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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成12年広審第60号
件名

プレジャーボートさこはら丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年12月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(中谷啓二、高橋昭雄、坂爪 靖)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:さこはら丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
機関、電気設備などに濡損

原因
操船不適切

主文

 本件転覆は、揚錨中、根掛かりした錨を外すことが困難な状況下、捨錨する措置がとられず、機関を使用して錨索が引き回され、船体が大傾斜したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月21日10時40分
 広島県安芸津港沖

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートさこはら丸
全長 6.60メートル
1.70メートル
深さ 0.76メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 7キロワット

3 事実の経過
 さこはら丸は、中央部やや後方に機関室を備えた一層甲板型のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.30メートル中央部0.30メートル船尾は舵板底部から0.75メートルの喫水をもって、平成11年8月21日07時00分広島県安芸津港を発し、同港沖の釣り場に向かった。
 ところで、さこはら丸は、機関室前方に船横方向に並んで2個のいけすが、同室後方及び船首部に物入れが、いずれも甲板上に鎖蓋式の開口部を付けて設けられており、右舷側のいけすは使用中で、他方のいけす及び各物入れには釣り道具、救命胴着などが置かれていた。また、機関操作レバーが、甲板上高さ約0.5メートルの機関室囲壁の右舷側後部にあり、船尾の係船柱が、右舷舷側で船尾端から約1.5メートル前方に取り付けられており、両舷船側の前部、中央部及び後部で各部位の甲板面よりわずかに低い位置に、直径約3センチメートル(以下「センチ」という。)の甲板用の排水口が設けられ、当時、各口の概略の水面上高さは、前部が約35センチ、中央部が約10センチ、後部が約20センチになっていた。
 07時20分ごろA受審人は、三津湾西部の藍ノ島西方の釣り場に至り、安芸津港防波堤灯台から208度(真方位、以下同じ。)3,500メートルの、水深約15メートルの地点で、直径約7ミリメートルのナイロンロープの錨索に取り付けた重量約3キログラムの錨を、船首及び船尾から投入し、それぞれ錨索を30メートルばかり延出して釣りを開始した。
 10時30分ごろA受審人は、釣果を求めて移動することとし、揚錨にかかって各錨索を手繰り上げたところ、船首錨は揚がったものの船尾錨が岩場に根掛かりして揚がらなかったので、機関を使用して錨索を引き根掛かりを外そうと、同索を手でできるだけ引いて弛みをとったのち、船尾の係船柱の甲板上高さ約30センチで舷側上縁とほぼ同じ位置に固縛し、機関を微速力にかけ、数回前後進を繰り返した。そして、微速力前進で錨索を引き回したとき、同索が緊張し、船体が引かれて右傾斜したものの根掛かりは外れず、船体傾斜によって海水が船側の排水口から甲板上に逆流するのを認め、危険を感じていったん機関を中立にした。
 そのとき、A受審人は、根掛かりを外すことは困難な状況であり、揚錨しようとすると、さらに機関を使用して錨索を引き回すことになり、海水が多量に流入し大傾斜するおそれがあったが、同船は知人の所有船であり、何とか錨を揚収しようと思い、錨索を切断するなどして捨錨することなく、再度揚錨を試みることにした。
 こうしてA受審人は、10時40分少し前通常の操船姿勢である機関室囲壁の後方右側で物入れに足を入れて立った状態で、船首部物入れ及び両いけすの鎖蓋は閉め、東方に向首し、機関をそれまでより増速して半速力前進にかけ、錨索の状態を見ながら舵柄を操作して引き回し始めたところ、同索が船尾方から右舷方に回って緊張し、船体が右方に傾斜して排水口から海水が流入し始めたのを認めるうち、見る間に傾斜が増大し、危険を感じて機関を停止しようとしたものの、傾斜により姿勢が崩れて機関操作レバーに手をやることができず、右舷前部の甲板に座って釣りの仕掛けを準備していた同乗者2人が、急ぎ左舷側に移動したが効なく、さこはら丸は、10時40分前示投錨地点において、078度に向首して右舷側に大傾斜し、復原力を喪失して転覆した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
 転覆の結果、船体は機関、電気設備などに濡損を生じたが、安芸津漁協の漁船により同港に引き付けられ、のち修理され、乗船者全員が海中に投げ出されたが、同船に救助された。

(原因)
 本件転覆は、広島県安芸津港沖合において、揚錨中、根掛かりした錨を外すことが困難な状況となった際、捨錨する措置がとられず、機関を使用して錨索が引き回され、船側の排水口から海水が流入して大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、広島県安芸津港沖合において、揚錨中、錨が根掛かりした場合、揚錨しようとすると機関を使用して錨索を引き回すことになり、緊張した錨索に引かれて船体が傾斜し、船側の排水口から海水が多量に流入して大傾斜するおそれがあったのだから、揚錨することを中止し、錨索を切断するなどして捨錨する措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船は知人の所有船であり、何とか錨を揚収しようと思い、捨錨する措置をとらなかった職務上の過失により、機関を使用して錨索を引き回すことになり、船体を大傾斜させて転覆を招き、さこはら丸の機関、電気設備などに濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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