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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成13年長審第4号
件名

巡視船りゅうきゅう引船ひかり二号転覆事件
二審請求者〔補佐人 村上 誠〕

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年10月24日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(亀井龍雄、平田照彦、平野浩三)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:りゅうきゅう船長 海技免状:一級海技士(航海)

損害
ひかり二号・・・主機等に濡損、
船長が溺死

原因
りゅうきゅう・・・引船の曳航状況確認不十分

主文

 本件転覆は、りゅうきゅうが、引船の曳航状況の確認が不十分で、ひかり二号を横引きしたことによって発生したものである。
 受審人Aの一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年1月21日08時46分
 長崎港港内

2 船舶の要目
船種船名 巡視船りゅうきゅう 引船ひかり二号
総トン数 3,335トン 10トン
全長 105.4メートル 12.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 11,760キロワット 360キロワット

3 事実の経過
 りゅうきゅうは、三菱重工業株式会社R造船所(以下「長崎造船所」という。)において、平成11年9月10日に進水した2基2軸可変ピッチプロペラを有する海上保安庁向け鋼製巡視船で、海上試運転のため臨時航行許可を取得し、同造船所船渠長A受審人が船長としてほか技師など107人と乗り組み、海上保安庁職員6人を乗せ、船首4.97メートル船尾4.95メートルの喫水をもって、平成12年1月19日09時15分長崎港を発し、野母埼東方沖合の試運転水域に向かった。
 りゅうきゅうは、終日試運転に従事し、翌20日20時50分一旦帰港し、作業員62人を下船させたのち21時10分発航して再び試運転を行い、同月21日06時50分試運転を終え長崎港第一区にある係船浮標(以下「浮標」という。)に向かって帰途についた。
 浮標は、長崎港旭町防波堤灯台(以下「旭町防波堤灯台」という。)から188度(真方位、以下同じ。)560メートルの地点に3号浮標が、同浮標から港口方向に向かう197度220メートルの地点に2号浮標が設置されていた。更に2号浮標の南南西方360メートルに1号浮標が、3号浮標の北北東方に4号浮標も設置されていた。そして、りゅうきゅうは、船首を2号浮標に、船尾を3号浮標に、出船船首尾係留することになっていた。
 A受審人は、係留作業を支援させるため、従来から自社で使用しているひかり二号ほか3隻の作業船を手配し、手動操舵、機関、プロペラピッチ操作要員等を船橋に、船首尾にも要員を配置した後、自身が操船の指揮を執って08時21分1号浮標の西方約100メートルの地点に至り、同浮標を通過した後一旦停止して係留作業要員8人を乗せ、その後2号浮標に向かって進行した。
 A受審人は、各作業船、船首及び船尾要員責任者との間の連絡は、トランシーバーで行い、各トランシーバーの発信は、その他の全トランシーバーで同時受信可能であった。
 08時30分A受審人は、2、3号各浮標を結ぶ方位線の西側約100メートルで、ほぼ船首が同線と平行となる017度を向いて船体が両浮標の中間付近に入ったとき停止し、180度右回頭して浮標に接近する旨トランシーバーで周知した後、バウスラスター、そして舵、機関を種々に使用して徐々に右回頭を始めた。
 08時37分A受審人は、船首がほぼ南西方を向いて右回頭が止まったとき、北の風で船尾が左舷に落とされることを予想し、ひかり二号に対し左舷船尾押船用意を令し、翼角を後進としたうえバウスラスターポートとし、左回頭とともに後退しながら2、3号各浮標を結ぶ線上にりゅうきゅうを持っていくよう操船した。
 08時40分少し前A受審人は、翼角前進として後進行脚を徐々に減じ、同時40分少し過ぎ翼角後進、そしてすぐに0度とし、同時41分少し前船尾要員責任者から3号浮標30メートルとの報告を受け、同時41分船首をほぼ197度に向け、2、3号各浮標を結ぶ線上に至ったとき、船尾が風で落とされる様子がなかったので、ひかり二号に対し、押船よろしい、右舷船尾曳航索取れの指令を発したところ、同号から左舷船尾でよいかとの応答があったので、再び右舷船尾に取れと令した。
 りゅうきゅうは、08時40分少し過ぎ翼角後進、そしてすぐに0度としたときには後進行脚が残っており、同時41分にもわずかな後進行脚が依然として残存していた。
 また、ひかり二号は、船体中央から1.75メートル後方、甲板上0.6メートルの高さのところに曳航用フックを装備した2基2軸の鋼製作業船で、船長Iほか1人が乗り組み、りゅうきゅうの浮標係留作業支援のため、船首1.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、08時20分R造船所向島3号桟橋を発し、同時25分3号浮標の北北西方50メートル付近に至って待機した。
 I船長は、08時37分A受審人からの指令を受け、りゅうきゅうの左舷船尾につき、押船構えの態勢に入っていたが、同時41分押船よろし、右舷船尾に曳航索を取れとの指令があったので、このことを再度確認のうえ、甲板員に曳航索を準備するよう指示して同船の右舷船尾に向かった。
 ひかり二号は、08時43分りゅうきゅうの船尾後方に至り、右回頭して船尾をりゅうきゅうに向けた後、りゅうきゅうの右舷船尾端から約4メートル離して停止し、両端にアイを入れた径40ミリメートル長さ30メートルの曳航索の一端を曳航用フックにかけ、同時44分半りゅうきゅうからヒーブラインを受け取ってこれを他端に結び、同ヒーブラインを介して曳航索を送り始めた。
 りゅうきゅうは、08時41半3号浮標との距離が25メートル弱となる頃、後進行脚がなくなってほぼ停止状態となっており、この状態がしばらく続いたが、同時44分半北風の影響でわずかに前進惰力をつけ始めた。
 I船長は、08時45分りゅうきゅうから曳航索を繋止した旨の連絡を受け、曳航索の弛みを取って引船の態勢を整えるため、りゅうきゅうの正船尾方に向かって徐々に前進した。
 一方、A受審人は、08時45分少し前船尾要員責任者から3号浮標まで25メートルとの報告を受け、前進することとしたが、ひかり二号は小型作業船であり通常のタグボートの性能はなく、横引きすると転覆するおそれが多分にあったから、横引きしないよう、ひかり二号の態勢、曳航索の方向、張り具合等の状況を十分に確認する必要があった。ところが同人は、浮標から離れることに気を取られ、船橋からは死角に入っていて視認できないひかり二号の状況を、同船船長あるいは船尾要員責任者に確かめるなど、曳航状況の確認を十分に行うことなく、同時45分翼角2度を令するとともにこのことをトランシーバーで周知した。
 りゅうきゅうは、船橋での翼角操作の際、同操作ハンドルが翼角2度より多少3度側に動かされたためか翼角3度が取られたものの、実際には推進器による前進行脚はすぐにつかず、08時46分少し前北風の影響で生じていた前進惰力によって曳航索が一層緊張した。
 ひかり二号は、08時46分わずか前りゅうきゅうの右舷船尾30メートルのところで332度に向首した状態で同船の推進器流を受けるとともに、曳航索の張力との相乗作用で急激に横引きされて左舷側に傾き、I船長が右舷機を後進、左舷機を中立として態勢を立て直そうとしたが、08時46分旭町防波堤灯台から189度580メートルの地点において、船首を287度に向けて左舷側に転覆した。
 当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、港内は平穏であった。
 転覆の結果、ひかり二号は、主機等に濡損を生じたが、引き揚げられたのち修理され、I船長(昭和23年3月31日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が溺死した。

(原因)
 本件転覆は、長崎港港内において、りゅうきゅうが、船尾に配置したひかり二号の支援のもと浮標係留作業中、曳航状況の確認が不十分で、りゅうきゅうの推進器流と曳航索の張力との相乗作用でひかり二号を横引きしたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎港港内において、船尾に配置したひかり二号の支援のもと浮標係留作業中、本船の推進力で移動する場合、ひかり二号は小型作業船で通常のタグボートとしての性能はなく、横引きすると転覆するおそれがあったから、同船を横引きしないよう、曳航状況を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、浮標から離れることに気を取られ、曳航状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、ひかり二号を横引きして同船の転覆を招き、主機等に濡損を生じさせ、同船船長を溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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