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平成13年神審第29号
件名

引船第三旭栄丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年1月17日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、黒田 均、西田克史)

理事官
杉?忠志

受審人
A 職名:第三旭栄丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
ピストン及びシリンダライナが焼損

原因
主機のピストン抜出し整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機のピストン抜出し整備が不十分で、燃焼ガスの吹抜けを生じたまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月5日10時00分
 石川県金沢港北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 引船第三旭栄丸
総トン数 100.04トン
登録長 25.56メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,176キロワット
回転数 毎分365

3 事実の経過
 第三旭栄丸(以下「旭栄丸」という。)は、昭和48年4月に進水し、主に台船等の曳航に従事する鋼製の引船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が製造した6M31X型と称するディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
 主機の冷却は、海水による直接冷却方式で、船底弁を経て電動の冷却海水ポンプで吸引・加圧された海水が、空気冷却器及び潤滑油冷却器を冷却して冷却水入口主管に至り、同管から分岐して各シリンダライナ及びシリンダヘッド等を冷却したのち、冷却水出口集合管で合流して船外に排出されるようになっており、冬期などの海水温度が低い場合には、船外に排出される前の冷却海水の一部を冷却海水ポンプ吸入側へ戻すことができる温水戻り弁により、同弁の開度を操作して冷却海水温度を調節することができるようになっていた。
 主機のピストンは、鍛鋼製のピストンクラウンと鋳鋼製のピストンスカートとの組立形で、ピストンクラウンには4本の圧力リングが、ピストンスカートには上下に各1本のオイルリングがそれぞれ装着されており、シリンダライナとの摺動面はクランク軸の回転によるはねかけ注油方式で潤滑されるようになっていた。
 一方、主機のシリンダライナは、特殊鋳鉄製で、内周面には磨耗を抑制する目的でクロムめっきが施されており、昭和60年9月に1番から4番までが再めっきされ、同62年10月に5番及び6番が新替えされていた。
 A受審人は、平成9年1月に機関長に昇格して各機器の運転及び保守管理に従事しており、主機については、同年12月の定期検査工事で、全シリンダのピストン抜きを行って圧力リング及びオイルリングを取り替え、吸・排気弁、燃料噴射弁及び過給機などを整備したほか、潤滑油も2キロリットル全量を取り替え、その後は、同11年2月に排気弁を整備し、燃料噴射弁は3ないし4箇月ごとに抜き出して不良品を取り替えるなどの整備を行うとともに、通常航海中の回転数を毎分315までとして運転していた。
 ところで、旭栄丸は、主機の年間運転時間が2,000時間程度であったものの、主機シリンダライナのめっき層が経年磨耗によって次第に薄くなるとともに、海水温度が低い冬期においても冷却海水温度の調節が行われなかったことも影響して、いつしか、1番シリンダライナのクロムめっきが部分的に剥離し、剥離片がシリンダライナとピストンリング間にかみ込むなどしてピストンとシリンダライナの潤滑が阻害されるようになり、燃焼ガスの吹抜けが生じる状況となっていた。
 A受審人は、平成12年4月上旬、主機クランク室のオイルミスト量が増加するとともに、潤滑油消費量及び潤滑油こし器の掃除回数がいずれも増加するのを認めたが、運転時間が少ないからまだしばらくは大丈夫と思い、速やかに業者に依頼するなどしてピストン抜出し整備を行わず、そのまま主機の運転を続けていた。
 こうして、旭栄丸は、同月24日に北海道十勝港に入港したものの、依然主機のピストン抜出し整備が行われないまま、A受審人ほか3人が乗り組み、直径2メートル長さ7.5メートルの浚渫用鋼製排出管34本を、長さ5メートル幅3.4メートルのフローターと称する浮き34隻に各1本ずつ載せ、各々の管をゴム継手で縦1列に連結して曳航し、船首2.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、同月29日15時00分同港を発して石川県金沢港に向かった。
 その後、旭栄丸は、主機を回転数毎分295にかけ、約3.5ノットの曳航速力で航行しているうち、主機1番シリンダの燃焼ガスの吹抜けが次第に激しくなってピストンとシリンダライナの潤滑が著しく阻害され、越えて5月5日10時00分滝埼灯台から真方位270度8.8海里の地点において、主機が異音を発した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、機関室左舷船首部の日誌台で機関日誌を記入中に主機1番シリンダ付近から異音がするのに気付き、直ちに船橋当直者に連絡して主機を停止し、各動弁装置の点検を行ったのちにクランク室ドアを開放して内部を点検したが、主軸受及びクランクピン軸受に異常がなく、外見上は特に異常が認められなかったことから、10時20分に主機を再始動し、回転数を下げて金沢港まで航行した。同人は、航行中にも異音を認めたため、同港で再点検を行い、主機1番シリンダのシリンダライナ下部が著しく肌荒れしているのを発見したものの、シリンダヘッド開放用具がなくて船内でピストン抜出し作業が行えなかったので、その旨を船長に報告した。
 旭栄丸は、修理業者がすぐに手配できなかったうえ、同港での長時間の着岸及び錨泊が許可されなかったこともあって、会社が手配した引船に曳航されて関門港若松区に引き付けられ、同地で主機が精査された結果、1番ピストンのピストンリングが全て固着気味で第4圧力リングが合口で折損しており、ピストン及びシリンダライナが共に焼損していたので、のち不良部品を新替えするなどの修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理にあたり、クランク室からのオイルミスト量が増加するとともに、潤滑油消費量及び潤滑油こし器の掃除回数がいずれも増加した際、ピストン抜出し整備が不十分で、燃焼ガスの吹抜けを生じたまま主機の運転が続けられ、ピストンとシリンダライナの潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理にあたり、クランク室からのオイルミスト量が増加するとともに、潤滑油消費量及び潤滑油こし器の掃除回数がいずれも増加するのを認めた場合、燃焼ガスが吹き抜けてピストンとシリンダライナの潤滑が阻害されているおそれがあったから、速やかに業者に依頼するなどしてピストン抜出し整備を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、運転時間が少ないからまだしばらくは大丈夫と思い、速やかにピストン抜出し整備を行わなかった職務上の過失により、燃焼ガスの吹抜けを生じたまま主機の運転を続けてピストンとシリンダライナの潤滑阻害を招き、1番シリンダのピストン及びシリンダライナを焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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