日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年門審第105号
件名

貨物船第一栄宝丸貨物船新瑞祥丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、上野延之、橋本 學)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:第一栄宝丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:新瑞祥丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:新瑞祥丸機関長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
栄宝丸・・・右舷船首部外板及びブルワークに凹損
新瑞祥丸・・・右舷船尾部ブルワークなどに凹損等

原因
新瑞祥丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
栄宝丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、新瑞祥丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第一栄宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第一栄宝丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月30日10時10分
 山口県三田尻中関港南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一栄宝丸 貨物船新瑞祥丸
総トン数 406トン  174トン
全長 55.63メートル 49.588メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 404キロワット

3 事実の経過
 第一栄宝丸(以下「栄宝丸」という。)は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、A受審人ほか5人が乗り組み、エチレングリコール300トンを積載し、船首2.10メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成12年8月29日15時35分大阪港堺泉北区を発し、山口県三田尻中関港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士及び甲板長による単独4時間3直制と定めて瀬戸内海を西行し、翌30日07時45分平郡水道第1号灯浮標付近で一等航海士から当直を引き継いだのち、鼻繰(はなぐり)瀬戸を経由して周防灘に入り、09時45分半三田尻灯台から120度(真方位、以下同じ。)6.0海里の地点で、針路を三田尻中関港の港口に向く296度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で進行した。
 定針したあと、A受審人は、三田尻中関港入港に合わせて再び昇橋してきた一等航海士を操舵室左舷前部で見張りに就け、自らも同室中央の操舵スタンド後方に立って見張りに当たっていたところ、09時49分三田尻灯台から120.5度5.3海里の地点に差し掛かったとき、左舷船首方約6.5海里に新瑞祥丸を初めて認め、同船の動静に留意しながら続航した。
 10時03分半A受審人は、三田尻灯台から125度2.7海里の地点に達したとき、新瑞祥丸が左舷船首28度2.0海里となり、その後、その方位が変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを知ったが、避航船である同船がいずれ自船の進路を避けるものと判断して警告信号を行わず、間近に接近しても新瑞祥丸が依然避航動作をとるものと思い、直ちに機関を停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
 A受審人は、10時09分半避航の気配が見えない新瑞祥丸に衝突の危険を感じて汽笛により短音数回及び長音1回を吹鳴し、続いて操舵を手動に切り替えて左舵一杯をとり、機関を後進に掛けたが、及ばず、10時10分三田尻灯台から134度1.55海里の地点において、栄宝丸は、269度に向首し、7.5ノットの対地速力になったとき、その右舷船首が、新瑞祥丸の右舷後部に前方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の東南東風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、新瑞祥丸は、専ら瀬戸内海の諸港間において鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、B及びC両受審人が乗り組み、空倉のまま、船首0.60メートル船尾2.40メートルの喫水をもって、同月30日06時00分関門港小倉区砂津泊地を発し、山口県徳山下松港に向かった。
 ところでC受審人は、新瑞祥丸を所有する有限会社Y海運の社長を勤めるとともに、平成3年8月に同船が就航して以来、船長として乗り組んでいたところ、同11年12月それまで乗船していた機関長が下船したことから、B受審人を雇い入れて船長で乗り組ませ、自らは機関長として乗り組むようになったものの、それまでどおり、運航会社との連絡をはじめ同船の運航に関する業務のほか、船橋当直時間の決定や出入港操船などにも当たっていた。
 06時50分ごろB受審人は、部埼北方沖合でC受審人と交替して単独の船橋当直に就き、周防灘北部を東行中、09時30分佐波島灯台から163度1.1海里の地点で、再び昇橋してきたC受審人が当直を交替する旨を告げたので、同受審人に当直を引き継いで降橋し、その後上甲板左舷中央部でハッチコーミングの塗装作業を始め、C受審人は、船橋当直に就き、針路を067度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で、船橋の全ての窓及び扉を閉鎖し、操舵スタンド後方に置いたいすに腰を掛けたまま見張りに当たって進行した。
 C受審人は、09時39分半佐波島灯台から105度1.85海里の地点に達したとき、針路を徳山下松港の港口に向く059度に転じて続航し、同時49分三田尻灯台から213度3.45海里の地点に差し掛かったとき、右舷船首方約6.5海里のところに栄宝丸を初めて認めたが、三田尻中関港に入港する船舶を見掛けた経験があまりなかったので、一瞥(いちべつ)して、同船は九州方面に向けて西行するので大丈夫と思い、コンパスで方位の変化を確認するなど、同船に対する動静監視を十分に行わず、その後正船首少し左舷方の、向島南東方沖合から三田尻灯台南方沖合にかけて設置されていた多数のぼんでんや旗竿に視線を移して進行した。
 10時03分半C受審人は、三田尻灯台から173度1.65海里の地点に至ったとき、栄宝丸が右舷船首29度2.0海里となり、その後、同船の方位が変わらず、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然左舷方を向いたまま、同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく進行中、10時10分わずか前汽笛を聞いて右舷方を見たところ、至近に迫った同船を認め、手動操舵に切り替えて左舵一杯をとったが、及ばず、新瑞祥丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、ハッチコーミングの塗装作業を続行中、汽笛を聞いて右舷方を見たところ、至近に栄宝丸を認め、急いで同甲板から操舵室に駆け上がる途中、衝撃を感じて衝突を知り、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、栄宝丸は、右舷船首部外板及びブルワークに凹損などを、新瑞祥丸は、右舷船尾部に凹損及び同舷ボートデッキ支柱2本に損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、山口県三田尻中関港南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行中の新瑞祥丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る栄宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、同港に向けて航行中の栄宝丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 C受審人は、山口県三田尻中関港南方沖合を同県徳山下松港に向けて東行中、右舷船首方向に栄宝丸を認めた場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、コンパスで方位の変化を確認するなど、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、一瞥して、栄宝丸は九州方面に向けて西行するので大丈夫と思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、栄宝丸が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、栄宝丸の右舷船首部外板及びブルワークに凹損などを、新瑞祥丸の右舷船尾部に凹損及び同舷ボートデッキ支柱2本に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同受審人を戒告する。
 A受審人は、周防灘北部を三田尻中関港に向けて航行中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する新瑞祥丸が避航の気配を見せず、間近に接近するのを認めた場合、直ちに機関を停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、依然新瑞祥丸が避航動作をとるものと思い、直ちに機関を停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同受審人を戒告する。
 B受審人の所為は、原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:37KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION