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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成12年門審第47号
件名

貨物船第五東祥丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年11月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(原 清澄、米原健一、島 友二郎)

理事官
千手末年

指定海難関係人
A 職名:第五東祥丸司厨長

損害
一等機関士が溺水による死亡

原因
舷外作業に対する安全措置不十分

主文

 本件乗組員死亡は、舷外作業に対する安全措置が不十分であったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年6月29日14時37分
 大阪港大阪区第2区安治川第2号岸壁

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五東祥丸
総トン数 499トン
登録長 72.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 第五東祥丸(以下「東祥丸」という。)は、航行区域を限定沿海区域とする船尾船橋型の貨物船で、船長H(昭和19年6月30日生、三級海技士(航海)免状を受有し、受審人に指定されていたところ、平成12年6月12日死亡したことにより、これが取り消された。)並びにA指定海難関係人及び一等機関士Bほか2人が乗り組み、鋼材1,482トンを積載し、船首3.60メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、平成11年6月28日07時50分千葉県木更津港を発し、大阪港大阪区に向かった。
 翌29日13時30分ごろH船長は、大阪港港界付近を共営鉄工ふ頭の岸壁に向けて航行中、代理店から降雨のため先船の荷役が遅れ、予定どおり着岸できない旨の、及び揚荷役は翌日に行う旨の電話連絡を受け、たまたま自らとB一等機関士とが当港で下船する予定であったことから、2人の交替業務だけでも行うつもりで、岸壁の隅に船尾付けの状態であれば許可を受けなくても着岸できる、大阪港大阪区第2区安治川第2号岸壁11B(以下「安治川第2号岸壁」という。)に着岸することにし、係船索を取るための作業員を手配しないまま、自ら操船の指揮を執り、同岸壁に向けて進行した。
 ところで、歩み板は、長さ6.03メートル幅0.45メートルのアルミニウム製で、同板の片方の側面に転落防止索用のスタンションを備え、歩み板の横方向に0.40メートル間隔で滑り止めが施されており、また、歩み板の両側面には同板を吊り下げるための金具などを設けていなかった。そのため、船尾付けで着岸するにあたり、乗組員が歩み板を岸壁に渡すために同板を吊り上げるときには、船尾端のブルワーク中央部に備えた、甲板上高さ2.25メートルの歩み板専用のダビット頂部に、電動のチェーンブロックを取り付け、両端にアイを施した1本のストロップを歩み板中央部に回して取り、片方のアイに、もう一方のアイとロープを通し、同板の中央部付近で縮めて通したアイを同ブロックに掛けていたので、歩み板のほぼ中央部で1点吊りとなり、この状況で同板に人が乗ると安定を保ちにくい状態となっていた。
 14時30分H船長は、安治川第2号岸壁の180メートルばかり沖合の、大阪北港口防波堤灯台から057.5度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点に達したとき、入港配置として機関長を主機遠隔操縦盤に、一等航海士を船首部に、及びB一等機関士とA指定海難関係人を船尾部にそれぞれ就け、左舷錨を投下したのち、バウスラスターを使用して左回頭し、船体を同岸壁に対して直角となるように船首を335度に向け、岸壁との距離を目測しながら、徐々に錨鎖を延ばし、機関を種々使用して後進した。
 H船長は、後進を始めたころから激しい雨模様となり、雨で濡れた歩み板が滑りやすくなっており、同板に乗組員が乗ることは、滑って海中に転落するなどの危険な舷外作業となる状況となっていたが、乗組員にとっては、平素からの慣れた作業であるので、特段、注意することもあるまいと思い、船尾部に配置した2人に対し、救命胴衣を着用することを指示するなどの舷外作業の安全対策を十分にとることなく、B一等機関士から岸壁までの距離の報告を受けながら後進を続けた。
 H船長は、船尾の一等機関士から岸壁まであと4メートルとの報告を受けたとき、いまだわずかな後進行きあしがあったところから、一旦(いったん)行きあしを完全に停止し、その後、改めて後進して岸壁までの距離を約1メートルまで接近させ、歩み板を渡し、乗組員を上陸させて係留索を取るつもりで、船首部で錨作業中の一等航海士に対し、錨鎖を係止するよう指示した。
 A指定海難関係人は、後進中、B一等機関士とともに歩み板の岸壁への取り付け作業の準備に取りかかったが、2人とも救命胴衣を着用せず、ビニール製の雨合羽を着用し、ゴム長靴を履き、前もって同板付属の転落防止用スタンションを立て、これに転落防止用の索を張るなどしないまま、平素のとおり、歩み板の中央部よりやや岸壁寄りにストロップを取り、船尾端に設けたダビットでこれを吊り上げ、14時36分半船尾端と岸壁との距離が約4メートルとなったとき、岸壁とブルワーク上端との高低差がほとんど無かったので、歩み板をほぼ水平にし、船内側に2メートル足らず残して船尾方の舷外に突き出し、歩み板の先端部を岸壁に重ね、同板底面と岸壁端に設けた車止めとの間隙(かんげき)が10センチメートルばかりの状態とし、更に船尾端が岸壁に接近するのを待った。
 14時37分わずか前B一等機関士は、チェーンブロックを操作し、歩み板を岸壁に降ろして同板を安定させず、一本吊りの状態のまま、ダビットの右舷側から歩み板を渡り始め、ストロップの右舷側を替わった直後、同板が右舷側に傾くとともに雨で濡れた板面に足を滑らせ、身体のバランスを崩し、14時37分大阪北港口防波堤灯台から060度3,900メートルの大阪港大阪区第2区安治川第2号岸壁11Bの地点において、海中に転落した。
 当時、天候は雨で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
 その結果、B一等機関士(昭和10年8月17日生)は、転落して間もなく、乗組員により救命浮環を投げ込まれたが、同浮環を掴むことができないでいるうち、14時38分少し前海中に没し、同日15時ごろ来援した救助隊によって引き上げられ、病院に移送されたが、溺水による死亡と検案された。

(原因)
 本件乗組員死亡は、大阪港大阪区安治川第2号岸壁において、船尾付けの状態で歩み板を岸壁に設置する作業に従事する際、舷外作業に対する安全措置が不十分で、一点吊りされた歩み板を歩行中の乗組員が海中に転落したことによって発生したものである。
 舷外作業時の安全措置が十分でなかったのは、船長が、歩み板の準備作業を行わせる際、救命胴衣を着用することなどを指示しなかったことと、乗組員が、救命胴衣を着用しなかったこととによるものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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