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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年門審第34号
件名

漁船第三伊豫丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年3月6日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(相田尚武、西村敏和、島 友二郎)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:第三伊豫丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
ブロワインペラの破断、ロータ軸の曲損等

原因
主機付過給機のサージング回避措置の不十分

主文

 本件機関損傷は、主機付過給機のサージング回避措置が不十分であったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月8日12時40分
 対馬北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三伊豫丸
総トン数 135トン
登録長 34.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 860キロワット
回転数 毎分600

3 事実の経過
 第三伊豫丸(以下「伊豫丸」という。)は、昭和61年10月に進水した、大中型まき網漁業に従事する鋼製網船で、主機として、株式会社新潟鐵工所が製造した6MG28BXF型と呼称するディーゼル機関を備え、主機シリンダブロックの船尾側上方には、同社が製造したNHP30BH型と称する軸流式排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を装備し、操舵室に主機及び逆転減速機の遠隔操縦装置を備えていた。
 主機は、機関メーカーからの出荷時、定格出力1,471キロワット同回転数毎分720(以下「毎分」を省略する。)の原機に負荷制限装置を付設し、計画出力860キロワット同回転数600として受検・登録されたが、就航後に同制限装置が取り外され、航海中の全速力前進の回転数を700までとして月あたり約450時間運転されていた。
 過給機は、タービン翼車、ロータ軸にスプラインにより結合されたブロワインペラ、ロータ軸を両端で支持する軸受装置及びケーシングなどで構成されていた。
 過給機の軸受装置は、玉軸受及びばねなどで構成される弾性支持機能を有するもので、玉軸受外周の内環と外環との間に8個のくら形の板ばね(以下「ばね」という。)と平板形のばね受けを挿入してロータ軸の振動を吸収し、ばねの軸方向前後に複数のステンレス製薄板(以下「シム」という。)を挿入して軸方向の位置決めと隙間の調整をするようになっていた。
 軸受装置は、時間経過に伴って玉軸受が摩耗するとともに、ばねやばね受け及びシムに摩耗や変形を生じることから、定期的な取替えを要し、メーカーでは、玉軸受の交換を4,000時間ごとに、ばねやばね受けなどの交換を16,000時間又は2年ごとにそれぞれ行うことを推奨し、このことを取扱説明書に記載していた。
 伊豫丸は、長崎県壱岐島、対馬から山口県沖合に至る日本海で、主としてあじ・さば漁に周年従事し、操業中、魚群探索時に魚影を探知したときや投網作業時に魚群を包囲し終えてレッコボートから漁網端のロープとワイヤーを受け取るときに、主機回転数を全速力前進の650ないし670から急減速してクラッチを中立とする操縦方法がたびたびとられ、急激な負荷変動により、過給機のサージングを生じる運転が行われていた。
 伊豫丸は、過給機と空気冷却器が1年ごとに開放整備され、平成11年8月に同整備が行われたとき、軸受装置の玉軸受やばねの取替え及び空気冷却器の薬品洗浄は行われたものの、その後、操業中にたびたびサージングが生じるうち、サージングによる衝撃を繰り返し受けて軸受装置のばねやシムに摩耗や変形を生じ、ロータ軸の振幅が増大してブロワインペラが同ケーシングと接触し、いつしか同インペラのスプラインすみ肉部に亀(き)裂を生じる状況となっていた。
 A受審人は、就航時から一等機関士として乗り組み、平成10年3月から機関長として機関の運転保守に当たり、過給機について、定期的に空気フィルタ及びブロワの洗浄などを行っていたところ、操業中に急激な負荷変動により、たびたびサージングが生じることを認め、主機操縦者の船長に対し、運転方法について、全速力前進から急減速しないよう要請していた。
 伊豫丸は、操業中のサージングを生じる運転が繰り返されるうち、軸受装置のばねやシムの摩耗や変形が進行するにつれてロータ軸の振幅が更に増大するようになり、ブロワインペラのスプラインすみ肉部の亀裂が進展していた。
 こうして、伊豫丸は、A受審人ほか19人が乗り組み、船首2.20メートル船尾4.10メートルの喫水をもって、操業の目的で、平成12年6月20日06時40分長崎県上五島漁港を僚船4隻とともに発し、対馬北東方沖合の漁場に向かい、15時ごろ同漁場に至って操業を開始し、越えて7月8日早朝からよこわ漁に従事し、当日2回目の操業で主機回転数を650ないし670として魚群探索にあたり、海鳥の群れから魚群を発見して主機回転数を690に増速中、過給機ロータ軸の振幅が増大してブロワインペラが同ケーシングと接触して破断し、12時40分見島北灯台から真方位304度43.5海里の地点において、過給機が大音響を発した。
 当時、天候は晴で風力5の北風が吹き、海上には白波があった。
 A受審人は、魚群探索のため操舵室で見張り中、煙突から黒煙の噴出を認めて機関室に赴き、同室で当直中の一等機関士とともにクラッチが中立とされた主機を点検し、過給機から異音がしたことから主機停止の措置をとり、過給機を開放して金属片を発見して運転不能と判断し、船長に報告した。
 伊豫丸は、僚船に曳(えい)航されて福岡県博多漁港に引き付けられ、同港において過給機を開放した結果、ブロワインペラの破断、ロータ軸の曲損、ブロワケーシング及び軸受装置の内環の損傷並びに同装置のばね及びシムの摩耗や変形などが認められ、のち過給機が完備品と取替え修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、操業中、主機を全速力前進から急減速したとき過給機がサージングすることを認めた際、サージング回避措置が不十分で、サージングによる衝撃を繰り返し受けて過給機ブロワ側軸受装置のばねなどに変形を生じ、ロータ軸の振幅が増大してブロワインペラが同ケーシングと接触したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、操業中、主機を全速力前進から急減速したとき過給機がサージングすることを認めた場合、サージングの頻発で過給機を損傷することのないよう、サージング回避措置を十分に講じなかったことは本件発生の原因となる。
 しかしながら、以上のA受審人の所為は、全速力前進から減速するときは時間をかけて行い、サージングを回避するよう、運転方法について、主機操縦者に対して要請していた点に徴し、職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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