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平成13年仙審第48号
件名

貨物船冨士蔵丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年3月19日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(東 晴二、喜多 保、大山繁樹)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:冨士蔵丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
船尾部船底に破口、機関室に浸水、のち解体

原因
喫水に対する水深の余裕を確保することの配慮不十分

主文

 本件乗揚は、福島県久之浜港を満船状態で出港するにあたり、同港の沖西防波堤と南防波堤との間の防波堤入口通過時外洋からの高いうねりの影響により船体が上下することが予想される状況下、喫水に対する水深の余裕を確保することについての配慮が不十分で、高潮時を待たずに、余裕の少ない低潮時に出港したことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月10日09時56分
 福島県久之浜港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船冨士蔵丸
総トン数 499.06トン
全長 69.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット

3 事実の経過
 冨士蔵丸は、推進器として可変ピッチプロペラを、船首部にクレーンをそれぞれ装備した船尾船橋型の鋼製砂利運搬船で、福島県久之浜港において港奥部の久之浜岸壁に左舷付けで着岸していたところ、A受審人ほか4人が乗り組み、砂1,350トンを満載し、船首3.69メートル、船尾4.81メートルの喫水をもって、平成13年1月10日09時40分同港を発し、京浜港川崎区に向かった。
 ところで、久之浜港沖西防波堤(以下、防波堤及び灯台の名称については「久之浜港」を省略する。)と南防波堤との間の防波堤入口(以下「防波堤入口」という。)中央部の基準水面下の水深が約4.20メートルであること、出港時ごろの久之浜港に最も近い福島県四倉港の潮高が約100センチメートル(以下「センチ」という。)のほぼ低潮時であることにより、出港時の防波堤入口の水深は約5.20メートルであり、前示最大の船尾喫水4.81メートルに対する水深の余裕(以下「余裕水深」という。)は約40センチであった。
 そして、A受審人は、冨士蔵丸の船長として過去数十回久之浜港に入港した経験があり、その際に空船で入港し、砂を満載して出港しており、防波堤入口付近の水深については、基準水面下約4.20メートルと認識しており、また防波堤入口付近の水深は沖合からのうねり、海流などの影響により変化しやすいこと、防波堤入口の浚渫工事が毎年行われていることを知っており、今回出港するにあたって、船尾喫水を左右の標示により読み取り、トリムによる修正を加えて船尾喫水が前示のとおりであること、潮汐表で最寄りの小名浜港における潮高が88センチの低潮時であることにより、出港時の防波堤入口付近における余裕水深は約30センチと考えた。
 A受審人が考えた当時の余裕水深はおおむね実状とあまり相違はなかった。
 しかしながら、A受審人は、防波堤入口付近の高いうねりにより船体が上下することが予想され、30ないし40センチの余裕水深では防波堤入口を低潮時に航行すると乗り揚げるおそれがあったが、満船であるからうねりの影響が少ないので大丈夫と思い、また過去の出港時に何事もなかったこともあって、十分な余裕水深の確保について配慮せず、高潮時を待つことなく、今回出港したものであった。
 A受審人は、船首に一等航海士と操機長、船尾に機関長とクレーン士をそれぞれ配置して離岸時の操船に当たり、09時48分着岸時使用した右舷錨を揚げ終え、このとき180度(真方位、以下同じ。)に向首し、船尾が岸壁から約30メートル離れた状態のところ、船首尾配置を解き、引き続いて一等航海士を船首における見張りに当たらせ、その後舵輪により操舵し、翼角を適宜変更し、防波堤入口に向けて2.0ノットの対地速力で進行した。
 09時53分A受審人は、沖西防波堤灯台から305度140メートルの地点に達したとき、いったん殿上山に向く170度とし、同時54分同灯台から275度85メートルの地点で、145度に向けるとともに左舵一杯とし、舵効を上げるため翼角を上げ、その後東ないし南東方からの高いうねりにより船体が上下するなか、沖西防波堤と南防波堤に近寄らないように注意し、2.5ノットの対地速力で、沖西防波堤灯台を50メートルばかり離して付け回した。
 09時56分少し前A受審人は、沖防波堤に向く090度とし、同針路で南防波堤が右舷にかわったならば右転するつもりで進行中、09時56分沖西防波堤灯台から135度60メートルの地点において、冨士蔵丸は、船尾部を浅所に乗り揚げ、行きあしが停止した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、東ないし南東方からの高さ2ないし3メートルのうねりがあり、潮候はほぼ低潮時であった。
 乗揚後A受審人は、浅所から離れようと努めるうち、次第に船首が北方を向くとともに沖西防波堤に近付くので両舷錨を投じ、船首部船底が同防波堤の消波ブロックに寄せられたことから積荷の投棄を始めたが、やがて主機が停止したので救命いかだを降ろして自分以外の乗組員を移乗させ、これを漁船に引かせて上陸させた。
 その後A受審人は、機関室へ大量に浸水しているのを認め、船体が右に傾斜し始めたので海中に逃れ、漁船に救助された。
 乗揚の結果、冨士蔵丸は、船尾部船底に破口を、船首部左舷船底に凹損を生じ、機関室に浸水して着底し、のち引き上げられ、解体された。

(原因)
 本件乗揚は、福島県久之浜港を満載状態で出港するにあたり、防波堤入口通過時外洋からのうねりの影響により船体が上下することが予想される状況下、余裕水深確保についての配慮が不十分で、高潮時を待たずに、余裕水深の少ない低潮時に出港したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、福島県久之浜港を出港する場合、防波堤入口通過時うねりにより船体が上下することが予想され、低潮時に出港すると余裕水深が少なかったから、十分な余裕水深を確保できるよう、高潮時を待つべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、満船であるからうねりの影響が少ないので大丈夫と思い、高潮時を待たずに、余裕水深の少ない低潮時に出港した職務上の過失により、うねりの影響により船体が上下するなか、防波堤入口通過時乗揚を招き、全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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