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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年長審第75号
件名

漁船白鴎丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年5月23日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、半間俊士、寺戸和夫)

理事官
弓田

受審人
A 職名:白鴎丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
ピストンとシリンダライナのしゅう動面及び過給機の軸受焼損

原因
主機始動後の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機始動後の点検が不十分で、潤滑油系統のこし器から潤滑油が漏洩したまま運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月11日16時10分
 長崎県二神島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船白鴎丸
総トン数 14.00トン
登録長 14.97メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 242キロワット
回転数 毎分1,900

3 事実の経過
 白鴎丸は、昭和58年7月に進水した中型まき網漁業の漁獲物運搬に従事するFRP製漁船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社製の6KEK−DT型機関を装備していた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室の潤滑油が機関直結の潤滑油ポンプで吸引加圧され、同ポンプ出口のこし器を経てサーモスタット及び冷却器で温度が、調圧弁で圧力がそれぞれ調整され、その後シリンダブロック内部のオイルギャラリーと過給機に分岐され、オイルギャラリーに至った潤滑油は、ピストン冷却用のジェットノズル、カム軸受、主軸受及びクランク軸歯車などに供給されたのち、再びクランク室に戻るもので、同室の検油棒の上限線までの量は40リットルであった。
 潤滑油系統のこし器は、目の大きさが15ないし40ミクロン、外径104ミリメートル(以下、ミリという。)内径54ミリ高さ232ミリのろ紙エレメントを内蔵した複式で船首尾方向に取り付けられ、潤滑油は、こし筒の外周から入ってろ過されたのち同筒の中心部を通って上方から出るようになっており、こし器本体の外側ケースはこし筒の中心を貫通する長さ316ミリねじの呼びM16のつば付きボルトでこし器の上部カバーに取り付けられ、外側ケースと上部カバーとの間は同ケースの溝に取り付けたOリングによって密封されていた。
 潤滑油の圧力については、運転中は調圧弁によって4.4ないし5.4キログラム毎平方センチメートル(以下、キロという。)に調整され、圧力低下の警報は、工場出荷時1.5ないし2.5キロに設定されていたが、最近は圧力スイッチのスプリングの固着によって1.0キロで作動するようになっていた。
 A受審人は、夕刻出港、翌朝帰港する操業形態で月間2ないし3週間出漁し、1回の出漁において主機を約15時間運転しており、主機の始動は操舵室から遠隔で、停止は機側で手動で行うようになっていたが、乗船以来機関に異状がないので大丈夫と思い、機関室に赴いて始動後の機関の各系統及び各部の点検を十分に行うことなく機関の運転を続けていた。
 ところでA受審人は、4箇月毎に潤滑油の全量、こし器のろ紙エレメント及びOリングを交換していたが、平成12年11月潤滑油とろ紙エレメントの定期交換を行ったとき、新しいOリングの装着が容易でなかったことから旧リングをそのまま使用し、作業終了直後に試運転を行って漏洩などの異状がないことを確かめたものの、Oリングの弾力性が失われて外側ケース取付けのつば付きボルトの締付力が不十分であったことから、いつしか船首側こし器のOリング部から潤滑油が漏れ始め、やがて機関の振動とともにつば付きボルトも緩んで漏れが増えるようになったが、このことに気付かないまま運転を続け、翌13年3月に入ると潤滑油の補給を頻繁に行うようになった。
 こうして白鴎丸は、同月11日A受審人ほか1人が乗り組み、同受審人が主機を点検後クランク室の潤滑油を検油棒の上下限線の8分目から上限線まで補給し、いつものとおり操舵室から遠隔で始動して14時00分船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水で長崎県星鹿漁港を発し、二神島周辺の漁場へ向け主機の回転数を毎分1,800の全速力で航行中、潤滑油こし器船首側の外側ケース取付けつば付きボルトの緩みが進行して同ケースのOリング部から潤滑油が大量に漏洩し、同油圧力が圧力低下警報作動値近くまで急速に低下した状態で運転され、機関内部の潤滑とピストンの冷却が著しく不良となり、16時10分二神島灯台から真方位010度1.4海里の地点において、全シリンダのクランクピン軸受メタル、ピストンとシリンダライナのしゅう動面及び過給機の軸受がそれぞれ焼損した。
 当時、天候は曇で風力2の北北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 その結果、白鴎丸は、主機の回転数が急激に低下し始め、船橋当直中のA受審人が驚いて操舵室の主機操縦ハンドルを停止回転としたところ、潤滑油圧力低下警報を発すると同時に機関が自停した。
 A受審人は、機関室に急行して同室に多量の煙と異臭が充満し、主機潤滑油こし器の周囲が真っ黒に汚損し、同こし器船首側の外側ケースが脱落寸前まで緩み、クランク室の油量も検油棒に油が付着しないほどに減少していることなどを認め、以後の主機の運転及び運航を断念して僚船に曳航を依頼した。
 白鴎丸は、同日19時30分、発航地に引き付けられ、のち、焼損した各部品などを新替え修理した。

(原因)
 本件機関損傷は、主機を始動した際、機関の各系統及び各部の点検が不十分で、潤滑油系統のこし器から潤滑油が漏洩したまま機関の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機を操舵室から遠隔で始動した場合、始動直後の運転状態を確かめるよう、機関室に赴いて機関の各系統及び各部を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、これまで機関に異状が生じたことはないので大丈夫と思い、主機始動後、機関室に赴いて各系統及び各部を十分に点検しなかった職務上の過失により、潤滑油系統にある潤滑油こし器の外側ケース取付けのつば付きボルトが緩んで、同ケースのOリング部から潤滑油が漏洩していることに気付かないまま機関の運転を続け、漁場への航行中、同ボルトの緩みが進行して潤滑油系統の油量が急速に減少し、同油圧力の低下を招いて機関内部の潤滑及びピストンの冷却が著しく不良となり、全シリンダのクランクピン軸受メタル、ピストンとシリンダライナのしゅう動面及び過給機の軸受がそれぞれ焼損するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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