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平成13年神審第54号
件名

旅客船しろやま旅客負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年11月14日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、黒田 均、内山欽郎)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:しろやま船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:高速I株式会社運航管理者

損害
旅客2人が腰部打撲等(入院加療)

原因
船体の動揺が旅客に及ぼす危険についての配慮不十分
運航管理者・・・旅客の安全確保についての指導不十分

主文

 本件旅客負傷は、船体の動揺が旅客に及ぼす危険についての配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 運航管理者が、旅客の安全確保についての指導を十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月10日15時23分
 兵庫県家島北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 旅客船しろやま
総トン数 19トン
全長 26.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,529キロワット

3 事実の経過
 しろやまは、兵庫県姫路港と同県家島港との間で定時運行される旅客定員87人の一層甲板型軽合金製旅客船で、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客46人を乗せ、船首0.6メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成13年3月10日15時00分復航の第6便として、姫路港飾磨区を発し、家島港へ向かった。
 A受審人は、2人1組で定時旅客船に乗り組み、1往復ごとに交替で船長及び甲板員の職務に就いて、同航路に従事し、家島と同島東方の男鹿島との間の海峡が南北に開けていたので、南方からの風が吹いているときには、同海峡の北方付近が波浪の高まる海域であることを知っており、また、甲板員として乗り組んだときには、離岸してから船内を巡視していたので、船内放送要領に基づいてシートベルトの着用や一般的注意事項についての録音テープを放送したものの、ほとんどの旅客がシートベルトを着用していないことを承知していた。
 ところで、しろやまは、船首部に操舵室が設けられ、これに続く船体中央部が長さ9.5メートル幅3.4メートルの前部客室となっており、同室には、前向きの3人掛け座席が各舷11列配置され、各座席にはシートベルトが備えられていた。また、船体後部が長さ4.2メートル幅3.4メートルの後部客室となっており、前向きの3人掛けベンチ型座席が左舷側に4列、右舷側に3列配置され、同室の座席にはシートベルトが備えられていなかった。
 B指定海難関係人は、高速I株式会社の運航管理者を務めており、平素乗組員に対して、運航管理規程の運航基準を遵守するよう指導するとともに、旅客を動揺の少ない前部客室の後部座席に座らせるよう一応指導していたものの、荒天時、旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅に減速することや旅客にシートベルトを着用させる注意喚起を行うなど、旅客の安全確保についての指導を十分に行っていなかった。
 A受審人は、操舵室の操縦席に腰掛けて操船にあたり、徐々に増速しながら飾磨航路を南下し、15時11分半飾磨東防波堤灯台から191度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点で、針路を家島港入口に向かう235度に定め、機関を回転数毎分2,000にかけ、32.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
 15時18分A受審人は、鞍掛島灯台から305度2.7海里の地点に達したとき、南西風が強まって荒天となったことから、機関回転数を徐々に下げて毎分1,500とし、20.3ノットに減じて続航した。
 間もなく、A受審人は、男鹿島の北方付近に至り、波浪が高まり頻繁に押し寄せる海域に入ったが、20ノットまで減速したので大丈夫と思い、船体の動揺が旅客に及ぼす危険について十分配慮せず、動揺を緩和するための大幅な減速も、旅客にシートベルトを着用させる注意喚起も行わずに進行した。
 15時23分A受審人は、尾崎鼻灯台から064度1.6海里の地点に達したとき、ひときわ高い波浪を左舷船首に受け、減速の暇もなく、船首部が高く持ち上げられて急速に下降し、前部客室の座席に腰掛けていた旅客が上方に投げ出され、座席などに身体を打ちつけて2人が負傷した。
 当時、天候は晴で風力5の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 A受審人は、入港間近になって旅客が負傷した旨を知らされ、家島港に着桟後、直ぐに負傷者を病院へ搬送するなど事後の措置に当たった。
 その結果、旅客Tが2箇月の、同Mが3週間のそれぞれ入院加療を要する腰部打撲等を負った。
 B指定海難関係人は、本件後直ちに安全運航についての指導文書を作成し、乗組員に対して運航基準の遵守を徹底するとともに、荒天時には、大幅な減速航行や旅客への注意喚起を行うことなどを改めて指導し、事故再発防止の措置をとった。

(原因)
 本件旅客負傷は、多数の旅客を乗せて兵庫県姫路港から同県家島港に向けて高速力で航行中、荒天となり、波浪が高まり頻繁に押し寄せる海域に入った際、船体の動揺が旅客に及ぼす危険についての配慮が不十分で、動揺を緩和するための大幅な減速も、旅客にシートベルトを着用させる注意喚起も行わず、ひときわ高い波浪を左舷船首に受けたとき、船首部が高く持ち上げられて急速に下降し、前部客室の座席に腰掛けていた旅客が上方に投げ出され、座席などに身体を打ちつけたことによって発生したものである。
 運航管理者が、乗組員に対し、荒天時旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅に減速することなど、旅客の安全確保についての指導を十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、多数の旅客を乗せて兵庫県姫路港から同県家島港に向けて高速力で航行中、荒天となり、波浪が高まり頻繁に押し寄せる海域に入った場合、船体の動揺が旅客に及ぼす危険について十分配慮すべき注意義務があった。しかるに、同人は、20ノットまで減速したので大丈夫と思い、船体の動揺が旅客に及ぼす危険について十分配慮しなかった職務上の過失により、動揺を緩和するための大幅な減速などを行わずに進行し、ひときわ高い波浪を左舷船首に受けたとき、船首部が高く持ち上げられて急速に下降し、前部客室の座席に腰掛けていた旅客が上方に投げ出され、座席などに身体を打ちつける事態を招き、旅客2人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、乗組員に対し、荒天時旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅に減速することなど、旅客の安全確保についての指導を十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件後直ちに安全運航についての指導文書を作成し、乗組員に対して運航基準の遵守を徹底するとともに、荒天時には、大幅な減速航行や旅客への注意喚起を行うことなどを改めて指導し、事故再発防止の措置をとった点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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