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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年神審第39号
件名

漁船第三金慶丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年1月24日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、前久保勝己、小金沢重充)

理事官
杉?忠志

受審人
A 職名:第三金慶丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
3番シリンダのクランクピン軸受及びクランク軸などが損傷

原因
主機冷却海水の排出状況の点検不十分、警報装置の取扱不適切

主文

 本件機関損傷は、主機冷却海水の排出状況の点検が十分でなかったばかりか、警報装置の取扱いが適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月6日18時00分
 石川県福浦港北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三金慶丸
総トン数 17トン
全長 21.40メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 360キロワット
回転数 毎分1,800

3 事実の経過
 第三金慶丸(以下「金慶丸」という。)は、平成6年12月に進水し、はえなわ(かご)漁業に従事するFRP製の漁船で、ヤンマーディーゼル株式会社が製造した6LA−ST型と呼称するディーゼル機関を主機として装備し、主機の各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付され、操舵室には、各種計器類や冷却清水温度上昇などの警報装置を組み込んだ主機遠隔操縦装置を備え、同室から主機の発停などの遠隔操作ができるようになっていた。
 主機は、直結の冷却海水ポンプ及び冷却清水ポンプによる間接冷却方式で冷却されていて、その冷却海水系統は、船底弁を経て冷却海水ポンプで吸引・加圧された海水が、空気冷却器、清水冷却器及び潤滑油冷却器を冷却したのち、操舵室右舷後方の海面上に位置する吐出口から船外に排出されるようになっていたが、同系統中に圧力計は設けられていなかった。一方、冷却清水系統は、清水冷却器で冷却された清水が、冷却清水ポンプで吸引・加圧され、各シリンダのシリンダライナ及びシリンダヘッドを冷却し、排気集合管を冷却したのち清水冷却器に戻って循環するようになっており、シリンダ出口冷却清水温度が摂氏95度以上に上昇すると、冷却清水温度上昇の警報装置が作動して、操舵室の主機遠隔操縦装置で警報ランプが点灯するとともに警報ブザーが鳴るようになっていた。
 ところで、主機製造業者は、主機の始動後には必ず吐出口から冷却海水が船外に排出されていることを確認するよう、また、冷却海水ポンプのインペラが、9枚の羽根を有する一体型のゴム製インペラで損傷しやすいことから、1,000時間ごとにインペラを点検し、2,500ないし3,000時間または1年ごとにインペラを取り替えるよう、機関取扱説明書に記載して取扱者に注意を促していた。
 A受審人は、進水時から船長として乗り組み、主機の始動前に潤滑油量及び冷却清水量を点検するとともに、2ないし3箇月ごとに潤滑油及び潤滑油こし器のフィルタエレメントを取り替え、水漏れや油漏れがあればその都度業者に修理を依頼するなどしながら、主機の運転及び保守管理に従事していた。
 ところが、A受審人は、主機が、軽油を燃料とし、年間の運転時間が2,000時間程度であったうえ、特に不具合がなかったことから、就航以来、主機の開放整備、吸・排気弁及び燃料噴射弁の整備などを行っておらず、冷却海水ポンプについても、ゴム製インペラの点検・整備を行っていなかったうえ、主機始動後にほとんど冷却海水の排出状況を点検していなかったので、いつしか、同インペラの羽根の損耗が進行し、次第に冷却海水量が減少する状況となっていたが、このことに気付かなかった。
 また、A受審人は、主機を停止すると潤滑油圧力低下などにより、警報装置が作動して警報ブザーが鳴ることから、主機を停止する前に主機遠隔操縦装置に組み込まれたブザー停止スイッチをONとしてブザーが鳴らないようにし、主機の始動後に同スイッチをブザーが鳴るOFFの状態に戻すようにしていたものの、時折OFFにすることを失念することがあった。
 平成12年6月6日、A受審人は、出漁準備のため、16時30分ごろ主機を始動したが、冷却海水が減少すれば冷却清水温度が上昇して警報装置が作動するので大丈夫であろうと思い、いつもどおり主機の始動後に冷却海水の排出状況を点検しなかったので、始動時に冷却海水ポンプのゴム製インペラ羽根が折損するなどして冷却海水量が著しく減少していたが、このことに気付かず、更に、主機の始動後に警報装置のブザー停止スイッチをOFFにすることも失念した。
 こうして、金慶丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、べにずわいがに漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同月6日17時00分富来漁港を発し、A受審人が単独で航海当直にあたり、主機の回転数を毎分1,900まで徐々に上げて漁場に向かって航行中、冷却海水量の不足によって冷却清水温度及び潤滑油温度が上昇し、冷却清水温度上昇の警報装置が作動して警報ランプが点灯したものの、警報ブザーが鳴らなかったのでA受審人が主機の異常に気付かず、そのまま温度が上昇し続けて主機の冷却及び潤滑がそれぞれ阻害され、同日18時00分海士埼灯台から真方位307度9.4海里の地点において、1番及び3番シリンダのピストンとシリンダライナとが焼き付いて主機が自停した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 操船中のA受審人は、機関室に急行したところ、冷却清水膨張タンクのキャップから水蒸気が噴出するなど、主機が過熱しているのを認めたので、主機が冷えるまで待ってターニングを試みたが果たせず、セルモータでも回転しなかったので主機の運転は不能と判断し、僚船に救助を依頼した。
 金慶丸は、僚船に曳航されて富来漁港に引き付けられ、修理業者による精査の結果、前示の損傷のほか、3番シリンダのクランクピン軸受及びクランク軸などが損傷していることが判明し、のち損傷部品を取り替えるなどの修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、主機を始動した際、冷却海水の排出状況の点検が不十分であったばかりか、警報装置の取扱いが不適切で、冷却海水が不足して冷却清水温度及び潤滑油温度が著しく上昇し、主機の冷却及び潤滑がそれぞれ阻害される状態のまま、主機の運転が続けられたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
 A受審人は、主機を始動した場合、冷却海水が不足して主機の冷却及び潤滑が阻害されることのないよう、始動後に冷却海水の排出状況の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、冷却海水が減少すれば冷却清水温度が上昇して警報装置が作動するので大丈夫であろうと思い、主機冷却海水の排出状況の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、冷却海水が不足していることに気付かないまま主機の運転を続けて冷却阻害及び潤滑阻害を招き、ピストン、シリンダライナ及びクランク軸等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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