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平成13年神審第85号
件名

漁船第三宝山丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年2月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎)

理事官
杉?忠志

受審人
A 職名:第三宝山丸機関長 海技免状:六級海技士(機関)(機関限定)

損害
軸受キャップがクランク室底部に落下

原因
主機の連接棒ボルトの整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の連接棒ボルトの整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月17日08時45分
 福井県敦賀港北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三宝山丸
総トン数 57.34トン
全長 28.57メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 588キロワット
回転数 毎分700

3 事実の経過
 第三宝山丸(以下「宝山丸」という。)は、昭和52年7月に進水した鋼製漁船で、現船舶所有者が同58年8月に購入して以来沖合底びき網漁業に従事しており、可変ピッチプロペラを推進器とし、主機として、ダイハツディーゼル株式会社が製造した6DSM−26FS型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
 主機は、各シリンダに船首側のシリンダを1番として6番までのシリンダ番号を付し、各ピストンの連接棒大端部が斜め割りセレーション合わせになっていて、軸受キャップが上下各2本の連接棒ボルトで連接棒大端に取付けられていた。
 ところで、連接棒ボルトは、全長205ミリメートル(以下「ミリ」という。)、ねじ部長さ28ミリ、ねじの呼びM24、リーマ部径25ミリのニッケルクロム鋼(材料記号SNC2)製のリーマボルトで、長期間使用すると、運転中の慣性力によって引張り応力が繰り返し作用して材料が疲労するうえ、開放整備の繰り返しによるねじ面の傷みなども考えられることから、機関メーカーでは、20,000運転時間を同ボルトの使用限度の目安とし、4年ないし6年で新替えするよう主機機関取扱説明書に記載して、取扱者に注意を促していた。
 宝山丸は、福井県敦賀港を基地として、福井県や京都府沖合の漁場で毎年4,000時間ほど主機を運転して底びき網漁に従事し、7月初めから8月末までの休漁期に船体及び機関などの整備を行っており、主機の連接棒ボルトを平成元年8月に新替えしていた。
 A受審人は、宝山丸の購入時に機関員として乗り組んだのち、平成4年7月に機関長に昇格したもので、主機については、1箇月ごとに潤滑油こし器を掃除し、毎年吸・排気弁及び燃料噴射弁等の整備を行うとともに、2年ごとに主機及び過給機を開放整備するなどして、保守管理に従事していた。
 ところで、A受審人は、主機取扱説明書を読んで、同7年8月の主機の開放整備時点において、連接棒ボルトの使用時間が取替基準に達していることを知っており、その後の同9年8月及び同11年8月の開放整備時には、取替基準を大幅に超えていることを承知していたものの、いずれのときも目視点検で異常が認められなかったことから、まだ使用できるものと思い、同ボルトを新替えせず、そのまま継続使用して主機の運転を続けていた。
 こうして、宝山丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、かに漁の目的で、船首1.40メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、同12年12月17日06時ごろ敦賀港を発して経ケ岬北方沖合約30海里の漁場に向かい、主機を回転数毎分680、プロペラ翼角を13度として航行中、主機6番シリンダの材料疲労が進行していた連接棒ボルトが破断するとともに、残りのボルトも相次いで破断し、08時45分経ケ岬灯台から真方位067度23.4海里の地点において、連接棒が振れ回って主機が大音響を発した。
 当時、天候は曇で風力1の南風が吹き、海上には少しうねりがあった。
 自室で休息していたA受審人は、大音響を聞いて直ちに機関室に急行し、船橋当直中の船長が非常停止した主機を点検したところ、6番シリンダの連接棒が右舷側に寄って軸受キャップがクランク室底部に落下しているのを認めたので、主機の運転は不可能と判断し、事態を船長に報告した。
 宝山丸は、僚船に曳航されて16時00分敦賀港に引き付けられ、修理業者による精査の結果、連接棒が曲損していたほか、ピストン、シリンダライナ及びクランク軸等も損傷していることが判明したので、のちクランク軸を研磨するとともに損傷部品を取り替えるなどの修理を行い、他のシリンダの連接棒ボルトもすべて新替えした。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の連接棒ボルトの整備が不十分で、長期間使用されていた同ボルトが、主機の運転中に材料疲労で破断したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の保守管理に当たる場合、主機の運転中に連接棒ボルトが材料疲労で破断することのないよう、取扱説明書に記載された取替基準に従って同ボルトを新替えすべき注意義務があった。ところが、同人は、目視点検で異常が認められなかったことから、まだ使用できるものと思い、連接棒ボルトを新替えしなかった職務上の過失により、主機の運転中に材料疲労が進行していた同ボルトが破断して連接棒が振れ回る事態を招き、連接棒、ピストン、シリンダライナ及びクランク軸等を損傷させるに至った。





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