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平成12年神審第130号
件名

漁船第三長栄丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成13年12月5日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、黒田 均、前久保勝己)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第三長栄丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機、補機駆動発電機、空気圧縮機及び電気配線等を濡れ損、のち廃船

原因
造水装置用海水供給ポンプ吐出管の修理不十分、造水装置停止後の海水吸入弁閉止の措置不十分

主文

 本件遭難は、ビニールホースで補修した造水装置用海水供給ポンプ吐出管の修理が十分でなかったことと、造水装置停止後の海水吸入弁閉止の措置が十分でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月2日06時00分ごろ
 沖縄群島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三長栄丸
総トン数 79.46トン
全長 29.75メートル
5.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 294キロワット

3 事実の経過
 第三長栄丸(以下「長栄丸」という。)は、昭和57年8月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事する船首楼付一層甲板型のFRP製漁船で、長さ約6.5メートル幅5.5メートルの機関室下段に、主機、補機駆動発電機、空気圧縮機及び各種ポンプ類などを、同室上段に、配電盤及び冷凍機などをそれぞれ装備し、上部甲板左舷船尾部に、株式会社笹倉サービスセンターが製造したHR−5N型と称する逆浸透圧式脱塩装置(以下「造水装置」という。)を備えていた。
 造水装置は、海水から飲料水などに使用する真水を造る装置で、機関室下段右舷側に設けられた海水供給ポンプ(以下「海水ポンプ」という。)及び海水こし器と、上部甲板に設けられたカートリッジフィルター等の前処理ユニット並びに高圧ポンプ及び半透膜を内蔵したモジュール等を組み込んだ脱塩ユニットとで構成されており、その海水系統は、主機の右舷側に設けられた海水箱の船底弁(以下「海水吸入弁」という。)から流入した海水が、海水ポンプで加圧され、海水こし器及びカートリッジフィルターで不純物が除去されたのち、高圧ポンプで昇圧されてモジュールに供給され、同モジュールの半透膜を通過して塩分が除去され、製造された真水が船内タンクに送られる一方、ドレンと称する濃縮海水が船外に排出されるようになっていた。
 ところで、海水ポンプの吐出管(以下「ポンプ吐出管」という。)は、呼び径25ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ約40センチメートルの鋼管で、一端がフランジ継手となっており、他端が、同ポンプ本体表面から16ミリほど突き出た外径約34ミリの吐出口(以下「ポンプ吐出口」という。)にねじ込まれていた。
 また、機関室のビルジ溜まりは、同室の最船尾部に配置され、ビルジ液面警報装置が設けられていたものの、就航以来機関室の振動が激しかったことから、同装置が、振動の影響で故障し、何回修理してもすぐに作動不良となるため、いつごろからか修理されないままとなっていたが、上部の機関室床板が外されていたので、近くにある蛍光灯の明かりによって、容易にビルジの点検が行えるようになっていた。
 長栄丸は、日本の港を出港後、グアム島に寄港してフィリピン人船員を乗船させ、漁場で操業を行ったのち、同島でフィリピン人船員を下船させて日本に帰航する航海を繰り返しており、日本とグアム島間の航海中は、船橋当直を船長、機関長、漁ろう長及び甲板員の4人による単独3時間交替の輪番制としていたことから、機関室の当直体制はとっておらず、各船橋当直者が、当直終了後に機関室の点検を行い、各部の注油やビルジ処理などを行って、異常があれば機関長に連絡するようにしていた。
 また、長栄丸は、船齢が古くなるにつれ、振動及び腐食の影響によって海水管に破口や亀裂が増加するようになっていたが、予備の鋼管を保有していないなど、船内で修理できなかったので、日本の港を出港後に海水管が漏水した場合には、自転車チューブやマホータイと称する補修テープなどで応急補修を行い、その後、日本に帰港したときや入渠時に、補修した海水管を新替えするなどの修理を行っていた。
 A受審人は、昭和62年9月に機関員から機関長に昇格し、各機器の運転及び保守管理に従事していたところ、平成12年5月上旬ごろ、ポンプ吐出管がポンプ吐出口へのねじ込み部で切損しているのを認めたので、同管を吐出口上20ミリばかりのところで切断し、70ミリほどの長さに切った外径40ミリ内径35ミリのビニールホースを使用し、一端を40ミリほど同管に挿入するとともに、他端をポンプ吐出口に力一杯押し込み、両端をホースバンド各1個で締め付ける補修を行った。
 ところで、A受審人は、前示の補修の際、ビニールホースを力一杯押し込んでも、同ホース先端がポンプ吐出口に12ミリほどしか差し込めず、幅14ミリのホースバンドも11ミリほどしか掛からないこと、及びポンプ吐出口中心とポンプ吐出管中心とが5ないし7ミリほど偏心しているうえ、同吐出管に防振用のバンドが施されていないことなどを認めており、補修後に2回ほど日本に帰港し、同管を修理する機会があったが、同ホース取付け部が漏水していなかったのでそのまま使用しても大丈夫と思い、同管を新替えするなどの修理を十分に行わなかった。
 また、A受審人は、同年7月7日の鹿児島県鹿児島港出港後もビニールホース取付け部の点検を行わずに造水装置の使用を繰り返していたので、同ホースが、海水ポンプ運転中の吐出圧力や振動の影響を受けるなどしてポンプ吐出口から抜け始め、いつしか、同吐出口から離脱するおそれのある状況となっていたが、このことに気付かなかった。更に、同人は、翌8月28日16時のグアム島入港前に造水装置を停止したが、その際、海水吸入弁を閉止しなかった。
 こうして、長栄丸は、グアム島でフィリピン人船員5人を下船させたのち、A受審人ほか3人が乗り組み、まぐろ約10トンを載せ、船首3.4メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、同日19時ごろ同島を発し、鹿児島港に向かった。
 長栄丸は、その後の航海中、無人の機関室内で、ビニールホースがポンプ吐出口から離脱し、開弁状態の海水吸入弁から流入した海水が同吐出口から機関室内に浸入し始めたが、船首トリムの影響で、船尾に位置するビルジ溜まりのビルジ量が増加していなかったこともあり、機関室点検者に気付かれないまま海水の浸入が続き、翌9月2日06時00分北緯26度00分東経134度40分の地点において、運転中の補機駆動発電機が海水に浸かって焼損し、船内電源が喪失した。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、海上にはうねりがあった。
 同日03時から船橋当直に就いていたA受審人は、前直者から何も連絡がなかったことから、いつもどおり当直業務に従事し、鹿児島港入港に備え、船橋下方の魚庫から解凍予定の冷凍魚を船首甲板に搬出中、照明が突然消灯したので機関室に急行し、機関室が床板上まで浸水して、主機のフライホイールが水をかき上げるとともに、補機駆動発電機から煙が出ているのを認めたので、直ちに他の乗組員を起こし、06時05分機関室に戻って運転中の主機及び補機を停止した。
 長栄丸は、電源が喪失するとともに、主機や補機が濡れ損して運航不能となったので、SOSを発信し、飛来した海上保安庁の航空機に無線で救助を求め、乗組員は、同日16時ごろ、同航空機からの連絡を受けた付近を航行中のパナマ船籍の自動車運搬船に全員救助された。一方、長栄丸は、来援したタグボートに曳航されて同月12日大分県津久見港に引き付けられ、入渠した造船所で調査の結果、ビニールホースが離脱したポンプ吐出口から、海水が機関室内に浸入したことが判明した。
 機関室への浸水の結果、長栄丸は、主機、補機駆動発電機及び空気圧縮機のほか、配電盤、各種ポンプ類及び電気配線等を濡れ損し、のち修理費用の関係で廃船処理された。

(原因)
 本件遭難は、航海中に切損した造水装置用海水供給ポンプ吐出管をビニールホースで補修したのち、修理可能な港に寄港した際、同管の修理が不十分で、操業を終えて鹿児島港に向け帰航中、同ホースが海水供給ポンプ吐出口から離脱したことと、造水装置停止後の海水吸入弁閉止の措置が不十分で、同弁が開弁状態であったこととにより、同吐出口から多量の海水が無人の機関室内に浸入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、航海中に切損した造水装置用海水供給ポンプ吐出管をビニールホースで補修したのち、修理可能な港に寄港した場合、同管を新替えするなどの修理を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同ホース取付け部が漏水していなかったのでそのまま使用しても大丈夫と思い、修理を十分に行わなかった職務上の過失により、操業を終えて鹿児島港に向け帰航中、同ホースが海水供給ポンプ吐出口から離脱し、多量の海水が無人の機関室内に浸入する事態を招き、主機、補機駆動発電機、空気圧縮機、各種ポンプ類及び配電盤などに濡れ損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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