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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成13年神審第19号
件名

引船けんざん被引起重機船宏栄号搭載作業船きり転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年10月3日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(黒田 均、大本直宏、小金沢重充)

理事官
野村昌志

指定海難関係人
A 職名:宏栄号船長
B 職名:宏栄号甲板長

損害
きり・・・機関に濡損
甲板員1名が溺死

原因
宏栄号・・・操船不適切

主文

 本件転覆は、宏栄号が、けんざんに曳航されて航行中、船尾に搭載しているきりを着水させるにあたり、行きあしに対する配慮が不十分で、前進行きあしのまま着水させたことによって発生したものである。
 なお、乗組員が死亡したのは、作業用救命衣を使用していなかったことによるものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月20日21時45分
 大阪湾

2 船舶の要目
船種船名 引船けんざん
総トン数 224トン
全長 37.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,647キロワット

船種船名 起重機船宏栄号 作業船きり
全長   9.80メートル
長さ 63.00メートル  
幅  32.00メートル  
深さ 5.00メートル  
機関の種類   ディーゼル機関
出力   77キロワット

3 事実の経過
 けんざんは、主として大阪港堺泉北区において曳航作業に従事する2基2軸の鋼製引船で、船長Mほか4人が乗り組み、船尾の曳航フックにかけた全長約130メートルの曳航索により、A指定海難関係人及びB指定海難関係人ほか8人が乗り組み、船尾にきりを搭載し、船首尾とも2.1メートルの等喫水となった、非自航で600トン吊りクレーンを装備した宏栄号を曳航し、平成11年8月20日14時30分兵庫県東播磨港を発し、大阪港港外の錨地に向かった。
 きりは、船体にシャックル止めされた各舷2本のスリングにより、宏栄号の船尾上甲板左舷にある10トン雑用ダビットのダビットフォール付き滑車のフックに、船首を同船の右舷に向け、甲板の高さを同じにして舷外に吊り下げられており、着水時船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水となり、作業現場での綱取りボートとして使用されていた。
 降下要領は、宏栄号に係止し、きりの船首尾ビットにかけた各1本の振れ止め索を伸ばしながら、揚荷機を操作してダビットフォールを繰り出し、海面まで降下させ、着水してから振れ止め索を張り合わせたのち、スリングのシャックルを外すものであった。
 M船長は、他の引船の援助を受けて明石海峡を通航し、21時28分少し前大阪灯台から260度(真方位、以下同じ。)4.2海里の地点において、神戸港六甲アイランド東水路中央第1号灯浮標を左舷側に並んだとき、針路を080度に定め、機関を全速力前進にかけ7.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、間もなく予定錨地に到着する旨をA指定海難関係人に連絡し、同時35分他の引船の援助を終了して5.5ノットの速力で進行した。
 曳航作業の指揮に当たっていたA指定海難関係人は、連絡を受け、曳航索の取り込み、きりの着水及び予定錨地に投錨の目的で昇橋し、発電機が起動されたのち、21時40分M船長に曳航索を縮める旨連絡したところ、同船長が半速力前進とし、いつもの着水時と同じ5.0ノットに減速したことを認め、間もなくきりを着水させることとしたが、船体を停止させてから着水を指示するなど、行きあしに対する配慮を十分に行わず、ウインチを操作して曳航索の取り込み作業を始めた。
 発電機の起動音を聞いたB指定海難関係人は、甲板員5人とともに船尾上甲板に赴き、きりの着水作業指揮に当たり、21時45分少し前行きあしが5.0ノットに減少していたとき、同船を着水させることとしたが、船体が停止してから着水させるなど、行きあしに対する配慮を十分に行わず、きりの船首部に甲板員を、操舵室後方に艇長を、船尾部に自らを、それぞれ作業用救命衣を使用しないまま配置し、宏栄号に残した甲板員を揚荷機操作に当たらせ、着水させるよう指示を出した。
 きりは、間もなく着水し、機関が起動され、船首尾の振れ止め索が張り合わされたのち、スリングのシャックルが外されたところ、船体が宏栄号の後方に流され、振れ止め索に横引きされた状態となり、21時45分大阪灯台から260度2.5海里の地点において、左舷に大傾斜して瞬時に転覆し、乗船中の3人が海中に投げ出された。
 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮侯はほぼ低潮期であった。
 A指定海難関係人は、転覆の報告を聞いて投錨を命じ、けんざんに機関停止を指示するとともに、曳航索を放して落水者を救助するよう依頼したところ、21時55分けんざんが、B指定海難関係人及び艇長に続き、振れ止め索が切断し、宏栄号の後方約200メートルとなったきりの船底に上がっていた甲板員を収容した。
 その結果、きりの機関に濡損を生じたが、のち修理され、艇長の甲板員H(昭和22年10月7日生)が溺死した。

(原因)
 本件転覆は、夜間、大阪湾において、宏栄号が、けんざんに曳航されて錨地に向け航行中、船尾に搭載しているきりを着水させるにあたり、行きあしに対する配慮が不十分で、前進行きあしのまま着水させ、きりが、船首尾の振れ止め索に横引きされた状態となり、大傾斜したことによって発生したものである。
 なお、乗組員が死亡したのは、作業用救命衣を使用していなかったことによるものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、夜間、大阪湾において、けんざんに曳航されて錨地に向け航行中、宏栄号の船尾に搭載しているきりを着水させる際、船体を停止させてから着水を指示するなど、行きあしに対する配慮を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、本件後、作業方法を改善して再発を防止している点に徴し、勧告しない。
 B指定海難関係人が、夜間、大阪湾において、けんざんに曳航されて錨地に向け航行中、宏栄号の船尾に搭載しているきりを着水させる際、船体が停止してから着水させるなど、行きあしに対する配慮を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件後、作業方法を改善して再発を防止している点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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