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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成12年那審第9号
件名

交通船ライオンフィッシュ交通船アリサIII潜水者死傷事件
二審請求者〔理事官 上原 直〕

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年12月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、清重隆彦)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:ライオンフィッシュ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:アリサIII船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
C 職名:潜水指導者

損害
ライオンフィッシュ・・・推進器翼を曲損、潜水者1人が頭蓋骨骨 折で死亡、1人が左肩甲骨骨折等で重傷

原因
ライオンフィッシュ・・・見張り不十分
アリサIII・・・潜水者に対する安全措置不十分

主文

 本件潜水者死傷は、ライオンフィッシュが、見張り不十分で、潜水者を避けなかったことによって発生したが、アリサIIIが、潜水者に対する安全措置が不十分であったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月8日15時10分
 沖縄県石垣島御神埼北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 交通船ライオンフィッシュ 交通船アリサIII
全長 10.63メートル  
登録長   11.94メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 80キロワット 169キロワット

3 事実の経過
 ライオンフィッシュは、スキューバダイビング客(以下「潜水者」という。)の輸送などに従事する、旅客定員17人のFRP製交通船で、A受審人が1人で乗り組み、潜水指導者1人及び潜水者1人を乗せ、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって平成11年9月8日12時30分沖縄県石垣港を発し、石垣島川平石埼付近に所在する石崎マンタスクランブルと称する潜水ポイントでの潜水を終えたのち、14時45分同ポイントを発して帰途についた。
 ところで、A及びB両受審人が加入する八重山ダイビング協会は、石垣島御神埼北方沖合に所在する、海底から18メートルの高さに盛り上がり、頂上の直径が約20メートルであるカスミの根と称する潜水ポイントでは同ポイントを十分に離れて航行すること、ボートダイビングを行う場合はボートに見張りを配置するか海面に潜水者を監視員として配置するよう努めること、国際信号旗のA旗を揚げている船舶に接近する際には周囲100メートルは徐行することなどの指導を行っていた。
 A受審人は、帰途、ライオンフィッシュの船速が速かったことから自船より少し前に石崎マンタスクランブルを発航した交通船あつみ(以下「あつみ」という。)と並走する形になり、針路を221度(真方位、以下同じ。)に定め、17.0ノットの対地速力で自船が陸寄りの針路で航走し、15時08分少し過ぎ石垣御神埼灯台から26度1,060メートルの地点に達したとき、アリサIIIがカスミの根の南東方160メートルばかりのところの浅瀬に停泊していることに気付いたものの、潜水ポイントであることを十分に承知し、潜水者が存在する可能性のあるカスミの根に差し掛かったとき、通常投錨して潜水を行う同根に船舶がいなかったことから、同根の付近には潜水者がいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかったので、海面に浮上していた潜水者の存在に気付かないまま、これを避けることなく続航した。
 ライオンフィッシュは、同じ針路及び速力で続航中、15時10分石垣御神埼灯台から316度270メートルの地点において、その推進器が潜水者に接触した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、推進器に衝撃を感じ、直ちに主機のクラッチを切って後方を確認したところ、海面に浮いている1人の潜水者と気泡の噴出を認め、アリサIIIに連絡するとともに僚船と協力して潜水者の収容、負傷者の病院への搬送など、事後の措置に当たった。
 また、アリサIIIは、潜水者の輸送などに従事する、旅客定員27人のFRP製交通船で、B受審人が1人で乗り組み、潜水指導者であるC指定海難関係人と潜水者7人及び幼児1人を乗せ、船首尾とも0.5メートルの等喫水をもって平成11年9月8日10時20分石垣港を発し、コーラルウェーブと称する潜水ポイント及び石崎マンタスクランブルでの潜水を終えたのち、14時00分同スクランブルを発し、カスミの根に向った。
 B受審人は、15時05分カスミの根に到着し、C指定海難関係人及び潜水者3人がアリサIIIからエントリーし、同根から岩場の洞窟などを経由してエントリー地点とは異なる地点で同船に帰還するボートダイビングを開始したことを確認したものの、潜水者が存在する可能性のある潜水ポイント付近を船舶が航行することはあるまいと思い、不測の事態に備えるとともに、付近に潜水者がいることを他船に知らせる目的で潜水水域に留まり、気泡の動きを追うなどして潜水者が船舶の航行しない安全な水域に達するまで監視を行うなど、潜水者に対する安全措置を十分にとることなく、同時07分船上に残った5人にシュノーケリングなどをさせる目的でエントリー地点を発し、石垣御神埼灯台から352度150メートルの地点で事故発生地点から170メートル離れた浅瀬に移動し、船首から投錨して船尾にA旗を立て、同受審人が泳いで船尾の係留索をブイにとって停泊した。
 ところで、停泊地点は、同地点の北西方に高さ約20メートル、直径約40メートルの大岩と高さ約4メートル、直径約20メートルの小岩とが連なり、その小岩から最短距離で約20メートル離れた南東方であり、小岩などに遮られて同地点から潜水水域を視認することができず、岩場を挟んで反対側にいる潜水者の存在を他船に知らせるには適切な場所ではなかった。
 一方、C指定海難関係人は、潜水を開始したのち4人が離れ離れになったことから、再度合流する目的で浮上し、同人と1人の潜水者とが海面上に、2人の潜水者がそれぞれ水深約0.5メートル及び約1.0メートルの海中に、直径約1.5メートルの範囲内に4人が合流した状況のもと、海底の地形を見ながら浅所の方向を確認し、前示大岩の南端にある洞窟に向って同行の潜水者と泳ぎ、事故発生地点に達したとき、前示のとおり、同行の潜水者にライオンフィシュの推進器が接触した。
 その結果、ライオンフィッシュは、推進器翼が曲損し、潜水者H(昭和52年8月7日生)が頭蓋骨骨折で死亡し、潜水者Yが左肩甲骨骨折など全治約6週間の重傷を負った。

(原因)
 本件潜水者死傷は、石垣島御神埼北方沖合において、航行中のライオンフィッシュが、見張り不十分で、海面に浮上していた潜水者を避けなかったことによって発生したが、アリサIIIが、ボートダイビングを行う際、潜水者に対する安全措置が不十分であったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、石垣島御神埼北方沖合において、潜水者が存在する可能性のある潜水ポイント付近を航行する場合、海面に浮上していた潜水者を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、通常投錨して潜水を行う潜水ポイントに船舶がいなかったことから、同ポイント付近には潜水者がいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、海面に浮上していた潜水者の存在に気付かず、推進器と潜水者2人との接触を招き、頭蓋骨骨折、左肩甲骨骨折などで両人を死傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 B受審人は、ボートダイビングを行う場合、不測の事態に備えるとともに、付近に潜水者がいることを他船に知らせる目的で潜水水域に留まり、気泡の動きを追うなどして潜水者が船舶の航行しない安全な水域に達するまで監視を行うなど、潜水者に対する安全措置を十分にとるべき注意義務があった、しかしながら、同人は、潜水者が存在する可能性のある潜水ポイント付近を船舶が航行することはあるまいと思い、潜水者に対する安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、前示の死傷者を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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