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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成14年長審第30号
件名

プレジャーボート寿丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成14年6月27日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:寿丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
船外機に濡れ損
乗船者に溺水、低体温症

原因
荒天模様下の人員輸送を中止しなかったこと

裁決主文

 本件転覆は、荒天模様下の人員輸送を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月29日14時35分
 長崎県五島列島東岸

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート寿丸
登録長 3.72メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 4キロワット

3 事実の経過
 寿丸は、かつて最大搭載人員2人を有していた全長4.21メートル幅1.24メートル深さ0.50メートルの、船底から約10センチメートル(以下「センチ」という。)上方に張った甲板には何らの構造物もない和船型のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、息子2人とその友人3人に釣りをさせるため、平成14年4月29日8時25分長崎県有川湾の筍島へ運んだのち、有川港に帰って自宅で休息し、同日13時30分同島へ迎えに向かった。
 寿丸は、前部に船首端から80センチ、後部に船尾端から70センチまでが両舷にわたって深さ35センチばかりの空所となっており、後部の空所には燃料タンクが格納されていた。船体中央部には両舷にわたる船縦70センチ深さ35センチの空所が3区画に分かれて設けられていて、中央が幅45センチの活け間で、その両側は物入れとなっており、当日は活け間の船底栓は開放され15センチほど海水が入っていた。また、両舷舷側の甲板の位置付近に直径3.5センチの排水口が前後部各1個計4個設けられており、荒天に遭って少し傾斜すれば同排水口から海水が浸入する状況にあった。
 A受審人は、寿丸を同5年ころ知人から購入したとき、船舶検査手帳など法定書類が何もなく、所有者などの変更や検査の手続をしないまま、近場の海域で遊漁の用に供していたところ、当日の朝、発表された強風波浪注意報のとおり、湾内でも徐々に風波が高まりつつあったが、筍島までの短い航程であったことから、気象について関心をもっていなかったので、昼ごろから荒天となることが予測できなかった。
 A受審人は、14時ころ筍島に至って、同島の北岸で息子たちを乗船させるにあたり、海上が荒天模様となり往航時の状況から、全員を乗せて帰港するのに不安を覚えたが、2回に分けて輸送すればよいと思い、天候の回復を待ったり、寿丸による輸送を中止し、携帯電話で知人の漁船を手配することなく、3人を乗せ、後部排水口が喫水線付近となる船首0.05メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、14時28分同島を発し、有川港に向かった。
 A受審人は、船尾で船外機を操作しながら後進で離れて南西進し、14時30分有川港B防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から311度(真方位、以下同じ。)930メートルの地点で針路を223度に定め、機関を航海速力の約4ノットにかけ、1人は船首部にいたものの、2人は右舷舷縁上に腰を掛けていたことから、船体が右舷に傾き、排水口から海水が浸入する状態で進行した。
 A受審人は、筍島を航過して間もなく、10メートルばかりに増強し、ときおり突風を混じえた南南東の風を直接受けるようになり、14時32分左舷船首から波浪が打ち込むようになって対地速力が2ノットばかりに落ちたころ、東行する小型鋼船と右舷100メートルばかり離して航過したとき、同船の波高1メートルばかりの航走波を右舷船首から受けて大量の海水が打ち込んで船内に滞留し、その後1メートルばかりに大きくなった波浪が3度ほど打ち込み、甲板上10センチを超える海水が滞留して乾舷が減少し、左舷船首から受けた波浪がますます船内に滞留する状態で続航中、14時35分防波堤灯台から303度960メートルの地点において、左舷から突風を受け、右舷舷縁上の同乗者があおむけで落水した瞬間、復原力を喪失して原速力のまま右舷方に転覆した。
 当時、天候は晴で風力5の南南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 転覆の結果、全員が海中に投げ出され、溺水や低体温症を負い、船外機に濡れ損を生じた。
 なお、筍島に残った2人は後刻A受審人の知人の漁船によって搬送された。

(原因)
 本件転覆は、強風波浪注意報が発表されている状況下、五島列島有川湾の筍島に運んだ息子たちを帰港させるとき、全員を乗船させることに不安を覚えた際、寿丸による輸送を中止することなく、波浪が増強する荒天模様の下で出航し、船内に海水が打ち込み復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、強風波浪注意報が発表された五島列島有川湾において、息子たちを筍島から帰港させるとき、全員を乗船させることに不安を覚えた場合、天候の回復を待つか、地元漁船を手配するなどして、寿丸による輸送を中止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、2回に分けて輸送すればよいと思い、寿丸による輸送を中止しなかった職務上の過失により、同船の転覆を招き、乗船者に溺水、低体温症を負わせ、船外機に濡れ損を生じさせるに至った。





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