日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年長審第8号
件名

遊漁船ブルーエンゼル乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年5月30日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(半間俊士)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:ブルーエンゼル船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
推進器、推進軸及び舵柱を曲損等

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月1日05時10分
 熊本県八代海八幡瀬戸西側沿岸

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船ブルーエンゼル
総トン数 3.6トン
全長 11.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 128キロワット

3 事実の経過
 ブルーエンゼルは、最大搭載人員13人のFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.45メートル船尾1.10メートルの喫水をもって、平成13年5月1日04時45分熊本県大多尾漁港の係船地を発し、同港内の桟橋に寄って釣り客1人を乗せ、同時52分離桟してレーダーを休止したまま、同県八代海八幡瀬戸西側沿岸の角瀬灯浮標から325度(真方位、以下同じ。)840メートルのところに設置されている釣り筏(いかだ)に向かった。
 ところで、A受審人は、平成11年8月から大多尾漁港を基地として遊漁船業を営み、八幡瀬戸西側沿岸の釣り筏や浅瀬の位置など同沿岸の水路事情はよく知っていた。
 A受審人は、大多尾漁港の防波堤を替わった後、日出前の薄暗い中、視程も1,500メートルであったので、操舵室天井の天窓から、胸から上を出して操船にあたり、機関を毎分回転数2,800の全速力前進にかけ、18.5ノット(対地速力、以下同じ。)の速力でいったん八幡瀬戸の中央部に向かい、05時00分少し前大多尾港3号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から144度1.1海里の地点に達したとき、角瀬灯浮標の灯火がかすかに見えたので、同灯火に向首する針路に転じて同瀬戸を南下した。
 A受審人は、角瀬灯浮標の灯火と同県天草下島の山陰による山立てにより、釣り筏に近づいたことを知り、05時06分少し過ぎ防波堤灯台から196度2.5海里の地点で、機関を毎分回転数1,800に下げ、12.5ノットに減速して右転し、釣り筏の方に向かう方向と思われる針路の271度に定めて進行していたところ、低い霧が立ち込める中、船首方に釣り筏の標識灯と思われる黄色の点滅灯(以下「筏標識灯」という。)をおぼろげに認めたので、それを船首目標として同一針路で進行した。
 A受審人は、GPSに釣り筏の位置を入力しておらず、筏標識灯の灯火がおぼろげであったので、GPSに表示された針路と山を見て、同筏までの距離を確認することとし、05時08分半少し過ぎ角瀬灯浮標から332度760メートルの地点で、操舵室内のGPSプロッターの画面をのぞき込み、予定針路であることを確認してすぐに前方を見たとき、折からの濃霧により、筏標識灯を視認できずに見失ったことを知ったが、釣り客を早く釣り筏に渡そうと気があせり、陸岸近くの釣り筏に向首接近していた状況で、いったん行き足を止めたうえ、休止していたレーダーを作動するなどして船位を十分に確認することなく、筏標識灯を探しながら進行した。
 A受審人は、05時09分少し前防波堤灯台から207.5度2.7海里の地点で、右舷正横やや後方に、同県立漁港離岸堤の南北両端にそれぞれ設置してある赤色及び緑色の同期した点滅標識灯をたまたま重視し、両色が混合して黄色となった灯火1灯を認めたことから、とっさにその灯火を釣り筏の標識灯と誤認し、その灯火に向首する022度の針路に転じ、同じ速力のまま、立漁港南方の岩礁に著しく接近する針路で続航中、同時10分わずか前前方目前に岩礁を認めたが、何もする間もなく、05時10分防波堤灯台から207度2.5海里の地点において、岩礁に乗り揚げ、擦過した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、釣り筏付近の視程は約100メートル、潮候は下げ潮の中央期で、日出時刻は05時33分であった。
 乗揚の結果、推進器、推進軸及び舵柱を曲損し、キール部に亀裂を生じて浸水したが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、日出前の薄明時、熊本県八代海八幡瀬戸において、霧で視界が制限された状況で、同県立漁港南方陸岸近くに設置された釣り筏に向かって航行中、向首目標としていた同筏の標識灯を見失った際、船位の確認が不十分で、同港南方陸岸近くの岩礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出前の薄明時、熊本県八代海八幡瀬戸において、霧で視界が制限された状況で、同県立漁港南方陸岸近くに設置された釣り筏に向かって航行中、向首目標としていた同筏の標識灯を見失った場合、陸岸近くの岩礁に乗り揚げないよう、いったん行き足を止めたうえ、休止していたレーダーを作動するなどして船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、釣り客を早く釣り筏に渡そうと気があせり、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、たまたま重視し、灯火が混合して釣り筏の標識灯と類似の灯色となった付近の標識灯に向首進行したことにより、岩礁に著しく接近して乗揚を招き、推進器、推進軸及び舵柱を曲損させ、キール部に亀裂を生じさせて浸水させるに至った。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION