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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成13年函審第32号
件名

漁船第三十六千代丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年10月25日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(工藤民雄、安藤周二、織戸孝治)

理事官
大石義朗

受審人
A 職名:第三十六千代丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
乗組員が頸椎捻挫、甲板員1人が行方不明、のち遺体で発見

原因
海中転落防止措置不十分

主文

 本件乗組員死亡は、乗組員に対する海中転落防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月27日11時20分
 北海道昆布森漁港南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十六千代丸
総トン数 7.3トン
全長 18.00メートル
3.36メートル
深さ 1.18メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 463キロワット

3 事実の経過
 第三十六千代丸(以下「千代丸」という。)は、刺網漁業及びかにかご漁業などに従事するFRP製漁船で、A受審人及び甲板員Sほか1人が乗り組み、かにかご漁の目的で、船首0.45メートル船尾1.65メートルの喫水をもって、平成13年3月27日03時45分北海道昆布森漁港を僚船4隻とともに発し、同漁港東南東方沖合の漁場に向かった。
 04時20分ごろA受審人は、昆布森漁港東南東方10海里付近の漁場に至り操業していたところ、南寄りのうねりが高まってきたので陸上からの指示により操業を中止することとし、かに約40キログラムを獲て、10時20分昆布森灯台から109度(真方位、以下同じ。)9.6海里の地点を発進し帰途についた。
 ところで、千代丸は、船体中央部に設けられた操舵室の前方約6.3メートルの前部甲板下が魚倉となっており、同甲板上に高さ40センチメートル(以下「センチ」という。)のコーミングを持つ魚倉の倉口が船縦方向に5個配置され、舷側の周囲にはウエル状のブルワークが巡らされ、その高さは船首尾の高いところで1.2メートル、前部甲板凹部の低いところで1.0メートルとなっていた。また、漁業の種類によりブルワーク凹部にFRP製差し板を挿入して一時的にブルワークをかさ上げできるようにしていたほか、前部甲板には甲板から高さ約40センチのところに木製板を敷き詰めて漁労作業場としており、ブルワークを高くするとその高さが甲板上約1.4メートルとなり、かにかご漁のときには、いつも右舷側のブルワークのみを高くし、船体中心線より右舷側に板を敷き詰めた状態で操業していた。
 昆布森漁港は、西側の海岸が西南西方向に、東側の海岸が東南東方向に延び、港口が南方に開いて太平洋に面しており、南寄りのうねりが押し寄せるときには、同漁港の南方1海里付近から港口に近づくにつれ、うねりが収束してひときわ隆起しやすいところであり、長年当地で漁業を営み、同漁港への出入港を繰り返しているA受審人はこの海況模様をよく知っていた。
 A受審人は、漁場発進時から単独で船橋当直に当たり、機関を全速力前進より少し減じ、11.0ノットの対地速力で、折からの南寄りのうねりを左舷側に受けて左右に動揺しながら、昆布森漁港南方沖に向け西行した。
 11時10分A受審人は、昆布森灯台から167度1.1海里の地点に差し掛かり、昆布森漁港入口に約1海里に近づいたとき、遠隔操舵に切り替えて針路を同漁港入口にほぼ向首する000度に定め、その後3ないし4メートルの南寄りのうねりを船尾方に受けてピッチングを繰り返すようになり、操舵室左舷側に立って操船に当たり進行した。
 定針後間もなく、A受審人は、それまで船尾の船員室で休憩していたS甲板員と乗組員が救命胴衣を着用しないまま前部甲板に出て、S甲板員が右舷側に、乗組員が左舷側にそれぞれ立って船尾方を向いているのを認め、船体が大きく傾斜したとき海中に転落するおそれがあったが、漁船での豊富な経験を有する両人を信頼していたので大丈夫と思い、両人を船員室に退避させるなど、海中転落防止措置をとることなく、そのまま続航した。
 その後、A受審人は、船尾方からのうねりに対して機関のクラッチのかん脱を適宜繰り返しながら平均4.0ノットの対地速力で進行中、11時20分少し前、S甲板員からのうねりが来るとの手合図を見て、クラッチを中立として保針に努めて操舵に当たっていたとき、約5メートルに高起したうねりにより船尾が持ち上げられ、その直後ブローチング現象を生じ、右回頭しながらうねりの斜面を滑り降りて左舷側に大傾斜し、11時20分昆布森灯台から153度1,000メートルの地点において、S甲板員と乗組員が海中に転落した。
 当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、付近には波高約5メートルの南寄りのうねりがあり、潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は、夢中で船首を立て直しS甲板員と乗組員の姿が見えないことに気付き、左舷側の窓から後方を見たとき両人が海上に浮いているのを認め、急いで反転し両人に近づき救命浮環を投じるなどして船上に引き揚げようとしたものの、収容が困難であったので、昆布森漁業無線局に事故の発生を連絡して救助を要請した。
 その結果、S甲板員(昭和22年8月12日生)は、海中に没して行方不明となり、のち遺体で収容され、また乗組員は、救助されたものの、頸椎捻挫などを負った。

(原因)
 本件乗組員死亡は、南寄りのうねりを船尾方から受けながら北海道昆布森漁港入口に向け接近中、乗組員に対する海中転落防止措置が不十分で、高起したうねりを受けて船体が大きく傾斜したとき、前部甲板の乗組員が海中に転落したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、操船に当たり、南寄りのうねりを船尾方から受けながら昆布森漁港入口に向け接近中、乗組員2人が前部甲板に出ているのを認めた場合、船体が大きく傾斜したとき海中に転落するおそれがあったから、両人を船員室に退避させるなど、海中転落防止の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、漁船での豊富な経験を有する両人を信頼していたので大丈夫と思い、両人を船員室に退避させるなど、海中転落防止の措置をとらなかった職務上の過失により、高起したうねりを受けて船体が大きく傾斜したとき、乗組員2人が海中に転落する事態を招き、うち1人が死亡し、他の1人が頸椎捻挫などを負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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