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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成13年神審第59号
件名

漁船第3北国丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年10月31日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西田克史、阿部能正、内山欽郎)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:第3北国丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
機関等に濡れ損
船長が入院治療、甲板員1人が心臓死、甲板員1人が遺体で発見

原因
船尾乾舷の確保措置不十分

主文

 本件転覆は、船尾乾舷を確保するための措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月17日11時35分
 石川県安宅漁港西南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第3北国丸
総トン数 1.08トン
登録長 5.5メートル
1.5メートル
深さ 0.6メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 22キロワット

3 事実の経過
 第3北国丸(以下「北国丸」という。)は、いかかご漁に従事する、船尾寄りに小型ウインチ及びその右方舷縁上に巻上げローラーをそれぞれ設置した、無甲板の船外機付きFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、平成13年4月17日08時30分石川県小松市浜佐美町の砂浜を発し、同浜北西方沖合1.6海里付近の漁場に向かった。
 ところで、北国丸は、平成8年ごろA受審人が知人から貰い受けたもので漁船登録をしておらず、救命胴衣等の救命設備がないまま使用され、漁法は、漁具として、長さ300メートル直径5ミリメートルの合成繊維製の幹縄に、重さ5キログラムのかごを付けた5本の枝縄を、50メートル間隔で結んだものを2組使用し、幹縄両端に取り付けた各10キログラムの錨の一方を水深約30メートルの海底に沈め、航走しながらかごと幹縄を順に海中へ投じ、1週間後に揚収するというものであった。
 A受審人は、09時40分漁場に到着し、1組目の漁具の揚収と設置を終えて少しばかり西方沖合に移動し、2組目の漁具を揚げてこれを再び設置するため、自身は船尾で舵柄を握り、かごに甲板員宮本弘明を、幹縄に同北村善幸をそれぞれ就かせ、11時20分安宅港口灯台(真方位、以下同じ。)から254度3.3海里の地点を発進し、針路を045度に定め、機関を微速力前進にかけ、1.0ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、甲板員らに漁具を投入させながら続航していたところ、3個目のかごを入れて間もなく、11時25分安宅港口灯台から255度3.2海里の地点で、幹縄が推進器に絡み機関が停止したので、船外機を海面上に起こし北村甲板員とともに船尾で腹這いになり、船尾端から上半身を乗り出して幹縄の除去作業を開始した。
 A受審人は、2人の重みで船尾が沈んだところに、身体の脇から海水が船尾舷縁を越えて船内に入り、滞留して船尾が徐々に沈む状況を認めたが、推進器に巻き込んだ幹縄を外すことに気がせき、速やかに除去作業を中断して甲板員を船首部に移動させるなり、排水を行うなど、船尾乾舷を確保するための措置をとることなく、作業を続けた。
 こうして、A受審人は、海中に延びる幹縄が強く張って除去作業に手間取っていたところ、11時35分少し前船体中央部で作業模様を見守っていた宮本甲板員から大量の海水が船尾部に溜まっているとの報告を受け、同人にバケツで海水をかい出すように指示し、同甲板員が排水のため船尾寄りに移動した途端、更に海水が多量に流入して船尾が沈下し、11時35分前示の地点において、北国丸は、090度に向首した船首が持ち上げられて大傾斜し、復原力を喪失して右舷側から転覆した。
 当時、天候は晴で風力2の西北西風が吹き、波高0.5メートルの西寄りの波浪があり、潮候は上げ潮の末期で、付近の海水温度は10度ばかりであった。
 その結果、北国丸は、15時ごろ漂流中のところを地元漁船に発見され、最寄りの安宅漁港に引き付けられたが、機関等に濡れ損を生じた。また、転覆と同時に乗組員全員が海中に投げ出され、A受審人は、16時ごろ沿岸近くに泳ぎ着いて無事救助されたものの、低体温で入院治療を受け、K甲板員(昭和12年3月19日生)は、17時ごろ発見されたが低体温により心臓死し、M甲板員(昭和11年3月1日生)は、後日遺体で発見された。

(原因)
 本件転覆は、石川県安宅漁港西南西方沖合の漁場において、推進器に絡んだ漁具の除去作業中、海水が船尾舷縁を越えて船内に入り、滞留して船尾が徐々に沈む状況となった際、船尾乾舷を確保するための措置が不十分で、船尾が沈下して船体が大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、安宅漁港西南西方沖合の漁場において、投入中の漁具が推進器に絡んだため、船外機を海面上に起こし、甲板員とともに船尾端から上半身を乗り出してこれの除去作業中、海水が船尾舷縁を越えて船内に入り、滞留して船尾が徐々に沈む状況を認めた場合、速やかに作業を中断して甲板員を船首部に移動させるなり、排水を行うなど、船尾乾舷を確保するための措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、推進器に巻き込んだ幹縄を外すことに気がせき、船尾乾舷を確保するための措置を十分にとらなかった職務上の過失により、船尾が沈下して船体が大傾斜し、復原力を喪失して転覆を招き、機関等に濡れ損を生じさせ、甲板員2人を死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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