日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成13年広審第53号
件名

漁船和吉丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年12月6日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(伊東由人、高橋昭雄、西林 眞)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:和吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船体大破

原因
荒天措置不適切

主文

 本件転覆は、荒天避難の措置がとられなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年12月25日11時15分
 瀬戸内海 周防灘東部海域

2 船舶の要目
船種船名 漁船和吉丸
総トン数 4.9トン
全長 14.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15

3 事実の経過
 和吉丸は、FRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、底引き網漁を行う目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年12月23日08時00分山口県粭大島漁港を発し、国東半島東方7海里沖合の漁場に向かった。
 ところで、和吉丸は、一層甲板で、中央部やや後方に操舵室が設置され、前部甲板下には船首部のボイドスペースに接して倉庫が、その後方に2槽3列の生け間があり、後部甲板下には操舵室に接して左右舷側にそれぞれ1槽の生け間が設けられており、操舵室下には両舷側に燃料タンクを備えた機関室が設置されていた。また、船内には後部甲板上船尾部に置いてある底引き網のほかには固縛を要する移動物は積載されていなかった。
 11時ごろA受審人は、漁場に至り、伊予灘西航路第3号灯浮標の北東方3海里の地点から同第1号灯浮標北東方までの間を、同航路線に平行な針路で往復して網を引くつもりで操業を開始したところ、昼近くになって西ないし西北西方からの風(以下「西風」という。)が風速15メートル吹きまた波高も2メートルになったので、操業を中止して大分県国東港に避難し、天候の回復を待って翌24日朝出港して前示漁場で操業を再開した。
 翌25日未明A受審人は、風向が南に変わり風勢も落ちたので、それまでの経験からやがて西風が強吹することになると思っていたところ、風向が西に変わりまた6時半の周南漁業無線局の定時天気予報で強風波浪注意報が発表されているのを知って、漁獲もほぼ予定量に達していたので、水揚げするために帰航することにして揚網を開始した。
 A受審人は、左舷方からの強風に備えて、揚集した網を後部甲板上左舷側寄りに固縛するなどの荒天準備をしたのち、風速10メートル、波高1メートルとなった状況下、07時15分姫島灯台から135度(真方位、以下同じ。)13.4海里の地点で、針路を340度に定め、機関を全速力前進にかけて7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵によって国東半島沖合を進行していたとき、風波が著しく強くなってきたが、西風を遮っている同半島及び姫島をかわして周防灘に入るとさらに風勢が急速に増し、また、粭島に至るまで14海里の間適当な避難港のない状況であったものの、荒天を乗り切って生け間の魚が弱らないうちに帰航しようと思い、最寄りの港に荒天避難することなく続航した。
 こうして、08時55分A受審人は、伊予灘航路第1号灯浮標を右舷方0.5海里に見て、針路を粭島方向となる350度に転じるころから、急速に風勢が増し風速20メートルを越えるようになったので機関回転数を毎分2,000に落として3.0ノットの速力で、風波を左舷船首60度方向から受け、大波がくるときは左舵一杯をとって船首を風浪に立てるよう操船して右方に6度ばかり圧流されて進行し、その後さらに風勢が増して風速25メートル、波高3ないし4メートルとなってしばしば甲板に海水が打ち込む状況のなか35度ほど横揺れして続行中、11時15分少し前大波に対して左舵一杯をとったものの船首が波に立たないうちに次の大波が押し寄せ、11時15分火振岬灯台から190度4.2海里の地点で、和吉丸は右舷側に大傾斜し復原力を失って転覆した。
 当時、天候は雨で風力10の西風が吹き、波高は3ないし4メートルであった。
 転覆の結果、A受審人は船底にはい上がりロープで体を縛り付けていたところを徳山海上保安部に救助されたが、船体は風浪に流され祝島西岸に打ち付けられて大破した。

(原因)
 本件転覆は、強風波浪注意報が発表されて西風の強吹が予想される荒天下、国東半島東方沖合を山口県粭大島漁港に向けて帰航中、風波が著しく強くなってきた際、荒天避難の措置がとられず、周防灘を航行中、連続した大波を受け大傾斜して復原力を失ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、強風波浪注意報が発表されて西風の強吹が予想される荒天下、国東半島東方沖合を粭大島漁港に向けて帰航中、風波が著しく強くなってきた場合、周防灘に入るとさらに風勢が急速に増し、また、粭島に至るまで14海里の間避難港がなかったのであるから、国東半島などの最寄りの港に荒天避難すべき注意義務があった。しかるに、同人は、荒天を乗り切って生け間の魚が弱らないうちに帰航しようと思い、荒天避難の措置をとらなかった職務上の過失により、周防灘を航行中、連続した大波を受けて大傾斜し復原力を失って和吉丸の転覆を招き、船体を大破させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION