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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年神審第62号
件名

漁船第十五海幸丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年2月21日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、大本直宏、西山烝一)

理事官
杉?忠志

受審人
A 職名:第十五海幸丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
吸気弁の傘部周囲が欠損、過給機のノズルリング、ロータ軸及び軸受等が損傷

原因
主機の吸気弁の点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、主機の吸気弁の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月14日10時00分
 足摺岬東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十五海幸丸
総トン数 125トン
全長 39.487メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 956キロワット
回転数 毎分335

3 事実の経過
 第十五海幸丸(以下「海幸丸」という。)は、平成元年4月に進水した沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が製造した6M30FT型と呼称するディーゼル機関を装備し、主機の船尾側架構上に、同社製のNR20/R型と呼称する排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を付設していた。
 主機は、船首側のシリンダを1番として6番までのシリンダ番号が付され、各シリンダヘッドには弁箱式の吸気弁及び排気弁が各1個装着されていて、各吸・排気弁がそれぞれ1組のロッカーアームで開閉されていた。
 また、主機の給気系統は、過給機を出て空気冷却器で冷却された空気が、給気マニホルド及び同マニホルドから各シリンダごとに分岐した給気管を経てシリンダヘッドに至り、吸気弁からシリンダ内に流入するようになっており、一方、排気系統は、各シリンダの排気弁から排出された排気ガスが、1番ないし3番のシリンダ群及び同4番ないし6番のシリンダ群の各排気マニホルドを経て過給機に導かれるようになっていた。
 ところで、吸気弁は、耐熱鋼製のきのこ形弁で、弁傘周囲の弁座との当たり面に耐磨耗性の高いステライトが溶着されていたが、当たり面に異物をかみ込むなどして燃焼ガスの吹抜けが生じると、高圧の燃焼ガスによってステライトが削り取られるとともに、燃焼ガスによる過熱と給気による冷却が繰り返されて熱疲労し、弁傘部が変形して亀裂が生じるおそれがあった。
 海幸丸は、愛媛県八幡浜港を基地として、高知県、宮崎県及び鹿児島県の各沖合で1航海が2ないし5日間の操業を繰り返しており、毎年の5月中旬ごろから8月末までの休漁期間中に船体及び機関の整備を行い、2年ごとに主機及び過給機を開放・整備し、毎年吸・排気弁の整備を行っていたが、吸・排気弁については、当たり面の大きい傷を機械加工で削除したのち摺り合わせするという整備のみを繰り返していた。
 A受審人は、平成11年8月30日、整備を終えていた海幸丸に機関長として乗り組んで機関の運転及び保守管理に携わり、主機の回転数を毎分300までとして、月間600時間ほど主機を運転して操業に従事しており、他船で吸気弁が吹抜けて給気管が発熱した経験を有していたことから、ロッカーアームの点検時には給気マニホルド及び各シリンダの給気管を時折触手点検するとともに、操業中は、主機の回転数を頻繁に上下させるので給気温度を低目に調整していた。
 ところで、A受審人は、同12年5月10日の操業中に主機の給気マニホルド及び各シリンダの給気管を触手点検した際、3番シリンダの給気管が発熱しているのに気付いたので、吸気弁が吹抜けて燃焼ガスが逆流していると判断し、翌11日の八幡浜港での水揚げ中に同シリンダの吸気弁箱を抜き出して開放・点検したところ、吸気弁の当たり面があばた状になって、一部に燃焼ガスの吹抜け傷が発生しているのを認めたが、水揚げ作業中で忙しかったうえあと数日で操業期間が終了する予定であったことから、休漁期間中に点検・整備すればよいと思い、各部品を洗浄して吸気弁の簡単な目視点検を行っただけで、カラーチェックするなど、吸気弁の点検を十分に行わずに同弁箱を復旧したので、同弁傘部に亀裂が生じていることに気付かなかった。
 こうして、海幸丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、沖合底びき網漁の目的で、船首2.50メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、同月12日10時00分八幡浜港を発し、足摺岬東方沖合の漁場に至って操業を繰り返していたところ、主機3番シリンダ吸気弁の傘部の亀裂が進行し、翌々14日10時00分足摺岬灯台から真方位077度7.6海里の地点において、主機を回転数毎分250にかけて投網中に同弁傘部周囲が3分の1ほど欠損し、シリンダ内に落下した欠損片がピストンとシリンダヘッドとに挟撃され、破片の一部が排気弁から排気マニホルドを経て過給機に侵入し、ロータ軸の羽根等が損傷して同機が異音を発した。
 当時、天候は晴で風力3の東北東風が吹き、海上には白波があった。
 A受審人は、食堂での休息中に異音に気付き、機関室に急行して異音が過給機から生じているのを認めたことから、主機3番シリンダの吸気弁が原因ではないかと考えて直ちに主機を停止し、3番シリンダの吸気弁箱を抜き出して点検したところ、吸気弁の傘部周囲が欠損しているのを発見したので、破片の一部が過給機に侵入したものと判断し、事態を船長に報告した。
 海幸丸は、僚船に曳航されて翌15日01時20分八幡浜港の岸壁に着岸し、修理業者が点検した結果、吸気弁のほか、過給機のノズルリング、ロータ軸及び軸受が損傷するとともに、主機3番シリンダのピストンとシリンダヘッドの燃焼面にも無数の打痕傷が生じていることが判明したが、ピストンとシリンダヘッドは使用可能と判断され、のち損傷部品を新替えするなどの修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理にあたり、3番シリンダの給気管が発熱しているのを認めて同シリンダの吸気弁箱を抜き出した際、吸気弁の点検が不十分で、亀裂が生じていた同弁傘部が主機の運転中に欠損し、シリンダ内に落下した欠損片がピストンとシリンダヘッドとに挟撃され、破片の一部が過給機に侵入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理にあたり、3番シリンダの給気管が発熱しているのを認めて同シリンダの吸気弁箱を抜き出した場合、燃焼ガスの吹抜けによって吸気弁に亀裂が生じているおそれがあったから、カラーチェックするなど、同弁の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、水揚げ作業中で忙しかったうえあと数日で操業期間が終了する予定だったので、休漁期に点検・整備すればよいと思い、吸気弁の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、亀裂が生じていた同弁傘部が主機の運転中に欠損し、シリンダ内に落下した欠損片がピストンとシリンダヘッドとに挟撃されて破片の一部が過給機に侵入する事態を招き、吸気弁のほか、過給機のノズルリング、ロータ軸及び軸受を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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