵室から遠隔操縦装置により主機及び減速機の運転操作が行えるようになっていた。
 主機は、建造時、連続最大出力809キロワット同回転数毎分850のT220A―ET型原機から空気冷却器を取り外し、計画出力286キロワット同回転数毎分655のT220―T3型として搭載されたが、昭和59年11月入渠時に改めて空気冷却器を装備して臨時検査を受け、前示T220A―ET2型として再搭載されていた。
 減速機は、入力歯車が取り付けられた入力軸、同歯車と噛み合う前進入力歯車が取り付けられ、左右に配置された2本の前進軸、同前進軸の上方に位置し、2個の前進入力歯車と噛み合う後進入力歯車が取り付けられた後進軸、並びに前進及び後進各軸の船尾側にそれぞれ取り付けられた小歯車と噛み合う大歯車が取り付けられた出力軸とによって構成されていた。また、前進及び後進各軸には、スチールプレート、摩擦板及び油圧ピストンなどが組み込まれた油圧湿式多板形の前進側及び後進側各クラッチがそれぞれ取り付けられ、主機クランク軸からたわみ継手を介して入力軸が駆動され、出力軸が中間軸を介してプロペラ軸に連結されていた。そして、前示大及び小各歯車には、はすば歯車が用いられ、同歯車の回転によって前進、後進、入力及び出力各軸に生じる推力を、同各軸の前後に設けられた軸受で受けるようになっていた。
 両前進軸を支える前後4個の軸受は、水平継手フランジで上中下に3分割された減速機ケーシングの中央部分に組み込まれ、同ケーシングの船首及び船尾側軸受穴には外輪が嵌め(はめ)込まれており、ねじの呼びM16長さ40ミリメートルの鋼製ボルト8本で同外輪を固定する軸受蓋が取り付けられていた。
 ところで、主機及び減速機は、操舵室下方の機関室中央に据え付けられ、その据付けは、機関室内船底部に約890ミリメートルの間隔で船首尾線方向に取り付けた幅約200ミリメートルの左右2本のFRP製ガーダに、ねじの呼びM16のボルト(以下「据付けボルト」という。)を植え込み、同ガーダ上に鋼製の主機及び減速機共通機関台(以下「共通機関台」という。)を取り付けてダブルナットで締め付け、その上に主機及び減速機をボルト及びナットで固定するようになっており、同ガーダの側面には振動防止のため、500ミリメートル間隔のFRP製フレームごとにL型鋼が船横方向に取り付けられ、同フレームにボルトで固定して補強されていた。また、主機及び減速機を共通機関台に固定するボルトは、主機については、片側7本ずつ合計14本のねじの呼びM33長さ270ミリメートルの鋼製ボルトが、減速機については、船首側4本、船尾側4本のいずれもねじの呼びM27長さ255ミリメートルの鋼製ボルトがそれぞれ使用され、船尾側4本はリーマボルトであった。ところが、共通機関台を固定する据付けボルトは、いつしか運転中の振動によって船尾側から次第に緩み始め、共通機関台の船尾側がわずかに浮き上がる状況となり、減速機出力軸と中間軸との軸心の狂いから船体振動が次第に増加していた。
 亀吉丸は、現船主が平成5年11月に中古船として購入し、主として伊豆諸島御蔵島から南方諸島鳥島に至る海域で1航海が2週間程度のきんめだい漁に周年従事し、また、冬場には、さば漁の日帰り操業も行っていたが、いずれも操業中は、主機を回転数毎分440の停止回転とした状態が多く、主機の運転時間が年間約3,600時間であった。そして、同8年1月に第5回定期検査工事をM船舶工業株式会社(以下「M船舶工業」という。)で実施して以来、毎年12月中旬から1月中旬にかけての休漁期に、同社に入渠して船体及び機関の定期整備を行い、さらに、7月から8月にかけて盆や地元の祭りの開催時期に合わせ、3日ないし5日間の休漁期にも上架して船体の整備を行うようにしていた。
 A受審人は、平成6年2月から機関長として乗り組み、翌7年6月に職務が機関員に変更されたが、平成10年ごろからクラッチを前進または後進に入れたときの船体振動が多くなったことに気付いた。そして、同11年1月から再び機関長として機関の運転及び保守管理に当たり、2箇月ごとに主機及び減速機について、外部から点検が可能なボルト類の締付け状態の点検を実施していた。
 その後A受審人は、前示船体振動の増加からボルト類の緩みが助長されるおそれがあったので、引き続き基地に入港の都度ボルト類の締付け状態の点検を実施し、主機及び減速機の共通機関台への取付けボルトについて注意を払って点検していたものの、共通機関台の据付けボルトが緩むことはないものと思い、同ボルトが機関室の下方にあり、手が届きにくいこともあって、テストハンマーで打検を行うなど、同ボルトの締付け状態の点検を十分に行うことなく、減速機下方の同ボルトに生じていた緩みが進行し、減速機出力軸と中間軸との軸心の狂いが増大するとともに、減速機の振動が徐々に大きくなっていたことに気付かないまま、主機の運転を続けていた。
 B指定海難関係人は、昭和48年4月からM船舶工業に勤務し、機関課長として機関修理の工事担当技師を指揮監督するとともに、機関開放時や検査時などには自らも極力立ち会って整備状況を確認するようにしていた。そして、軸系工事において、プロペラ軸抜出し後の復旧に当たり、軸受を交換したり移動させたりして軸心に変化をきたすおそれのある工事を行っていなければ、軸心に変化は生じないものと考え、減速機出力軸と中間軸との接続には弾性継手が使用されて自由度があり、開放した継手などが無理なく組み込むことができ、その後の試運転で発熱などの異状がなければ、工事仕様書で特別に指示されている場合を除き、軸心を計測するなど、軸心の確認を十分に行わず、工事担当技師にもその方法で作業に当たらせていた。
 亀吉丸は、平成12年1月にM船舶工業において第6回定期検査工事を行い、プロペラ軸を抜き出し、同軸船首側スリーブの船尾管軸封装置のグランドパッキンが当たる部分に摩耗が生じていたので肉盛り補修を行うとともに、同パッキンを新替えし、また、減速機について、前進及び後進各軸を取り外し、その下方にある出力軸などを点検して復旧した。
 B指定海難関係人は、前示定期検査工事の復旧に当たり、減速機出力軸及び同軸軸受の取外し並びに船尾管軸受の交換などの工事を行っていなかったことから、減速機出力軸と中間軸との軸心に変化が生じていないものと判断し、工事担当技師に同軸心を計測させるなど、同軸心の確認を十分に行わず、共通機関台の据付けボルトが緩み、同台の船尾側が浮き上がった状態となって、同軸心に狂いが生じていたことに気付かないまま、減速機及び軸系などを復旧させた。
 亀吉丸は、前示定期検査工事後、船尾管軸封装置のグランドパッキンの新替え及びプロペラ軸船首側スリーブの肉盛り補修により、同軸と同パッキンの当たりが改善されたものの、十分に馴染んで(なじんで)なく、船尾管船首部における同パッキンによる同軸の拘束力が大きくなっていたことから、前示軸心の狂いとの相乗作用でプロペラ軸に作用していた回転曲げ応力が大きくなり、同軸の振動が増加し、共通機関台の据付けボルトが緩んで生じていた減速機の振動と相俟って(あいまって)、船体振動が同工事前に比べて大きくなっていた。
 A受審人は、船体振動の原因が分からなかったものの、同振動が前示定期検査工事前より大きくなったことに気付き、また、減速機の左舷前進軸船首側の軸受蓋締付けボルトに緩みが生じることにも気付き、点検の都度増締めを行っていたが、主機回転数の上昇に伴い、振動が軽減していたことから、依然、共通機関台の据付けボルトの締付け状態を点検せず、同ボルトが緩んでいたことに気付かないまま、操業を続けていた。
 亀吉丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首1.5メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、同12年12月12日08時30分神奈川県三崎港を発し、翌13日16時05分小笠原群島付近の漁場に至り、操業を開始したところ、振動により共通機関台の減速機付近の据付けボルトの緩みが急速に進行して軸心の狂いが増加し、船体及び減速機の振動が過大になり、減速機の左舷前進軸船首側の軸受蓋締付けボルトが振動と同軸の推力による繰返し引張り応力の作用とが相俟って、緩み出すとともに同ボルトに材料の疲労が生じ始めた。
 A受審人は、今回の操業を終えたら定期整備が予定されていたことから、そのときに前示振動が大きくなった原因を調査することとして引き続き操業を続けた。
 こうして、亀吉丸は、同月16日01時05分主機が始動され、第2回目の操業を開始したが、漁模様が芳しくなく、主機回転数を毎分550にかけ、8.0ノットの対地速力で漁場を移動中、17時00分北緯28度33分東経140度38分の地点において、減速機の左舷前進軸船首側の軸受蓋締付けボルトの全てが材料の疲労によって折損し、同軸軸受が船首方に飛び出して軸心が狂い、減速機が異音を発した。
 当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、海上は約2.5メートルのうねりがあった。
 機関当直に就いていたA受審人は、操舵室内の遠隔操縦装置を点検中に異音に気付き、機関室に赴き、主機を直ちに停止して点検したところ、前示左舷前進軸船首側軸受が外れていることに気付き、整備業者と連絡を取りながら、同軸軸受及びブッシュを組み込んで応急措置を施した。
 亀吉丸は、低速力で帰港したのち、減速機を精査した結果、減速機ケーシングの前進及び後進各軸軸受取付部に偏摩耗が、左舷前進軸船首側及び船尾側両軸受に損傷が、出力軸船首側軸受取付けボルトの全数4本に折損がそれぞれ生じ、さらに共通機関台の据付けボルトの一部脱落及び折損などが生じていることが判明し、のち損傷部品の取替え及び補修などが行われた。
 B指定海難関係人は、本件発生後、同種事故の再発防止対策として、共通機関台の振動の状況を亀吉丸と連絡を取り合って確認し、起振源の点検及び補修などの措置を講じた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機運転中に船体振動が増加した際、共通機関台据付けボルトの締付け状態の点検が不十分で、同ボルトが緩んで減速機出力軸と中間軸との軸心が狂ったまま運転が続けられ、減速機に過大な振動を生じさせ、減速機の左舷前進軸船首側の軸受蓋締付けボルトに緩みが生じたことによって発生したものである。
 整備業者が、軸系の定期整備を行う際、軸心の確認を十分に行わず、共通機関台据付けボルトが緩んで減速機出力軸と中間軸との軸心が狂ったまま復旧したことは、本件発生の原因となる。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機運転中に船体振動が増加した場合、共通機関台据付けボルトに緩みが生じ、減速機出力軸と中間軸との軸心が狂って起振源となることがあるから、同ボルトの緩みの有無が分かるよう、テストハンマーで打検を行うなど、同ボルトの締付け状態の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、共通機関台据付けボルトが緩むことはないと思い、同ボルトの締付け状態の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同ボルトが緩んでいたことに気付かないまま、主機の運転を続け、減速機に過大な振動が生じて同機の左舷前進軸船首側の軸受蓋締付けボルトが緩み、同軸のはすば歯車の回転によって生じる推力による繰返し引張り応力が作用して同ボルトに材料の疲労を生じさせる事態を招き、同ボルトが折損し、同軸軸受及び減速機ケーシングなどを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、軸系の定期整備を行う際、軸心の確認を十分に行わず、共通機関台据付けボルトが緩んで減速機出力軸と中間軸との軸心が狂ったまま復旧したことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件後、共通機関台の振動の状況を亀吉丸と連絡を取り合って確認し、起振源の点検及び補修などの措置を講じ、同種事故の再発防止対策を施している点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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