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平成12年横審第128号
件名

漁船第三松栄丸運航阻害事件

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成14年3月19日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(花原敏朗、吉川 進、甲斐賢一郎)

理事官
寺戸和夫

受審人
A 職名:第三松栄丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
2次こし器汚損エレメントに目詰

原因
主機燃料油こし器の整備不十分

主文

 本件運航阻害は、主機燃料油こし器の整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月24日07時00分
 茨城県大津岬東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三松栄丸
総トン数 79トン
全長 29.13メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 411キロワット

3 事実の経過
 第三松栄丸(以下「松栄丸」という。)は、昭和55年11月に進水した、専らまぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、平成4年8月に主機がヤンマーディーゼル株式会社製造のM200−ST2型と称するディーゼル機関に換装されていた。
 主機は、A重油が燃料油に使用されており、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付され、船橋から遠隔操作ができたが、始動及び停止操作については機関室で行うようになっていた。
 松栄丸は、船首倉及び船体中心線で右舷及び左舷に仕切られた二重底タンクが燃料油タンクとして区画され、全タンクの容量の合計が59.05立方メートルであった。そして、船首倉を1番燃料油タンク(以下「1番タンク」という。)とし、後方に向かって二重底タンクに2番から6番の順番号を付していた。
 主機の燃料油系統は、前示燃料油タンクから燃料油移送ポンプで機関室内の燃料油常用タンクに送油された燃料油が、主機直結の燃料油供給ポンプで加圧され、ボッシュ式燃料噴射ポンプから燃料噴射管を経て燃料噴射弁に至り、燃焼室内に噴射されるようになっていて、同系統には、燃料油供給ポンプの吸入側に、こし網が100メッシュの複式こし器(以下「1次こし器」という。)及び株式会社オリドエンジニアリング製造のF−302型と称するこし器(以下「2次こし器」という。)が、また、同ポンプ吐出側に濾過(ろか)精度が42ミクロンのノッチワイヤ式こし器(以下「3次こし器」という。)がそれぞれ装備されていた。
 ところで、2次こし器は、主機が換装される前から装備されていたもので、濾過精度が1ないし3ミクロンで、セルロース繊維を加工してロール状に巻いたカートリッジ式フィルタエレメント(以下「エレメント」という。)が直径324ミリメートル深さ200ミリメートルの円筒形のハウジング内に上下2段に設けられたエレメントホルダで保持されていた。また、ハウジング上部には蓋(ふた)がV型締付けバンドで取り付けられ、Oリングで気密を保つようになっていて、蓋の中央部に空気抜き弁が備えられていた。そして、ハウジング底部にドレン弁が取り付けられ、ハウジングの下方には燃料油の入口弁、出口弁及びバイパス弁が配置されていて、こし器の入口側に圧力計が、出口側に連成計がそれぞれ取り付けられ、差圧を計測できるようになっていたものの、いつしか、圧力計及び連成計いずれも取り外されていた。また、エレメントは、汚損して目詰まりを生じたときには新替えする必要があり、表層部の汚れを除去するだけでは内部の目詰まりの解消にはならず、十分な再生効果が得られるものではなかった。
 松栄丸は、1航海を約1箇月の期間として、日本近海の北太平洋海域での操業に周年従事し、毎年6月から7月にかけての1箇月及び年末年始にかけての2週間を休漁期間としていた。
 A受審人は、平成元年3月から機関員として乗り組み、同5年8月に機関長に昇格して主機の運転及び保守管理に当たり、燃料油の管理について、搭載後は、1番タンクから順次使用することとし、6番燃料油タンクをいつも最後に使用するため、燃料油搭載時に残油と新油が混合することが多く、同タンクの使用中には、2次こし器の汚れが多くなることを承知していた。また、燃料油系統の定期整備を、1次こし器については、1週間ないし10日ごとにこし網を掃除し、2次こし器については、同時期にエレメントの上部に堆積したスラッジなどの汚れを除去するとともに、2箇月ごとにエレメントを新替えし、3次こし器については、1次こし器及び2次こし器の汚れが多いときに開放掃除するようにしていた。
 松栄丸は、同11年8月14日から6番左舷側燃料油タンクの使用を開始し、同月17日千葉県銚子港に入港して燃料油43.5キロリットルを搭載後、A受審人が、燃料油タンクの使用を1番タンクに切り替えた。
 A受審人は、これより前、8月1日に燃料油系統の定期整備を行い、2次こし器のエレメントについて、新替えは行わずに上部に堆積していたスラッジなどを除去して掃除を行ったのみで、その後整備を行っていなかったこともあり、8月23日銚子港出港に先立ち、同定期整備として、2次こし器の蓋を開放したところ、6番左舷側燃料油タンクを使用中に汚損し、エレメントが目詰まりで新替えを要する状況になっていたが、エレメントの上部に堆積しているスラッジを取り除けば大丈夫と思い、エレメントを新替えするなど、同こし器を十分に整備することなく復旧した。
 こうして、松栄丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、8月23日13時00分銚子港を発し、北緯37度東経159度付近の漁場に向け航行中、2次こし器の目詰まりが進行し、主機への燃料油の供給が著しく阻害され、07時00分北緯36度50分東経144度05分の地点において、主機が燃焼不良を生じ、回転数が低下するとともに黒煙を発した。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 自室で休息していたA受審人は、船長から機関の異状を知らされ、直ちに機関室に赴き、主機を停止して点検したものの、2次こし器を開放整備しなかったので、依然として燃料油の供給が阻害されたまま、主機の始動ができず、運転不能と判断してその旨を船長に報告した。
 松栄丸は、その後来援の引船により銚子港に曳航(えいこう)されたのち、2次こし器エレメントの新替えが行われた。

(原因)
 本件運航阻害は、出港するに当たり、主機燃料油系統の定期整備を行う際、2次こし器の整備が不十分で、同こし器が目詰まりし、燃料油の供給が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、出港するに当たり、主機燃料油系統の定期整備を行う場合、2次こし器が汚損してエレメントに目詰まりを生じていたのであるから、運転中に燃料油の供給が阻害されることのないよう、エレメントを新替えするなど、2次こし器の整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、エレメントの上部に堆積していたスラッジを取り除けば大丈夫と思い、2次こし器の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、目詰まりしていたエレメントを継続使用し、主機運転中に燃料油の供給が阻害される事態を招き、主機の運転ができないまま、来援した引船に曳航されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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