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平成13年門審第28号
件名

遊漁船正栄丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成13年10月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、相田尚武、島 友二郎)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:正栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船尾船底外板に亀裂、浸水し航行不能、のち廃船

原因
発航準備不十分、流入防止措置不十分

主文

 本件遭難は、定係地を発航するに当たり、船底外板に損傷を生じた際、損傷状況の確認が不十分で、発航を中止しなかったばかりか、航行中に船尾区画への浸水を認めた際、機関室などへの流入防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月19日10時10分
 大分港北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船正栄丸
総トン数 4.4トン
登録長 9.98メートル
2.76メートル
深さ 0.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 235キロワット

3 事実の経過
 正栄丸は、昭和61年に建造された最大搭載人員12人のFRP製小型遊漁兼用船で、船体中央部に操舵室及び同室下方に機関室を、その前後に船首甲板及び船尾甲板をそれぞれ配し、船首甲板下は4区画に仕切られ、船首側の3区画が船倉に、操舵室前方の1区画が3分割されていずれも生け間となっており、また、船尾甲板下は3区画に仕切られ、機関室側から2区画が船倉(以下、機関室側からそれぞれ「船尾第1、2船倉」という。)に、船尾端の1区画が2分割されて、右舷側が生け間に、左舷側が舵取機室となっており、それぞれFRP製の上蓋で閉鎖されていた。
 ところで、A受審人は、平成元年にプレジャーボートを購入して釣りに出かけるようになり、平成8年12月には正栄丸を購入し、同船を使用して遊漁船業を営むことにしたことから、同船の甲板上に電動リール用の直流電源が必要となり、翌9年2月業者に依頼し、機関室後部、船尾第1船倉及び同第2船倉の各隔壁左舷側の上甲板下約15センチメートル(以下「センチ」という。)のところに、直径約4.5センチの電路を貫通させて配線工事を施工したが、同電路の部分を電線貫通金物を使用するなどの方法で水密を保つことができるようにしないまま工事を完了した。
 また、A受審人は、大分港西大分泊地西側に隣接する船だまりを定係地とし、同船だまり南東側突堤に、直径22ミリメートル長さ約15メートルの合成繊維製の係留索を約3.5メートルの間隔で平行に2本取り、その先端に同径で長さ約15メートルの合成繊維製の錨索を繋ぎ、これに重さ約30キログラムの二爪錨をそれぞれ取り付けて、両索が同突堤にほぼ直角となるように投入し、右舷側の係留索には、発泡スチロール製の大型浮体3個を、左舷側の係留索には、大型浮体2個をそれぞれ防舷物として取り付け、錨索と係留索の繋ぎ目に浮玉を付けて、そこから船尾係船索を取り、更に浮玉から約5メートル錨側に重りを付けて錨索を沈めた係留設備を設け、大分港北突堤灯台から233度(真方位、以下同じ。)410メートルの地点に当たる両係留索の間に、正栄丸を約124度に向けて船首係留していた。
 A受審人は、平成12年3月19日05時00分船だまりに赴き、正栄丸に釣餌や氷などを積み、機関を始動して発航準備を整え、乗船予定の釣客5人の到着を待っていたところ、同時20分釣客4人が乗船したものの、残りの1人が予定時刻を過ぎても到着しなかったので、同時40分まで待って発航することにした。
 A受審人は、定係地を発航するに当たり、通常は船首尾の係船索を放った後、係留索を手繰って正栄丸を突堤から離し、プロペラに錨索を巻き込むおそれがないところまで後退して機関を前進にかけ、左転して船だまり東側にある出口に向かう操船方法を採っていた。
 正栄丸は、A受審人が1人で乗り組み、釣客4人を乗せ、釣りの目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、05時45分船首係船索及び左舷船尾係船索を放し、右舷正横付近からの南西風を受けていたので、圧流されないよう釣客に左舷船尾係船索を保持しておくよう依頼し、発航を急ぐあまり、いつものように係留索を手繰って後退せずに、右舷船尾索を取ったまま機関を後進に少しかけて後退することにした。
 A受審人は、機関のクラッチを後進に入れたとき、右舷正横付近からの南西風を受けて船尾が圧流され、船尾船底部が左舷側の浮玉付近の錨索に乗り、そのまま約3メートル後退したところ、プロペラに同錨索を巻き込み、錨が振り回されて錨爪が船尾船底部を強撃し、直後に機関が停止した。
 A受審人は、直ちに船尾船底部にある点検窓からプロペラなどの状況を確認したところ、錨索がプロペラに絡んでいることが分かったので、潜水業者に除去作業を依頼し、06時30分潜水夫による錨索の除去作業を終えたとき、同潜水夫から右舷側船底外板に錨爪によって生じた亀裂がある旨の報告を受け、船尾第2船倉の船底外板に亀裂を生じたことを知った。
 ところが、A受審人は、船尾第2船倉に収納していた浮玉や釣道具などを取り除いて損傷状況を確認しなかったので、損傷箇所から浸水が始まっていたことに気づかなかったばかりか、例え浸水したとしても、船底栓を開放している右舷船尾の生け間と同様に水位はそれほど高くはならないので、他の区画に流入することはないものと軽く考え、発航を中止しなかった。
 07時30分A受審人は、損傷の状況を確認しないまま定係地を発し、同時33分大分港北突堤灯台から000度100メートルの地点において、針路を別府航路第3号灯浮標の東方に向く054度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵によって進行し、同時57分半同灯浮標の東方約300メートルに当たる、臼石鼻灯台から188度5.7海里の地点において、針路を047度に転じ、伊予灘西航路第1号灯浮標北東方の釣場に向かった。
 08時30分A受審人は、臼石鼻灯台から088度5.4海里の地点において、いつもより船首が浮上して船首方向の見通しが悪くなったことに気づき、GPSプロッタの速力表示が11.0ノットを示していたので、不審に思って船尾甲板の状況を確認したところ、船尾第2船倉に入れていた直径約30センチの浮玉が浮いて上蓋を持ち上げた状態となっているのを認め、同船倉内の上部まで浸水していることを知った。
 A受審人は、釣客を降ろすために大分港に引き返すよりは、伊予灘西航路第1号灯浮標の北東方約2海里の釣場に先着していた僚船の方が近かったので、釣客を僚船に移乗させることにして続航し、08時42分半臼石鼻灯台から076度7.2海里の地点において、速力を8.0ノットに減じ、適宜の針路として僚船に向けて進行した。
 09時20分A受審人は、臼石鼻灯台から063.5度11.8海里の地点に到着し、遊漁中の僚船に釣客4人を移乗させ、このころ、浸水した船尾第2船倉から隔壁の電路を通じて舵取機室及び船尾第1船倉への流入が始まっていたものの、浸水状況などを十分に確認しなかったので、このことに気づかず、布切れなどで同電路を塞(ふさ)ぐなどして、機関室などへの海水の流入防止措置をとらずに僚船から離れ、反転して速力を8.0ノットとし、適宜の針路で定係地に向けて航行を開始した。
 09時30分A受審人は、臼石鼻灯台から067度10.6海里の地点において、機関室出入口の上蓋を開けて同室内の状況を確認したところ、同室の床上約10センチのところまで海水が溜まっているのを認め、直ちに同室後部に設置しているビルジポンプを駆動し、間もなく全量を排水することができた。
 このとき、A受審人は、船尾第2船倉に浸水した海水が機関室後部隔壁の電路から機関室に流入したことを知ったものの、引き続き機関室に流入してもビルジポンプを駆動して排水すれば大丈夫と思い、依然として、機関室後部隔壁の電路を塞ぐなど、同室への海水の流入防止措置をとらずに続航した。
 09時45分A受審人は、臼石鼻灯台から071度8.8海里の地点において、再度機関室内の状況を確認したところ、今度は同室の床上約20センチのところまで海水が溜まっているのを認め、直ちに機関を停止して漂泊し、再度ビルジポンプを駆動して排水を始めたが、流入量が上回って機関室の水位が次第に上昇したことから危険を感じ、僚船に水中ポンプの輸送を依頼した。
 A受審人は、10時00分僚船が到着し、同船の水中ポンプを機関室に持ち込んで排水しようとしたが、同ポンプが駆動せず、その間にも機関室の水位が上昇し、10時10分前示漂泊地点において、正栄丸は、船尾部が沈下して航行不能となり、僚船に大分港への曳航を依頼するとともに、海上保安庁に救助を要請した。
 当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、海上は平穏であった。
 その結果、正栄丸は、水船状態となり、引船によって大分港大在泊地に曳航されたが、のち廃船とされた。

(原因)
 本件遭難は、大分港西大分泊地西側の船だまりにおいて、定係地を発航するに当たり、プロペラに錨索を絡めて船尾船底外板に錨爪による損傷を生じたことを知った際、損傷状況の確認が不十分で、発航を中止しなかったばかりか、航行中に船尾船倉に浸水を認めた際、機関室などへの流入防止措置が不十分で、同船倉に浸水した海水が機関室などに流入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、大分港西大分泊地西側の船だまりにおいて、定係地を発航するに当たり、プロペラに錨索を絡めて船尾船底外板に錨爪による損傷を生じたことを知った場合、損傷状況を十分に確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、船尾船倉に浸水したとしても、船底栓を開放している生け間と同様に水位はそれほど高くはならず、他の区画に流入することはないものと軽く考え、損傷状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、船尾船倉の損傷箇所から浸水が始まっていたことに気づかないまま発航し、同船倉に浸水した海水が同船倉から船尾甲板下の各隔壁を貫通する電路を通じて機関室などへ流入する事態を招き、水船となって航行不能に陥らせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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