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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年門審第3号
件名

漁船第八十八天王丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年5月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、米原健一、島 友二郎)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:第八十八天王丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第八十八天王丸甲板員

損害
船底外板に凹損及び擦過傷

原因
居眠り運航防止措置不十分、服務に関する指揮・監督の不適切

主文

 本件乗揚は、適切な船橋当直体制が維持できなかったばかりか、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月11日14時07分
 大分県姫島南岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十八天王丸
総トン数 135トン
全長 43.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 860キロワット

3 事実の経過
 第八十八天王丸(以下「天王丸」という。)は、大中型まき網漁業に従事する鋼製漁船(網船)で、A受審人及びB指定海難関係人ほか16人が乗り組み、操業の目的で、船首2.2メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、平成12年12月11日08時00分愛媛県中浦漁港を発し、まき網船団付属船とともに長崎県対馬西方の漁場に向かった。
 A受審人は、船橋当直を、定係地と漁場との往復や漁場の移動時においては、07時00分から17時00分の間を2時間交替の各直2人制とし、17時00分から翌07時00分の間を自らのほか2人が当直時間を適宜分担してそれぞれ単独制として、甲板部航海当直部員の資格認定の有無及び技能・経験などを勘案して当直者の編成を行い、同当直部員が行うことのできる職務全般を委ねていたが、B指定海難関係人が同認定を受けていなかったことから、同認定を受けた甲板員と同じ当直に入れて補佐させていた。
 A受審人は、出港操船に引き続いて船橋当直に就き、機関を回転数毎分650の全速力前進にかけ、11.5ノットの対水速力で、豊後水道を速吸瀬戸に向けて進行し、11時30分佐田岬灯台から250度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点において、同瀬戸の最狭部を通過したところで、針路を姫島水道東口に向く326度に定めて自動操舵とし、次直の甲板員2人に針路及び速力などを引き継いで船橋当直を交替し、降橋して自室で休息をとった。
 天王丸は、速吸瀬戸を通過した後、南に流れる潮流を右舷船首方から受け、約5度左方に圧流されながら伊予灘西部海域を姫島水道に向けて北上した。
 一方、B指定海難関係人は、出港前夜は寝つかれず、出港当日の03時00分ごろまでテレビゲームに興じていたことから、睡眠不足の状態のまま乗船し、出港後の09時00分ごろから昼食時までの間に睡眠をとり、12時45分船橋当直に就くため、相当直者とともに昇橋しようとしたところ、相当直者から「先に行ってくれ。」と言われ、取りあえず1人で昇橋した。
 13時00分B指定海難関係人は、国東港田深沖防波堤灯台から116度2.9海里の地点において、相当直者が昇橋して来なかったことから、前直者2人と船橋当直を交替して単独で同当直に就き、引き続いて針路を326度に定め、同じ対水速力で、船首方向からの潮流に抗し、大分県国東半島東岸寄りを自動操舵によって北上した。
 ところで、A受審人は、船橋後部に注意書を掲示して船橋当直における注意事項を周知しており、また、2人当直体制を採っていたので、甲板部航海当直部員の認定を受けていない甲板員が単独で船橋当直に従事することはないものと思い、適切な船橋当直体制を維持するよう、及び当直中に眠気を催した際には報告するよう、指示を徹底していなかった。
 B指定海難関係人は、これまで相当直者と2人で船橋当直に従事していた際、約30分間隔で見張りを交替していたことから、間もなく相当直者が昇橋してくるものと思い、単独で同当直に従事していることをA受審人に報告せず、操舵室中央部で床上の高さ約70センチメートルの板の間に腰を掛けて船橋当直に当たった。
 13時30分B指定海難関係人は、姫島灯台から166度6.6海里の地点に達したころから、次第に眠気を催すようになったが、依然として、相当直者の状態を確認することも、同人が船橋当直に従事していないことをA受審人に報告することもせずに、単独で船橋当直を続け、2人で船橋当直に従事するなどして、居眠り運航の防止措置をとらないで、板の間に腰をかけたまま相当直者の昇橋を待った。
 B指定海難関係人は、姫島水道東口付近に差しかかったころから、東南東に流れる潮流を左舷船首方から受けるようになり、右方に3度圧流されて329度の実航針路及び10.7ノットの対地速力で続航中、13時40分姫島灯台から173度5.0海里の地点に至り、板の間に仰向けの状態となって居眠りに陥った。
 こうして、B指定海難関係人は、13時57分姫島灯台から203度2.5海里の、姫島水道に向ける転針予定地点に達したが、居眠りしていてこのことに気付かず、同水道に向けて転針できずに姫島に向首したまま進行し、14時07分同灯台から247度2.1海里の地点において、天王丸は、原針路、原速力のまま、姫島南岸の砂浜に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力4の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期に当たり、姫島水道付近では東南東に流れる約1ノットの潮流があった。
 B指定海難関係人は、乗揚後も目が覚めず、昇橋してきた漁ろう長に起こされてようやく事故の発生を知り、また、A受審人は、自室で休息中のところ、機関が停止したことに気付き、直ちに昇橋して事故の発生を知り、事後の措置に当たった。
 天王丸は、同日17時05分僚船などの支援を受けて離礁し、自力航行して21時50分山口県下関漁港に入港した。
 乗揚の結果、天王丸は、船底外板に凹損及び擦過傷並びに推進器翼に曲損を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、大分県姫島水道に向けて北上中、適切な船橋当直体制が維持できなかったばかりか、居眠り運航の防止措置が不十分で、姫島南岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が、甲板部航海当直部員の認定を受けていない甲板員が単独で船橋当直に従事することのないよう、及び当直中に眠気を催した際には報告するよう、指示を徹底していなかったことと、同甲板員が、相当直者が昇橋しないことを船長に報告せずに単独で船橋当直に従事したばかりか、眠気を催した際に船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、愛媛県中浦漁港から長崎県対馬沖合の漁場に向かうに当たり、船橋当直を委ねる場合、甲板部航海当直部員の認定を受けていない甲板員が単独で船橋当直に従事することのないよう、指示を徹底すべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、2人当直体制を採っているので、無認定者が単独で船橋当直に従事することはないものと思い、同指示を徹底していなかった職務上の過失により、同認定を受けた相当直者が昇橋して来なかった際の報告が得られず、同甲板員が単独で船橋当直に従事して、適切な船橋当直体制を維持することができないまま、居眠り運航となって姫島南岸に向首進行して乗り揚げ、船底外板に凹損及び擦過傷並びに推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、大分県姫島水道に向けて北上中、甲板部航海当直部員の認定を受けた相当直者を補佐して船橋当直を行うに当たり、単独で船橋当直に従事して眠気を催した際、その旨を船長に報告せず、2人で船橋当直に従事するなど居眠り運航の防止措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 以上のB指定海難関係人の所為に対しては、海難審判法第4条第3項の規定による勧告はしないが、甲板部航海当直部員の認定を受けていなかったのであるから、単独で船橋当直に従事してはならず、同認定を受けた船橋当直者を適切に補佐して安全運航に努めなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。
 





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