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平成13年横審第39号
件名

貨物船第拾弐玉吉丸真珠養殖施設損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成13年10月4日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(葉山忠雄、花原敏朗、甲斐賢一郎)

理事官
古川隆一

受審人
A 職名:第拾弐玉吉丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
真珠養殖用籠を損傷し、真珠母貝を滅失

原因
強風に対する配慮不十分

主文

 本件真珠養殖施設損傷は、強風に対する配慮が不十分で、転錨する時機を逸して走錨したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年9月22日12時30分
 三重県賀田湾飛鳥浦

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第拾弐玉吉丸
総トン数 432トン
全長 51.06メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

3 事実の経過
 第拾弐玉吉丸(以下「玉吉丸」という。)は、石材輸送に従事する鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、石材700トンを積載し、揚荷の目的で、船首2.55メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成10年9月21日10時00分三重県賀田港を発し、静岡県御前崎港に向かった。
 ところで、当時、ルソン島西方沖合で発生した台風7号が、北緯25度東経130度付近にあって北上中で、A受審人は、テレビや海上保安庁のVHFによる気象情報で同台風の進行模様などを把握しており、目的地まで航海を続けるのは困難と判断し、台風避難の最善の策として賀田湾内において錨泊することとしていた。
 一方、賀田湾は、熊野灘に向けて南東方に開けた湾で、外海から1.7海里ばかり入ったところで3方向に分岐し、飛鳥浦は、そのうちの南西方に向かう幅約700メートル奥行き約3,000メートルの入り江で、三方を山に囲まれ、その南北両岸には海岸からそれぞれ約200メートル沖合まで、真珠及び魚類養殖施設が諸処に設置されていた。
 A受審人は、発航後間もなく、飛鳥浦内に錨地を求め、飛鳥浦の北岸寄りに設置されている真珠養殖施設との距離が十分でなかったものの、既に台風避難のため錨泊している8隻ばかりの船舶の間隙(かんげき)を選び、10時15分賀田大埼灯台から320度(真方位、以下同じ。)480メートルの、底質が貝がら混じりの泥土で水深約35メートルの地点に、左舷錨を4節伸出して錨泊した。
 台風7号は、15時00分南大東島北方に移動し、更に北上を続けて紀伊半島付近に向かう状況にあった。
 翌22日09時00分、台風7号が中心気圧960ヘクトパスカルまで発達して四国の南方海上約60海里のところを和歌山県北部に向け接近していて、10時ごろには錨泊地点付近では東寄りの風が疾風となった状況で、やがて、風向が南に変わり、11時過ぎには風勢が増大し、A受審人は、船体が大きく振れ回るのを認めたが、錨地は三方を陸地に囲まれていて安全と思い、適切な時機に転錨して二錨泊とするなど、強風に対する配慮を十分に行うことなく、転錨の時機を逸したまま、昼食を済ませてから状況によって対処することとし、周囲の様子を調べていた。
 そののち、A受審人は、風力が更に増大する状態となったものの、依然、強風に対する配慮不十分のまま、乗組員全員と食堂にいて転錨について話し合っているうち、12時30分少し前玉吉丸の船首を入り江奧となる西方に向ける状態で、南からの大強風を受けて船尾を左右に振りながら走錨を始めたのを感知し、急ぎ機関長に機関用意を、一等航海士に船首配置に就くことをそれぞれ指示し、自らは船体を制御して走錨を防止しようと操舵室に向かったが、同室に上がる階段の中段に差し掛かった12時30分、玉吉丸は、賀田大埼灯台から317度550メートルの地点において、船首が210度を向いて走錨しているとき、右舷船尾が前示真珠養殖施設に乗り入れた。
 当時、天候は台風による雨で、風力9の南風が吹き、潮候はほぼ低潮時で、三重県紀勢・東紀州区域には暴風、波浪、高潮、大雨、洪水各警報及び雷注意報が発表されていた。
 その結果、玉吉丸は、損傷がなく、右舷船首も真珠養殖施設に乗り入れて停止し、のち、近くに錨泊していたプッシャーバージにロープを渡して結止し、自船のウインチで巻きつけて真珠養殖施設から離脱したが、同養殖施設は、乗り入れ時と離脱時に真珠養殖用籠(かご)が損傷して真珠母貝の滅失などの損害が生じた。

(原因)
 本件真珠養殖施設損傷は、三重県賀田湾飛鳥浦において、台風の接近を知って錨泊を続ける際、強風に対する配慮が不十分で、転錨する時機を逸して走錨したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、三重県賀田湾飛鳥浦において、台風の接近により風勢が増大し、船体が大きく振れ回るのを認めた場合、風下の真珠養殖施設までの距離が十分でなく、走錨すれば態勢を立て直す余裕がないことが予想できたのであるから、適切な時機に転錨して二錨泊とするなど、強風に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、錨地付近は陸地に囲まれていて安全と思い、強風に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、走錨して真珠養殖施設へ進入する事態を招き、同養殖施設の損傷と真珠母貝に損害を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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