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平成13年神審第70号
件名

漁船第八住宝丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年2月13日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、阿部能正、黒田 均)

理事官
杉?忠志

受審人
A 職名:第八住宝丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
吸・排気弁、ピストン、シリンダヘッド及びプッシュロッドを損傷

原因
主機排気弁の整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の排気弁の整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月17日18時30分
 兵庫県明石港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八住宝丸
総トン数 199.95トン
全長 43.70メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット(計画出力)
回転数 毎分750(計画回転数)

3 事実の経過
 第八住宝丸(以下「住宝丸」という。)は、昭和54年2月に進水し、主に四国及び九州地方の各養殖施設から兵庫県垂水漁港への活魚輸送に従事する鋼製の漁獲物運搬船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したG250−E型と称するディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダには船首側から順番号を付していた。
 主機のシリンダヘッドは、中央に装着した燃料噴射弁の右舷側に2個の排気弁を、同じく左舷側に2個の吸気弁を組み込んだ4弁式で、各吸気弁及び排気弁をそれぞれのプッシュロッド及びロッカーアーム(以下「動弁装置」と総称する。)で開閉するようになっており、同装置の各軸受、弁及び接触部分には、弁腕注油タンクから弁腕注油ポンプによって強制的に潤滑油が供給されていた。
 ところで、排気弁は、弁棒直径18ミリメートル(以下「ミリ」という。)の耐熱鋼製きのこ形弁で、傘部の弁座との当たり面には耐磨耗性の高いステライトが溶着されていて、上部にバルブローテータを装着した弁が、動弁装置によって下方に押し下げられて開弁したのち、2重式の弁ばねの張力で閉弁するようになっており、弁棒が円筒形の弁案内中を上下する構造であることから、弁棒と弁案内の隙間が大きくなって燃焼生成物が侵入すると、閉弁時の動きが悪くなり、そのまま放置して閉弁途中で固着した場合には、傘部がピストン頂部と接触して損傷するおそれがあった。
 住宝丸は、主機取扱説明書に運転時間が4,000ないし5,000時間または1年ごとに吸・排気弁の整備を行うよう記載されていたものの、2年ごとの主機及び過給機の開放・整備時に吸・排気弁の整備を行っており、平成10年11月に排気弁の整備を行ったが、通常どおり各弁傘部の弁座との当たり面の摺り合わせを行っただけで、傘部の肉厚及び弁棒と弁案内の隙間が計測されず、弁及び弁案内も取り替えられずに整備を終え、その後も月間500時間ほど主機を運転しながら活魚輸送に従事していた。
 A受審人は、同11年1月に機関長として乗り組んで各機器の運転及び保守管理に携わり、主機については、回転数を毎分650までとして運転し、1箇月ごとにシリンダヘッドカバーを開放して、各部の注油状態、タペットクリアランスの調整及びバルブローテータの動きなどを点検するとともに、弁腕注油タンクの潤滑油を取り替え、各吸・排気弁棒と弁案内間に軽油を注油し、排気色が悪くなるとその都度燃料噴射弁を予備と取り替えるなどの整備を行い、5番シリンダの排気温度計が損傷して計測不能になっていたので、時々4番シリンダの排気温度計を5番シリンダに差し込んで同シリンダの排気温度を計測していた。
 その後、A受審人は、排気弁の整備を1年以上行わないまま主機の運転を続けていたところ、同12年1月下旬、主機5番シリンダの動弁装置の作動音が大きくなっているのに気付き、同シリンダの排気温度を計測して同温度が高くなっているのを認めるとともに、その後のシリンダヘッドの点検時に、5番シリンダの排気弁からのガス漏れが増加して同弁が固着気味になっていることを認めたが、弁棒及び弁案内間に軽油を注油すると動きが正常に戻ったことから、このまま運転を続けても大丈夫であろうと思い、速やかに同弁の整備を行わず、更に、排気温度計で継続的に同シリンダの排気温度を監視もせずに主機の運転を続けていた。
 こうして、住宝丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、船首2.40メートル船尾3.10メートルの喫水をもって、翌2月17日17時45分垂水漁港を発して愛媛県宇和島港に向かい、主機を回転数毎分650の全速力前進にかけて航行中、主機5番シリンダの船尾側の排気弁が固着して、同弁傘部がピストン頂部と接触して叩かれているうち、同弁傘部が半分ほど割損し、18時30分江埼灯台から真方位308度2.9海里の地点において、シリンダ内に落下した割損片がピストンとシリンダヘッドとに挟撃され、異音を発するとともに主機の回転数が低下した。
 当時、天候は晴で風力4の西風が吹き、海上に少し白波があった。
 主機の操縦ハンドル前にいたA受審人は、主機の回転数が低下したのに気付き、各シリンダの燃料を順次遮断して排気色を調べ、5番シリンダの燃料を遮断すると排気色がよくなったので燃料噴射弁が不良であると判断し、19時ごろ主機を停止して同シリンダの燃料噴射弁を取り替えたのち、主機を再始動したところ、異音は生じなくなったものの、依然として排気色が悪く排気温度も高かったので、燃料油系統に問題があるものと判断し、事態を船長に報告した。
 住宝丸は、主機5番シリンダの燃料を遮断して低速力で宇和島港まで続航し、同港で修理業者が主機及び過給機を開放・点検した結果、排気弁傘部の割損片が排気管中に留まっていて、過給機には損傷のないことが確認されたものの、吸・排気弁のほか、ピストン、シリンダヘッド及びプッシュロッドを損傷していることが判明し、のち損傷部品を新替えするなどの修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理にあたり、5番シリンダの動弁装置の作動音が大きくなって排気温度が上昇するとともに、排気弁からのガス漏れが増加して同弁が固着気味になった際、排気弁の整備が不十分で、主機の運転中に固着した排気弁の傘部がピストン頂部と接触して割損し、シリンダ内に落下した割損片がピストンとシリンダヘッドとに挟撃されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理にあたり、5番シリンダの動弁装置の作動音が大きくなって排気温度が上昇するとともに、排気弁からのガス漏れが増加して同弁が固着気味になっているのを認めた場合、1年以上排気弁の整備を行っていなかったのであるから、排気弁が固着して傘部がピストン頂部と接触することのないよう、速やかに排気弁の整備を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、弁棒と弁案内間に軽油を注油すると同弁の動きが正常に戻ったことから、このまま運転を続けても大丈夫であろうと思い、速やかに排気弁の整備を行わなかった職務上の過失により、主機の運転中に固着した排気弁の傘部がピストン頂部と接触して割損する事態を招き、シリンダ内に落下した割損片がピストンとシリンダヘッドとに挟撃され、吸・排気弁のほか、ピストン、シリンダヘッド及びプッシュロッドを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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