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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成13年函審第51号
件名

漁船第三十八宝亀丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年1月16日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、織戸孝治)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第三十八宝亀丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
ブロワ翼、ブロワケーシング及びロータ軸等を損傷

原因
主機過給機のサージング防止措置不十分

主文

 本件機関損傷は、主機過給機のサージング防止措置が不十分で、玉軸受の押さえ板の亀裂が進行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月22日13時50分
 北海道釧路港南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八宝亀丸
総トン数 124.60トン
登録長 31.90メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
回転数 毎分680

3 事実の経過
 第三十八宝亀丸(以下「宝亀丸」という。)は、昭和56年9月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、可変ピッチプロペラを有し、主機として株式会社赤阪鐵工所(以下「赤阪鐵工所」という。)が製造した6U28型と呼称するディーゼル機関を備え、主機架構の船尾側上部に排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を装備していた。
 主機は、負荷制限装置の付設により計画出力735キロワット同回転数毎分550(以下、回転数は毎分のものを示す。)として登録され、プロペラ翼角(以下「翼角」という。)が同出力において20.4度であった。
 過給機は、石川島汎用機械株式会社が製造したVTR251−2型で、ブロワ翼を内蔵するブロワケーシング、タービン入口ケーシング及びタービンケーシングなどから構成され、遠心式ブロワと軸流式タービンとを結合したロータ軸が、ブロワ側軸受ケーシングのスラスト軸受を兼ねる複列玉軸受及びタービン側軸受ケーシングの単列玉軸受で支持され、熱膨張による伸びに対して同軸受の軸方向に移動できる構造になっており、ブロワ側玉軸受の外周部側面には押さえ板が装着されていた。また、ブロワケーシングから送り出される空気は、過給機下方の空気冷却器、主機の吸気管を経て各シリンダに導かれていたが、同冷却器の空気出口側にバタフライ弁が取り付けられていて、同弁から大気への放出量を調節してサージングの発生を防止する取扱いができるようになっていた。
 A受審人は、平成7年7月から宝亀丸の機関長として乗り組み、主機の運転保守にあたり、通常の全速力前進時には主機をほぼ回転数680、翼角18.8度までとして運転を繰り返していた。
 宝亀丸は、毎年9月上旬から翌年5月末までかけ回し式沖合底びき網漁の日帰り操業を続けた後、6月上旬から8月末まで休漁しており、同12年7月下旬中間検査受検の際には、業者による過給機の整備が行われた。
 ところで、宝亀丸における操業方法は、右舷側引き綱が接続されている浮標を投下し、船橋から遠隔操縦により主機を回転数680、翼角18.8度の全速力にかけ、同綱を約2,200メートル延出したところで肩折りと称して約90度右転した後、回転数660、翼角15.0度の微速力にし、さらに約100メートル延出したところで同回転数のまま翼角を3.0度に減じて投網したのちに左舷側引き綱を約100メートル延出し、再び肩折りして全速力に増速し、浮標に向かいながら同綱を延出してその残りが約100メートルのところで翼角1.5度に減じ、浮標を回収する前に翼角0度として回収後、曳網を行って揚網するもので、この繰返しが日出から日没までの間に9回ないし12回程度行われていた。
 宝亀丸は、中間検査受検を終えた後、例年どおり操業を続けるうち、翼角が減じられて主機の負荷が急激に変動することに伴い、過給機のサージングが発生し、投網前には激しいサージングが頻発する状況にあった。
 ところが、A受審人は、過給機のサージングの発生に気付き、また、メーカー側から空気冷却器のバタフライ弁の取扱いに関する助言を受けていたものの、他船と競争上操業中のサージングの発生はやむを得ないものと思い、同弁から放出する空気量を調節するなどのサージング防止措置をとることなく、その状況のままに運転を続けていた。過給機は、サージングの際の過大なスラストによりブロワ側玉軸受の押さえ板に微細な亀裂が生じた。
 こうして、宝亀丸は、A受審人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、船首1.9メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、翌13年3月22日00時00分北海道釧路港を発し、同港南東方沖合の漁場に至って操業を行い、当日5回目の浮標を投下し、主機回転数680、翼角18.8度の全速力で航行しながら引き綱を延出中、過給機のブロワ側玉軸受の押さえ板が前示亀裂の進行により破断し、13時50分北緯42度42分東経145度00分の地点において、ブロワ翼がブロワケーシングに接触し、同機が異音を発した。
 当時、天候は晴で風力3の南南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、甲板上で異音に気付き、機関室に急行して主機を点検したところ、過給機の異状を認め、その旨を船長に報告した。
 宝亀丸は、浮標を回収して操業を打ち切り、無過給とする措置をとったのち主機を低速で運転して釧路港に帰港し、過給機を精査した結果、ブロワ側玉軸受の押さえ板のほか同玉軸受、ブロワ翼、ブロワケーシング及びロータ軸等の損傷が判明し、同機を新替えした。

(原因)
 本件機関損傷は、過給機のサージング防止措置が不十分で、サージングの際の過大なスラストによりブロワ側玉軸受の押さえ板に亀裂が生じて進行し、ブロワ翼がブロワケーシングに接触したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転保守にあたり、かけ回し式沖合底びき網漁の操業中に翼角が減じられて同機の負荷が急激に変動する場合、過給機のサージングが発生しないよう、空気冷却器のバタフライ弁から放出する空気量を調節するなどのサージング防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、他船と競争上操業中のサージングの発生はやむを得ないものと思い、サージング防止措置をとらなかった職務上の過失により、激しいサージングが頻発するままに運転し、サージングの際の過大なスラストによるブロワ側玉軸受の押さえ板の破断を招き、同玉軸受、ブロワ翼、ブロワケーシング及びロータ軸等の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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