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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成13年神審第30号
件名

漁船金比羅丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成14年1月30日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、内山欽郎、西山烝一)

理事官
加藤昌平

受審人
A 職名:金比羅丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
浸水し沈没、のち廃船

原因
開口部の閉鎖措置不十分

主文

 本件転覆は、開口部の閉鎖措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月8日08時40分
 徳島県徳島小松島港東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船金比羅丸
総トン数 13.01トン
登録長 12.00メートル
3.13メートル
深さ 1.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 25

3 事実の経過
 金比羅丸は、底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人が妻と2人で乗り組み、たちうお漁の目的で、船首尾1.5メートルの等喫水をもって、平成12年6月8日03時00分徳島小松島港を発し、同港東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、04時15分水深約50メートルの漁場に到着し、船尾甲板の両舷に設置されたネットホーラから導いた各舷長さ約260メートルの曳網索の先端に、それぞれ長さ約1.5メートル幅約1メートルのアルミニウム製開口板を介して袋網を連結したネットホーラから袋網先端までの長さが約300メートルの漁具を使用し、投網、曳網及び揚網の一連の作業に約2時間を要する底びき網漁を開始した。
 06時30分A受審人は、オ亀磯灯標から081度(真方位、以下同じ。)6.2海里の地点で、針路を263度に定め、曳網速力を2.1ノットになるように機関回転数を調整しながら2回目の曳網を開始し、手動操舵により進行した。
 A受審人は、曳網を続け、06時40分オ亀磯灯標から081度5.8海里の地点に達したとき、左舷側から出していた曳網索が切断して船首が右方へ振られたので、直ちに機関を停止して揚網を開始し、船体が後方へ移動するとともに右舷側の曳網索を開口板まで巻き上げたところ、浮き上がった袋網が推進器翼に絡まったので、船尾船倉に設けられていた推進器翼点検用のマンホール(以下「点検口」という。)から海中に潜って絡まった網の除去作業を行うこととした。
 ところで、点検口は、船底外板から約1メートルの高さまで立ち上がった直径約50センチメートル(以下「センチ」という。)の円筒形マンホールで、長さ約2メートル幅約3メートル高さ約1.5メートルの船尾船倉内ほぼ中央に設けられ、また、同口上縁は、4個のバタフライナットで締め付けて開口部の水密を保つ蓋(以下「点検蓋」という。)が取り付けられ、漂泊しているときには、水面より約20センチ上方に位置していた。
 A受審人は、左舷船尾後部のさぶたを開けて船尾船倉に入り、点検蓋を取り外した点検口から推進器軸に足をかけてしゃがみ、息の続く限り海中に潜って手に持った包丁で網の切断を始め、時々息継ぎをしながら除去作業を続けた。
 08時20分A受審人は、身体が冷えたので上甲板にあがり、日が高くなるまで除去作業を中断し、取りあえず揚網を再開することとしたが、漂泊しているので、点検口上縁が水面下まで沈下することはないと思い、点検蓋による開口部の閉鎖措置を十分に行うことなく、船首を北方に向けて漂泊しながら網を巻き始めた。
 A受審人は、揚網中の船尾への加重で点検口上縁が水面下まで沈下し、同口から海水が船尾船倉へ流入していることに気付かないまま揚網を続け、08時30分妻から船尾船倉に大量の海水が入っている旨の報告を受け、直ちに同船倉に潜ったものの、点検蓋を閉鎖することができず、転覆の危険を感じて僚船に救助を依頼した。
 金比羅丸は、船尾喫水の増加とともに、折からの波浪を右舷方から受けて左舷方へ傾き、上甲板に積んでいた氷の左舷方への荷崩れも加わり、左舷船尾舷縁が海中に没して流入した海水が甲板上に滞留し、08時40分オ亀磯灯標から081度5.8海里の地点において、復原力を喪失して左舷側に転覆した。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、波高0.5メートルの東寄りの波浪があり、潮候は上げ潮の末期であった。
 転覆の結果、浸水が続いて同地点で沈没し、のち引き上げられたが、全損となって廃船処理された。一方、乗組員は、来援した僚船に救助された。

(原因)
 本件転覆は、徳島小松島港東方沖合において、底びき網により操業中、推進器翼に絡まった網の、点検口を開放しての除去作業を中断して揚網を開始する際、開口部の閉鎖措置が不十分で、海水が点検口から船尾船倉に流入して船尾喫水が増加するとともに、左舷方へ傾いて左舷船尾舷縁が海中に没し、流入した海水が甲板上に滞留して復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、徳島小松島港東方沖合において、底びき網により操業中、推進器翼に絡まった網の、点検口を開放しての除去作業を中断して揚網を開始する場合、点検口から海水が船尾船倉に入らないよう、開口部の閉鎖措置を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漂泊しているので、点検口上縁が水面下まで沈下することはないと思い、開口部の閉鎖措置を十分に行わなかった職務上の過失により、揚網中の船尾への加重で点検口上縁が水面下まで沈下し、海水が点検口から船尾船倉に流入して船尾喫水が増加するとともに、左舷方へ傾いて左舷船尾舷縁が海中に没し、流入した海水が甲板上に滞留して復原力を喪失し、転覆を招き、全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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