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 海難審判庁裁決録 >  2002年度(平成14年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年門審第92号
件名

貨物船第十一八幡丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成14年1月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、佐和 明、島 友二郎)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第十一八幡丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第十一八幡丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)(履歴限定)

損害
船首船底部に凹損及び擦過傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年11月9日04時15分
 広島県因島市八重子島

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十一八幡丸
総トン数 497トン
全長 70.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第十一八幡丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A及びB両受審人ほか2人が乗り組み、スラグ997トンを積載し、船首3.10メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成11年11月9日00時55分岡山県水島港を発し、福岡県苅田港に向かった。
 ところで、第十一八幡丸では、通常は、船橋当直を船長C、A受審人及びB受審人の3人で2時間交替の単独3直制としていたところ、同月5日C船長の休暇下船に伴い、A受審人が船長の職務に、B受審人が一等航海士の職務にそれぞれ繰り上がって就いた。このため、A受審人は、関門、来島、明石及び鳴門の各狭水道においては、自ら操船の指揮を執り、その他の海域においては、B受審人と3時間交替の単独2直制とする船橋当直体制を採ることにした。
 また、B受審人は、平成9年10月に第十一八幡丸の甲板員として乗船以来、C船長とともに船橋当直に入って当直要領についての指導を受け、翌10年8月に三級海技士(航海)の免許を取得してからは単独で船橋当直に就き、これまで瀬戸内海を頻繁に航行していたので、三原瀬戸や布刈瀬戸の水路事情をよく知っていた。
 A受審人は、水島港での出港操船に続いて船橋当直に就き、02時30分岡山県神島南方の黒土瀬戸を通過した後、同時55分広島県福山港沖において、船橋当直を引き継ぐに当たり、C船長の休暇下船に伴い、B受審人が睡眠を十分にとることができない状況であったが、眠気を催したら報告することやいすに腰を掛けて当直を行わないことなど、居眠り運航の防止措置について改めて指示するまでもないものと思い、船位や他船の状況などを引き継いだだけで、居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行うことなく船橋当直を交替し、降橋して自室で休息をとった。
 B受審人は、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、広島県田島及び横島の南岸沿いを西行し、同県当木島南端を通過した後、03時53分百貫島灯台から326度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点において、針路を同県因島梶ノ鼻の北方に向く287度に定め、自動操舵により三原瀬戸から布刈瀬戸に向かった。
 B受審人は、定針後、目視及び1.5海里レンジとしたレーダーで周囲の状況を確認したところ、接近する他船を認めなかったことから、03時55分百貫島灯台から319度2.2海里の地点において、操舵スタンド後方にある高さ約60センチメートルの長いすに腰を掛け、見張りを行いながら進行した。
 04時08分少し前B受審人は、大浜埼灯台から125度2.1海里の地点に達したとき、長いすから立ち上がり、1.5海里レンジとしたレーダーで梶ノ鼻を左舷船首0.5海里に確認し、同鼻を通過した後に因島大橋橋梁灯(C1灯)(以下「C1灯」という。)に向けて転針することにし、このころ、睡眠不足の状態であったことから、眠気を催すようになっていたが、転針予定地点まではそれ程遠くないので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、船長に報告して交替を求めるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、再び長いすに腰を掛けたところ、間もなく居眠りに陥った。
 B受審人は、梶ノ鼻を左舷側に約200メートル隔てて通過し、04時11分少し過ぎ大浜埼灯台から132度1.6海里の転針予定地点に達したが、居眠りに陥っていてこのことに気付かず、C1灯に向けて転針することができず、広島県中浜港の南側に位置する陸上灯火のない八重子島に向首したまま進行した。
 こうして、B受審人は、居眠りしたまま続航中、04時15分少し前大浜埼灯台から145.5度1,940メートルの地点に至って、ようやく目が覚め、右舷船首方に中浜港の陸上灯火が迫っていることに気付き、急いで右舵一杯をとったが、効なく、04時15分大浜埼灯台から148度1,900メートルの地点において、第十一八幡丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、八重子島東側の岩場に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期であった。
 A受審人は、自室で休息中のところ、衝撃を感じて事故の発生を知り、直ちに昇橋して事後の措置に当たり、同日09時20分自力離礁した。
 乗揚の結果、第十一八幡丸は、船首船底部に凹損及び擦過傷を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、広島県因島北東方の布刈瀬戸において、単独で船橋当直中、居眠り運航の防止措置が不十分で、八重子島に向首したまま進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が、居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行っていなかったことと、船橋当直者が、眠気を催すようになった際、船長に報告せず、いすに腰を掛けたまま船橋当直を続け、居眠りに陥ったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、広島県福山港沖において、船橋当直を交替する場合、睡眠が十分にとれない状況であったから、船橋当直者が居眠り運航とならないよう、眠気を催したら報告することやいすに腰を掛けて当直を行わないことなど、居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、居眠り運航の防止措置について改めて指示するまでもないものと思い、居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行わなかった職務上の過失により、船橋当直者が眠気を催した際に報告が得られず、同当直者がいすに腰を掛けたところ間もなく居眠りに陥り、八重子島に向首したまま進行して乗り揚げ、船首船底部に凹損及び擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、広島県因島北東方の布刈瀬戸において、単独で船橋当直中、眠気を催した場合、睡眠不足の状態にあったから、居眠り運航とならないよう、船長に報告して交替を求めるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、転針予定地点まではそれ程遠くないので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いすに腰を掛けたところ間もなく居眠りに陥り、転針予定地点で転針することができず、八重子島に向首したまま進行して乗り揚げ、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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