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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年長審第11号
件名

漁船陽綾丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年6月13日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平田照彦、道前洋志、寺戸和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:陽綾丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船首船底に破口、船長及び同乗者2人が前頭骨骨折等

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年7月27日20時50分
 長崎県香焼島南方

2 船舶の要目
船種船名 漁船陽綾丸
総トン数 2.81トン
登録長 7.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 45

3 事実の経過
 陽綾丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、妻及び友人2人を乗せ、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、花火大会を見物するため、平成13年7月27日20時10分長崎県式見漁港を発し、長崎港内立神浦に向かった。
 20時20分A受審人は、三重式見港式見防波堤灯台から252度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点において、針路を伊王島にあるホテルの灯火に向首する180度に定め、機関を全速力前進にかけて14.0ノットの対地速力で、平瀬灯標の北方1海里ばかりの地点において長崎港に向けて左転する予定で手動操舵により進行した。
 ところでA受審人は、夜間航行をする際、港内においては浮遊物を、港外においては無灯火の漁船を探知するため、船橋上部に設置されている探照灯を点灯して前方を照射することにしていたことから、当時も探照灯で前方を照射していて、周囲の航路標識の灯火などが見えにくく、船位の確認が困難な状況であったうえ、夜間、長崎港に入港するのは初めてであったが、昼間には何回も入港したことがあるので大丈夫と思い、予定どおり転針できるよう、探照灯を消したうえ、GPSを活用するなど船位の確認を十分に行わないで続航した。
 20時34分A受審人は、長崎港に向かう転針予定地点に達したが、探照灯に照射されている海面を見ながら進行していたので、これに気付かず、やがてほぼ船首に見えてきた平瀬灯標の灯火を左舷側につけ回して大中瀬戸に至り、大中瀬戸北灯台の灯火を見たとき、これを長崎港神ノ島近くの航路標識の灯火と思い、間もなく左転して進行中、前方に照射された陸岸を認めて左舵一杯としたが及ばず、20時50分肥前黒瀬灯台から122度1,870メートルの横島東方の浅所に、原速力のまま乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、船首船底に破口を生じたが、のち修理され、A受審人が4箇月の加療を要する前頭骨骨折、同乗者Sが平成14年5月16日現在も通院を要する第2頚椎椎弓骨折、同Oが2週間の加療を要する右側頭部打撲傷などをそれぞれ負った。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、長崎県式見漁港から長崎港に向かう際、船位の確認が不十分で、浅所に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、花火大会を見物するため、探照灯で前方を照射して長崎県式見漁港から長崎港に向かう場合、夜間に入港するのは初めてであったから、予定地点で転針できるよう、探照灯を消したうえ、GPSなどで船位の確認を十分行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、昼間には何回も入港したことがあるので大丈夫と思い、探照灯を点灯したまま、GPSなどで船位の確認を十分行わなかった職務上の過失により、予定地点で転針しないまま進行して乗揚を招き、船首船底に破口を生じさせ、自身も前頭骨骨折などを負い、同乗者2人に第2頚椎椎弓骨折及び打撲傷などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、 海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 よって主文のとおり裁決する。 





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