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平成14年広審第13号
件名

旅客船第十一日通丸プレジャーボート大西号衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成14年5月16日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、伊東由人、西林 眞)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第十一日通丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:大西号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
日通丸・・・左舷船首に擦過傷
大西号・・・船首部及び操舵室を圧壊等

原因
大西号・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険・避航動作)不遵守(主因)
日通丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、大西号が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の第十一日通丸に対し、転針して新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたことによって発生したが、第十一日通丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月17日16時58分
 瀬戸内海 岡山県宇野港沖合

2 船舶の要目
船種船名 旅客船第十一日通丸 プレジャーボート大西号
総トン数 628.76トン  
全長 54.00メートル  
登録長   6.34メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,103キロワット 88キロワット

3 事実の経過
 第十一日通丸(以下「日通丸」という。)は、岡山県宇野港と香川県直島北岸風戸港(せとこう)との間の定期運航に従事する前部船橋型の旅客船兼自動車渡船で、日曜日を除く毎日06時25分宇野港発の第1便から18時55分風戸港発の最終便まで1日8往復し、A受審人ほか3人が乗り組み、車両1台及び旅客1人を乗せ、船首1.0メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成13年9月17日16時50分船尾係留していた宇野港第1突堤を離岸して第7便の運航を開始し、風戸港に向かった。
 A受審人は、出航操船に続いて単独で船橋当直に就き、船橋前部の操舵用コンパス後方に立って手動操舵と見張りにあたりながら港内を南下し、16時52分讃岐寺島灯台(以下「寺島灯台」という。)から303度(真方位、以下同じ。)1,430メートルの地点に達したとき、寺島北方を経て直島の重石鼻東方約300メートルにある風戸港係留岸壁に向かうため、寺島灯台北方に向け左転しようとしたところ、右舷前方の葛島北方沖合に東行中の小型貨物船を認め、予定針路に向け転針すれば同船と衝突のおそれが生じる状況であったので、同船が船首方向を替わってから転針することとし、針路を156度に定めて機関を全速力前進にかけ、折からの西南西流により右方に6度ばかり圧流されながら、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 16時54分半A受審人は、直島北西方灯浮標に接近したとき、東行中の貨物船の船尾が約60メートルで左方に替わったので左舵をとり、同時55分半寺島灯台から265度800メートルの地点で、針路を同灯台の北方200メートルに向首する072度に転じ、その後船首方向からの潮流に抗して8.5ノットの速力で続航した。
 16時56分A受審人は、左舷船首12度1,000メートルの、寺島と京ノ上臈島間の水道のほぼ中央に、左舷を対して無難に航過する態勢で西行する大西号を初認し、その後操船目標の寺島灯台付近を見ながら潮通シノ瀬戸沖合を直島北岸寄りに進行した。
 16時57分A受審人は、左舷船首24度500メートルに接近した大西号が、自船の前路に向けて左転し、新たな衝突のおそれのある関係が生じたが、同船がそのまま西行するものと思い、右舷船首方の寺島灯台の方に留意し、航過するまでその動静を十分監視していなかったので、このことに気付かず、速やかに機関を後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらないで続航した。
 16時57分半A受審人は、左舷前方に視線を向けたとき、200メートルに近づいた大西号が自船の前路に向け進行中であることを知り、衝突の危険を感じて汽笛で短音数回を吹鳴したが、依然同船が直進を続けるので再度汽笛で短音数回を吹鳴して右舵20度をとるとともに、機関の回転を減じてクラッチを中立としたが及ばず、16時58分日通丸は、寺島灯台から333度200メートルの地点において、082度に向首したとき、原速力のまま、左舷船首が大西号の右舷船首に前方から68度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候はほぼ低潮時にあたり、付近には西南西方に流れる1.5ノットの潮流があった。
 また、大西号は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が単独で乗り組み、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日15時40分直島西岸の宮浦港を発し、釣りの餌を購入するため香川県井島北岸の石島漁港に向かい、16時10分同港に入港して餌とする海老を購入したあと、魚釣りを行う目的で、同時40分同港を発し、直島北岸の潮通シノ瀬戸に向かった。
 B受審人は、可航幅約1,000メートルの、寺島、京ノ上臈島間の水道の右側端を航行するため、京ノ上臈島南岸に近寄り、16時53分京ノ上臈島灯台から180度150メートルの地点で、針路を250度に定め、機関を全速力前進より少し減じ、折からの西南西流に乗じて9.5ノットの速力で進行した。
 定針したときB受審人は、右舷船首12度1.2海里に宇野港を出航した日通丸が南下中であったが、そのころ高度約15度となった太陽がほぼ真西にあって右舷船首方向の海面が反射光で輝いていたため、同方向から視線をそらし左舷側を見ていて同船に気付かなかった。
 その後B受審人は、10日ほど前に修理した潤滑油管系の漏洩箇所が気になっていたので、ときどき左舷側の寺島北岸を見ながら、舵輪を持ったまま操舵室下方の機関室入口ハッチから内部を覗きこんでいるうち、直島北西方灯浮標付近で左転した日通丸が、折から東行中の小型貨物船の後方に続いて潮通シノ瀬戸沖合を東行する状況となったが、これら両船に気付かないまま続航した。
 16時57分B受審人は、寺島灯台から001度400メートルの地点に達したとき、左舷船首22度500メートルとなった日通丸とその船首方約60メートルのところに小型貨物船が、いずれも左舷を対し無難に航過する態勢で東行していたが、依然機関室内を覗きこんでいて前路の見張りを十分に行わなかったので、これら2隻の東行船に気付かず、左舷正横に近づいていた同灯台を一べつし、釣り場の潮通シノ瀬戸入口に向けるため針路を194度に転じたところ、日通丸と新たな衝突のおそれのある関係を生じさせ、その後折からの潮流によって右方に8度圧流されながら9.0ノットの速力で進行した。
 16時57分半B受審人は、右舷船首方200メートルに迫った日通丸が汽笛で短音数回を吹鳴したものの、引き続き機関室を覗いていたのでこれに気付かず、同じ針路、速力のまま続航し、さらに接近して再び同船が鳴らした汽笛を聞いて前を見たところ、至近に迫った日通丸を初めて認め、驚いてクラッチを中立としたが及ばず、大西号は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、日通丸は、左舷船首に擦過傷を生じ、大西号は、船首部及び操舵室が圧壊し、両舷外板、ブルワーク及び左舷甲板に亀裂などの損傷を生じるとともに備え付けの電動ウインチが破損した。

(原因)
 本件衝突は、岡山県宇野港沖合において、両船が無難に航過する態勢で接近中、寺島北方を西行中の大西号が、見張り不十分で、潮通シノ瀬戸沖合を東行する日通丸の前路に向けて転針し、新たな衝突のおそれのある関係を生じさせたことによって発生したが、日通丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、宇野港沖合において、寺島と京ノ上臈島間の水道を西行中、潮通シノ瀬戸入口の釣り場に向け針路を転じる場合、同瀬戸沖合を東行中の日通丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、東行船はいないものと思い、潤滑油管系の修理箇所が気になって機関室内を覗きこみ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、無難に航過する態勢で接近中の日通丸に気付かず、左舷船首近距離に近づいた同船の前路に向け転針し、新たな衝突のおそれのある関係を生じさせて同船との衝突を招き、日通丸の左舷船首部に擦過傷を生じさせ、大西号の船首部及び操舵室を圧壊したうえ、両舷外板、ブルワーク及び左舷甲板に亀裂などの損傷を生じさせるとともに備え付けの電動ウインチを破損させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、宇野港から風戸港に向けて潮通シノ瀬戸沖合を東行中、寺島と京ノ上臈島間の水道のほぼ中央に無難に航過する態勢で西行する大西号を認めた場合、同船が航過するまでその動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、大西号がそのまま西行するものと思い、寺島灯台の方に留意し、同船が航過するまでその動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後大西号が潮通シノ瀬戸入口に向け左転し、新たな衝突のおそれのある関係が生じたことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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