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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成13年門審第80号
件名

プレジャーボートみつ丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成14年3月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(佐和 明、米原健一、橋本 學)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:みつ丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
航海計器及び船外機に濡れ損
釣り仲間2人が死亡

原因
磯波の危険性に対する配慮不十分

主文

 本件転覆は、磯波の危険性に対する配慮が不十分で、台風接近時の発航を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年8月12日12時22分
 宮崎県一ツ瀬川河口沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートみつ丸
全長 8.04メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 84キロワット

3 事実の経過
 みつ丸は、宮崎県一ツ瀬川河口から上流約3,000メートルの左岸を係留場所とする、船外機を装備した長さ7.19メートル幅2.24メートル深さ0.85メートルのFRP製プレジャーボートで、船首及び船尾部に物入れ用ハッチが、船体中央部甲板上にGPSプロッター及び船外機遠隔操縦装置などを装備した操縦台が、また、甲板上4隅のブルーワーク下部に放水口がそれぞれ設けられており、甲板下の二重底は空気室となっていた。
 ところで、一ツ瀬川河口部は、富田漁港と称され、東方に向けて日向灘に面し、左岸に長さ371メートルの王子B導流堤及びその下流に長さ702メートルの王子A導流堤が、また、その南方135メートルの右岸に、王子A導流堤に平行した長さ537メートルの王子副導流堤がそれぞれ築造されており、同漁港に出入航するには、王子A導流堤と王子副導流堤との間を通航することになり、王子副導流堤の東端部(以下「副導流堤東端」という。)は、富田灯台から166度(真方位、以下同じ。)2,650メートルに位置していた。
 A受審人は、趣味の海釣りをするためプレジャーボートを所有し、20年以上にわたり週に数回沖合に出掛けて釣りをしていたので、一ツ瀬川河口の沖合は砂が堆積して遠浅になっており、東寄りのうねりがあるときは磯波が発生しやすく、同河口部への入出航が危険な状態になることを十分に承知していた。
 A受審人は、平成12年8月11日の天気予報で、四国南方洋上を985ヘクトパスカルの台風9号が発達しながら北上していることを知り、翌12日の釣行は中止することにしていたところ、同日朝になって釣り仲間から、前日の11日に鯛が大漁であった旨知らされたうえ釣行に誘われ、台風が接近すれば一ツ瀬川河口沖合に磯波が発生し、入出航が危険な状態になることが分かっていたが、まだ台風が遠方にあるのでしばらくは大丈夫と思い、発航を中止することなく、もう1人の釣り仲間とともにそれぞれが所有する3隻のプレジャーボートで発航することにした。
 こうして、みつ丸は、A受審人が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、12日08時40分係留場所を発し、一ツ瀬川河口の南南東方5海里ばかりの釣り場に至り、09時05分ごろ錨泊して一本釣りを開始した。
 A受審人は、南東からの長い周期のうねりを受けながら釣りを行っていたところ、釣り客を乗せた遊漁船から、うねりが高まって河口部への入航が危険な状態になってきているので戻るようにとの忠告をうけ、
12時00分富田灯台から159度5.7海里の地点を発進し、仲間の船2隻とともに帰途についた。
 A受審人は、操縦台の後ろに立って操舵と操船にあたり、12時18分副導流堤東端から191度1,500メートルの地点に達したとき、針路を副導流堤東端沖合に向く016度に定め、機関回転数を毎分3,000の半速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で、後方沖合から来るうねりと河口付近の磯波を監視しながら進行中、同時22分わずか前、高起した磯波に船尾から持ち上げられて左に急旋回し、船首が338度に向いたとき、左舷側に大傾斜して復原力を喪失し、12時22分副導流堤東端から135度150メートルの地点において転覆した。
 当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、台風9号の影響により、宮崎県北部に波浪注意報が発表され、付近には南東からのうねりで高さ約5メートルの磯波が発生していた。
 転覆の結果、みつ丸は、付近海岸に打ち上げられ、航海計器及び船外機に濡れ損を生じたが、未修理のまま売却された。また、A受審人は、海中に投げ出され、のち海上保安庁のヘリコプターに救助され、釣り仲間の船2隻も相前後して転覆し、釣り仲間2人は死亡した。

(原因)
 本件転覆は、宮崎県一ツ瀬川河口沖合に発生する磯波の危険性に対する配慮が不十分で、大型台風の接近により磯波が発生するおそれがある状況のもと、発航を中止せず、沖合からの帰途、同河口沖合において大きな磯波を受けて船体が大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、河口沖合に磯波が発生しやすい宮崎県一ツ瀬川から沖合に向かう場合、四国南方洋上を北上中の大型台風の接近により、同川河口沖合に大きな磯波が発生するおそれがあったから、発航を中止すべき注意義務があった。ところが、同人は、釣り仲間に誘われるまま、台風がまだ遠方にあるのでしばらくは大丈夫と思い、発航を中止しなかった職務上の過失により、一ツ瀬川河口沖合において高起した大きな磯波を受けて転覆を招き、みつ丸の航海計器及び船外機に濡れ損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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