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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成12年門審第69号
件名

漁船克栄丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年10月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(佐和 明、米原健一、相田尚武)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:克栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
機関員が溺水による死亡

原因
潜水作業実施の安全管理不十分

主文

 本件乗組員死亡は、潜水作業実施に当たっての安全管理が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月2日11時20分
 大分県臼杵湾下ノ江

2 船舶の要目
船種船名 漁船克栄丸
総トン数 69トン
全長 27.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 367キロワット

3 事実の経過
 克栄丸は、まぐろはえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、長期の操業を終えて和歌山県勝浦港で水揚げを行ったのち、平成11年7月29日母港の大分県保戸島漁港に戻り、船体修理のため、同日13時00分A受審人、機関員S及び機関長Kほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.00メートル船尾2.00メートルの喫水をもって同港を発し、14時00分大分県下ノ江の東九州造船株式会社桟橋に至り、右舷付けで係留した。
 A受審人は、海水温度計のセンサー部が不調であったので、これを同造船所で取り替えることにしていたが、この度の入渠において上架の予定がなく、機関室内前部ほぼ中央の船底から海中に突き出ているセンサー部の取替え工事を実施するとき、これを機関室内に引き上げる必要があり、その際船底部外板に直径約30ミリメートルの開口が生じ、海水が同室内に噴出するおそれがあることから、センサー部を引き上げてこれを取り替えるまでの数分間、2人の乗組員を交互に素潜りで船底に潜らせ、ビニール袋に入れたパテを同開口部に押し当てることによって止水することとした。
 越えて8月2日A受審人は、センサー部の取替え工事を実施することにしたものの、前日までの多量の降雨により係留桟橋付近の海水が赤土色に混濁し、海中においての見通しが利かない状況であったが、女婿であるS機関員が以前にシーチェストの異物の詰まりを取り除くため、素潜りによる潜水作業を行ったことがあり、更に同人及び一緒に潜ることになった機関長が、同作業の実施を申し出たので大丈夫と思い、深さ約1.5メートル幅4.75メートルの船底中央部に乗組員を素潜りにより潜水させる作業を中止し、これに代えて潜水器具を使用する専門業者に委託するなど、潜水作業実施に当たっての安全管理を十分に行うことなく、同作業の準備にかかった。
 11時00分ごろA受審人は、桟橋上で指揮に当たり、船体を桟橋から少し離し、潜水者が浮上したときに掴まれる(つかまれる)よう両舷中央部付近に発泡スチロール製防舷材(以下「防舷材」という。)をそれぞれ浮かべ、造船所技師1人及び同作業員3人を機関室や操舵室などに、乗組員1人を甲板上に、S機関員及び機関長を右舷側防舷材のところにそれぞれ配置した。そして、最初に、潜水者を船底の温度センサー突出部に導くためのガイドロープを右舷側甲板から船底を経て左舷側甲板まで掛けまわすこととし、S機関員に、様子を見るために右舷側から船底を潜って左舷側に移動させ、次いで、同機関員が、左舷甲板上の乗組員から直径約10ミリメートルの細索を受け取ってこれを延ばしながら再び船底に潜り、このとき右舷側から点灯した防水ランプを手にして潜った機関長に船底中央部でこの細索端を手渡し、右舷側に浮上した機関長から細索を受け取ったA受審人が桟橋上に用意した直径約30ミリメートルのガイドロープに結び、左舷甲板上の乗組員が細索を手繰り寄せてガイドロープを引き上げるという方法をとることにした。
 こうして、11時15分ごろS機関員は、水中眼鏡を付け、Tシャツとジャージのズボンを着用して潜水を開始し、右舷側から船底を潜って左舷側に出て甲板上の乗組員から細索を受け取り、間もなくその端を握ってこれを機関長に手渡すため再び潜水した。
 機関長は、甲板上からの合図で、細索を受け取るために防水ランプを点灯して船底中央部付近にまで潜水したものの、海水が濁っていて見通しが利かず、S機関員と会うことが出来ないまま浮上し、再び潜水してS機関員を捜したが発見することが出来なかった。
 11時20分S機関員は、下ノ江港灯台から真方位204度600メートルの、係留中の克栄丸船底部において行方不明となった。
 当時、天候は曇で風はなく、潮候は下げ潮の末期で、港内は穏やかであった。
 A受審人は、機関長からS機関員の行方が分からなくなった旨の報告を受け、自ら捜索に当たるとともに造船所関係者及び消防署などに援助を求め、消防や警察のレスキュー隊員による大規模な捜索が行われた結果、15時25分桟橋反対側の水深約5メートルの海底に沈んでいたS機関員(昭和45年7月19日生)が発見され、直ちに救急車により病院に搬送されたが、15時48分同病院において溺水による死亡が確認された。

(原因)
 本件乗組員死亡は、大分県臼杵湾下ノ江の造船所桟橋に係留中、潜水作業実施に当たっての安全管理が不十分で、前日までの多量の降雨により海水が赤土色に濁った状況のもと、素潜りによる潜水作業を行い、潜水した乗組員が溺水したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、大分県臼杵湾下ノ江の造船所桟橋において、海水温度計のセンサー部取替え工事で一時的に生じる船底開口部を、船外からパテによって塞ぐための潜水作業を実施する場合、前日までの多量の降雨により海水が赤土色に濁った状態で、乗組員による素潜りの作業実施は危険であったから、潜水器具を使用する専門業者に委託するなど、潜水作業実施に当たっての安全管理を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、乗組員が素潜りによる潜水作業を行った経験があり、作業を行うことを申し出たので大丈夫と思い、潜水器具を使用する専門業者に委託するなど、潜水作業実施に当たっての安全管理を十分に行わなかった職務上の過失により、素潜りで潜水した乗組員を溺水死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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