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平成13年広審第13号
件名

貨物船第十五契丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成14年2月19日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、坂爪 靖、西林 眞)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第十五契丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
転覆し、積荷が流出

原因
ホールドビルジ配管系統の確認及びビルジポンプ運転後の閉弁措置不十分

主文

 本件転覆は、竣工後初めて運航する際、ホールドビルジ配管系統の確認及びビルジポンプ運転後の閉弁措置がいずれも十分でなかったことにより、多量の海水が船内に逆流したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月2日10時30分
 広島県竹原港沖合生野島北西岸

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十五契丸
総トン数 18トン
全長 23.92メートル
4.79メートル
深さ 1.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 99キロワット

3 事実の経過
 第十五契丸(以下「契丸」という。)は、専ら鉱滓を運搬する一層甲板単底構造の船尾船橋型鋼製貨物船で、広島県竹原港沖合の契島にある鉛製錬工場で生じた鉱滓を生野島の鉱滓置場に運搬していた第十二契丸(総トン数26トン)の老朽化に伴い、その代替船として平成12年6月広島県豊田郡大崎町の造船所で起工され、同年8月進水、同月30日海上試運転が行われたあと、9月1日K運輸株式会社(以下「K運輸」という。)に引き渡された。
 ところで、契丸は、荷役設備として、貨物倉前部に、門型マストと重量0.25トン長さ12.7メートルのデリックブームのほか可動式ベルトコンベアを備え、積荷の際は鉱滓が陸上のベルトコンベアから貨物倉内に積み込まれ、揚荷は同ブームに取付けられた鋼製スクレーパーと備え付けのベルトコンベアを使って行われるようになっていた。また、貨物倉は、縦10.5メートル幅3.5メートル深さ1.2メートルで、前後部がホッパー状になっており、倉口は縦横の長さが貨物倉と同じで倉口蓋がなく、高さ0.37メートルのハッチコーミング部分を含む貨物容積は約48立方メートルであった。
 貨物倉の下は、船底外板上方0.3メートルの位置に倉底板が設置されて二重底状のボイドスペースとなっており、貨物倉のビルジが倉底前後部のビルジ孔から落下して同ボイドスペースに溜まるようになっていた。貨物倉と左右船側外板の間は幅0.65メートルのボイドスペースとなっており、倉底下のボイドスペースと分離されておらず、ビルジは倉底下ボイドスペースに充満したあと両側ボイドスペースに溜まり、倉底下ボイドスペースを通じて左右に移動することができた。
 また、ボイドスペースに溜まったビルジは、機関室前部隔壁に取り付けられた仕切弁(以下「ホールドビルジ弁」という。)及び呼び径40ミリメートルのビルジ吸引管を経て、機関室左舷側の、ゴム製インペラが使用された回転式ビルジポンプにより同室左舷側の船外弁から排出されるようになっていた。
 ところで、ビルジ管系は、吸引管に逆止弁が設けられておらず、ポンプ始動時に呼び水を必要とすることから、呼び水用海水吸入弁(以下「船底弁」という。)が同ポンプ近くのシーチェストに主機冷却海水吸入弁と並んで設置され、ビルジポンプ停止後船底弁及びホールドビルジ弁を開弁したままにしておくと、海水がボイドスペースに逆流する配管となっていた。
 契丸が運搬する鉱滓は、比重2.0ないし2.2、直径2ないし4ミリメートルの粒状物質で、溶鉱炉を出るとき水を使用して粉砕されることから、積荷時にこの水分が鉱滓と一緒に貨物倉内に入るので、ボイドスペースに溜まったビルジを1日2回ほど船外に排出する必要があった。
 また、契丸は、軽荷状態では喫水0.6メートル排水量45.9トンで、満載喫水線は指定されておらず、満載状態の乾舷を5センチメートル(以下「センチ」という。)とし、そのときの貨物積載重量が84.2トンで、重心高さ(KG)がほぼ1.5メートル、横メタセンタ高さ(KM)が2.17メートルであった。
 A受審人は、昭和22年から漁船に乗り組み、平成3年K運輸に入社し、その後主に同社運航の旅客船に機関長として乗り組み、ときどき第十二契丸に甲板員として乗船していたが、船長としての乗船経験はなく、同船が契丸の就航に伴って廃船となる予定であったことから、長年第十二契丸の船長職を執っていた先輩のNが老齢のため退職することとなり、平成12年8月初め会社の人事担当者から、契丸竣工後船長として乗船するよう告げられたので、竣工までに2回ほど建造中の同船に赴き、甲板・機関等の設備について調査した。
 A受審人は、8月30日の試運転中、社内の機関整備担当者とともに乗船し、そのとき造船所技師から契丸のホールドビルジ配管系統について説明を受け、ビルジポンプが第十二契丸と同型で、始動時に船底弁を開けてポンプに海水を満たす必要があることを知ったが、ビルジ吸入管についてはフート弁が取り付けられていちいち船底弁から呼び水を注水する必要がなかった同船と同じ配管になっていると思い込み、配管図を参照するなどしてホールドビルジ配管系統を十分確認しなかったので、ビルジポンプを停止したあと船底弁及びホールドビルジ弁を開弁しておくと海水がボイドスペースに逆流することに気付かなかった。
 9月1日A受審人は、K運輸の社長とともに造船所に赴き、竣工した契丸の引渡しを受けたあと、自ら操船して契島まで航行し、同日14時40分同島フェリー桟橋に係留した。その後機関室などの機器や甲板機械などを点検し、17時00分ごろビルジポンプの試運転のため船底弁と船外弁だけを開け、同ポンプを数分間運転したあと、船底弁を閉弁し、船外弁を開弁したまま契島の自宅に帰った。
 翌2日06時30分A受審人は、フェリー桟橋に赴いて契丸に乗船し、1人で出航準備を行ったあと08時00分同桟橋を離桟し、同時05分同桟橋の近くで停船中、同受審人が運航に慣れるまでしばらくの間甲板員として乗り組んで船長の補佐にあたることとなったNと甲板員Yの2人が、竹原港から到着した旅客船から乗船し、08時10分約80メートル離れた鉱滓積荷桟橋に船首を南に向けて右舷係留した。
 着桟後A受審人は、N甲板員に積荷作業を任せて鉱滓の積込みを開始し、しばらくして積込み用ベルトコンベアが故障して荷役が中断したので、Y甲板員をともなって機関室に赴き、機関室内の機器の説明を行った。
 08時40分ごろA受審人は、ホールドビルジ弁と船底弁をそれぞれ開弁してビルジポンプを始動し、20ないし30秒運転してポンプを止め、そのころN甲板員から甲板機械が第十二契丸と少し違うので早く名札を付けるように言われて甲板上に上がることとしたが、船底弁を開けておいても海水がボイドスペースに逆流することはないと思い、ホールドビルジ弁及び船底弁を閉弁しないまま、機関室を出て甲板機械のスイッチなどに名称を記したテープを貼るなどの作業にあたった。
 その後契丸は、船底弁からの海水がビルジ吸引管及びホールドビルジ弁を経て倉底下のボイドスペースに流入する状況下、09時00分ベルトコンベアの修理が終って積荷が再開され、N甲板員が、ベルトコンベアの位置を調整して鉱滓の上部がほぼハッチコーミングの高さになるまで貨物倉の前部から順次後方に積み上げ、09時50分鉱滓67.6トンを積込み、約1度右舷に傾斜した状態で積荷が終了した。
 A受審人は、喫水を確認しなかったものの、船体が少し船尾トリムで船尾排水口が海面に達し、船体中央部で海面からブルワーク上端まで左右平均約15センチであることを確かめ、09時50分自ら操船して積荷桟橋を出航し、約800メートル東方の生野島北西岸にある鹿老渡桟橋に向かった。
 出航時契丸は、ボイドスペースに流入した海水が約16トンに達し、平均喫水1.44メートル、排水量132トンとなり、GMは0.59メートルであった。
 A受審人は、積荷桟橋を離れたあと左回頭し、そのとき船体の右傾斜により排水口から甲板上に流入した海水が右舷船尾に滞留して深さ約20センチとなり、傾斜が元に戻るのがやや緩慢で2ないし3度右舷傾斜したままであったことから、貨物の積過ぎではないかと考え、低速力で航行することとし、機関を微速力前進にかけて約3ノットの速力で進行した。
 10時10分A受審人は、鹿老渡桟橋に到着し、船首を南東に向け係留索3本で入船左舷係留し、間もなくN、Y両甲板員とともに揚荷準備にかかり、自らはY甲板員とともにブームを固定していた左右のロープを緩め、N甲板員が左舷ウインチを操作してガイワイヤを緩めたところ、船体傾斜のためブームが右舷側に振れて傾斜角が増加したので、ブームを船体中央に戻そうとしてY甲板員と2人でガイロープを左舷側に引っ張ったが、ブームを引き寄せることができず、傾斜を直そうとして貨物倉に入り、鉱滓の山をシャベルで崩して左舷側に移し始めた。
 そのころ船底弁から流入した海水は、20トンを超え、倉底下のボイドスペースに充満したうえ左右のボイドスペースと倉底の下部にも滞留し、右舷側甲板上が海水で洗われる状態となっていたところ、ブームが右舷に振れたことにより海水が右舷側に移動して傾斜角が15度に達し、右舷側ハッチコーミングから多量の海水が貨物倉内に流入するようになって更に傾斜が増加した。
 こうして契丸は、右舷に大傾斜して復原力を喪失し、10時30分竹原港竹原外港防波堤灯台から195度(真方位)1.9海里の生野島鹿老渡桟橋南側において転覆した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、波高は約0.2メートルであった。
 転覆の結果、契丸は、右舷に約110度傾斜して船側が水深2ないし3メートルの海底に接し、積荷が流出したほか、マストが変形し係留索2本が切断するとともに、機関、航海計器及び甲板機械などに濡損が生じたが、サルベージ船によって引き上げられ、のち修理された。

(原因)
 本件転覆は、広島県竹原港沖合の契島において、竣工したばかりの鉱滓運搬船を初めて運航する際、ホールドビルジ配管系統の確認及びビルジポンプ運転後の閉弁措置がいずれも不十分で、開弁されたままの船底弁からビルジ吸引管を通って多量の海水がボイドスペースに逆流し、生野島の鹿老渡桟橋に係留して揚荷の準備中、船体が大傾斜し復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、竣工したばかりの契丸に乗り組み、契島の鉱滓積荷桟橋で積荷中、船底弁を開弁してビルジポンプを運転した場合、同ポンプ停止後海水が船底弁からボイドスペースに逆流しないよう、同弁を閉弁すべき注意義務があった。しかるに、同人は、以前乗船していた第十二契丸と同じようにビルジ吸引管に逆止弁が取り付けられているものと思い、ビルジポンプ運転後船底弁を閉弁しなかった職務上の過失により、ビルジ吸引管を通ってボイドスペースに多量の海水が逆流し、揚荷準備中に船体が大傾斜して転覆を招き、積荷を流出させ、係留索切断などの損傷のほか、機関、航海計器及び甲板機械などに濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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