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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年長審第69号
件名

漁船第二十八輝吉丸機関損傷事件
二審請求者〔理事官弓田雄〕

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年3月28日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(河本和夫、平田照彦、平野浩三)

理事官
弓田

受審人
A 職名:第二十八輝吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
クランク軸及びピストンの焼付等

原因
主機潤滑油の性状管理不十分

主文

 本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が不十分で、各部の摩耗が進行するまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月22日16時00分
 長崎港第4区土井首浦岸壁

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八輝吉丸
総トン数 19トン
登録長 16.95メートル
機関の種類 過給機付4サイクル12シリンダ・V形ディーゼル機関
出力 485キロワット
回転数 毎分2,100

3 事実の経過
 第二十八輝吉丸(以下「輝吉丸」という。)は、昭和56年6月に進水したFRP製漁船で、長崎県西彼杵半島沿岸において中型まき網漁業の網船として、夕刻出港して翌朝帰港する形態の操業に従事し、主機として、アメリカ合衆国キャタピラー社が製造した3412型機関を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦装置を備えていた。
 ところで主機は、過給機軸受を含む各軸受が、クランク室底部に約140リットル入れられた潤滑油の循環によって潤滑されるが、クランク室ドアがない構造上、船内ではクランク室底部の拭き掃除や軸受など内部の点検ができず、定期的に潤滑油取替えを実施していても、次第にクランク室底部にスラッジがたい積し、新油と取り替えても早期に汚損・劣化が進み、各軸受の摩耗が進行するおそれがあることから、主機取扱説明書では、潤滑油性状を定期的に分析し、その結果によって潤滑油の取替えや開放整備時期を判定すること、潤滑油消費量が新造時の約3倍に増加すると開放整備を実施することなどが記載されており、年間の運転時間が約3,000時間であったところ、平成5年4月に開放整備が施行された。
 A受審人は、同年船長として乗り組んで機関部の担当も兼ね、主機の取扱いにあたっては、潤滑油、同油こし器エレメント及び過給機吸入空気フィルターエレメントを3箇月ごと同時に取り替えていたが、定期的に潤滑油を取り替えておれば問題ないものと思い、潤滑油の性状分析の依頼や同エレメント付着物の点検など性状管理を十分に行うことなく、主機の運転を続けた。
 主機は、約8年間開放整備が施行されずに運転が続けられるうち、潤滑油を取り替えても早期に汚損・劣化が進み、各部の摩耗も進んで、運転音も徐々に大きくなった。
 A受審人は、主機運転音の変化がわずかずつであったのでこれに気付かず、平成13年2月主機潤滑油こし器エレメントを取り替えた際、金属摩耗粉付着の有無を点検しなかったのでクランク軸や軸受の摩耗進行にも気付かず、開放整備後1箇月あたり約40リットルであった潤滑油消費量が約100リットルに増加していたが、定期的に潤滑油を取り替えているので主機が損傷することはないものと思って開放整備の措置をとらなかった。
 主機は、過給機軸受の摩耗が進行していたところ、同年4月19日回転数毎分1,500として魚群探索中、17時00分同県高島沖において、過給機ローター軸の下降によってインペラとケーシングが接触して破損し、ローター軸も折損して異音と黒煙を発した。
 輝吉丸は、航行不能となって僚船にえい航され、基地とする長崎港三菱重工蔭ノ尾岸壁灯台から真方位141度1,750メートルの長崎港第4区土井首浦岸壁に引き付けられた。
 A受審人は、翌20日修理業者に依頼して過給機を修理したのみで、潤滑油の性状やこし器を点検せず、潤滑油中には過給機損傷に伴う金属摩耗粉が加わり、汚損・劣化がさらに進み、主機各軸受の潤滑が阻害される状況となっていたことに気付かず、翌21日を休業ののち、翌22日15時00分出漁に備え、潤滑油量及び冷却水量に異状がないことを確認したうえ主機を始動し、停止回転数の毎分600回転として操舵室で待機した。
 こうして輝吉丸は、出港待機中、同日16時00分前示係留地点において、クランク軸及びピストンの焼付きで主機が自停した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、海上は穏やかであった。
損傷の結果、輝吉丸は航行不能となって出漁を取りやめ、主機を精査したところ、前示の焼付きによるクランク軸、主軸受、シリンダブロック軸受部、ピストン及びシリンダライナの損傷のほか、クランク軸及び主軸受の異常摩耗によるピストン行程増大からオイルジェットの損傷、ピストンとシリンダヘッドとの接触による吸排気弁、シリンダヘッドの損傷及び連接棒の曲損、長期間の熱負荷による左舷列一体型シリンダヘッド及び左舷列排気管の焼き割れなどが認められ、シリンダブロックは修理、その他の損傷部品は新替えされた。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の保守整備にあたる際、潤滑油の性状分析や潤滑油こし器付着物点検など潤滑油性状管理が不十分で、適正時期に解放整備が実施されず、各部の摩耗が進行するまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、主機の保守整備にあたる場合、同機は潤滑油中の金属分含有量などによって開放整備時期を判定しなければならないものであったから、各部の摩耗が進行するまま運転を続けて主機が損傷することのないよう、適宜潤滑油の性状分析依頼の措置をとり、潤滑油こし器の付着物を点検するなど、潤滑油の性状管理を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、3箇月ごとに潤滑油を取り替えておれば問題ないものと思い、潤滑油の性状管理を十分に行わなかった職務上の過失により、各部の摩耗が進行するまま主機の運転を続け、クランク軸、主軸受、シリンダブロック軸受部、ピストン、シリンダライナ、オイルジェット、吸排気弁、シリンダヘッド、連接棒及び排気管などに損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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