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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年門審第26号
件名

貨物船フェリーつばさ漁船幸栄丸衝突事件
二審請求者〔理事官 千手末年〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年12月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(原 清澄、米原健一、相田尚武)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:フェリーつばさ船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:フェリーつばさ二等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
D 職名:幸栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
O海運物産株式会社C営業所 業種名:海運業

損害
つばさ・・・船首部右舷外板に擦過傷
幸栄丸・・・右舷船首部を圧壊

原因
つばさ・・・狭い水道の航法(右側通行)不遵守(主因)
幸栄丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、フェリーつばさが、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったことによって発生したが、幸栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 フェリーつばさの運航者が、船舶の運航が過密となった際、船内の就労体制が不適切で、航海士に出港操船を行わせたことは、本件発生の原因となる。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Dを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年2月13日00時48分
 福岡県博多港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船フェリーつばさ 漁船幸栄丸
総トン数 1.585トン 19.40トン
全長 98.52メートル 18.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 5.884キロワット 330キロワット

3 事実の経過
 フェリーつばさ(以下「つばさ」という。)は、航行区域を限定沿海区域とし、福岡県博多港を基地として平日及び祝祭日に長崎県芦辺港及び同県厳原港の各港に就航する(以下「厳原航路」という。)、全通二層甲板双胴型船尾ロールオン・ロールオフ貨物船で、A及びB両受審人ほか9人が乗り組み、旅客11人を乗せ、トラックなど車両29台を積載し、船首2.45メートル船尾4.87メートルの喫水をもって、平成11年2月13日00時42分博多港西防波堤南灯台(以下「南灯台」という。)から127度(真方位、以下同じ。)1.420メートルの係留地点を発し、芦辺港に向かった。
 ところで、博多港内の荒津大橋付近は、同大橋東端の岸壁と橋脚との間の可航幅が約130メートルと狭く、同大橋の北側から北方に向かって同可航幅のまま、長さ約400メートルの水路を形成し、同大橋の南側には前示水路とほぼ同様の可航幅が確保されていたものの、港奥から博多漁港に近づくにつれて次第に水深が浅くなり、また、同大橋東端から南東方に延びる岸壁にははしけなども常時係留されており、操船が制限される水域となっていた。
 ところが、つばさの運航を管理するO海運物産株式会社C営業所(以下「C営業所」という。)は、平成7年2月に同船を厳原航路に就航させるようになったが、就航当初は1日1往復の就航形態で、船長が連続した休息がとれる体制にあったものの、同9年3月から同航路の運航を1日2往復としたことで、出入港操船の回数が増加して船長が連続した休息がとれなくなった。この事態を打開するためC営業所は、つばさの船長と協議のうえ、A及びB両受審人など上席の航海士3人を月に8日間のみ船長職を執ることができる臨時の船長として雇い入れ、同航海士達に船長職務の一部を執らせても問題ないものと判断し、前示のとおり操船が制限される水域であったものの、正規の船長を1人増員し、乗組員の職制を確立して1往復ごとに交替させるなどの安全な運航対策を講じないまま、同営業所独自の当直割を作成し、00時45分博多港発の第1便に限り、3人の航海士のうちの1人に出港操船を行わせ、船長を19時10分の博多港入港時から翌日02時30分芦辺港入港準備発令時まで休息させることにした。
 A受審人は、有給休暇で下船していたところ、正規の船長に不幸があったことから、2月11日に急遽(きょ)船長として乗船したもので、発航前日の同月12日19時25分自ら操船して博多港に入港し、その後、C営業所の指示に従い、第1便の出港操船を自ら行うことなく、B受審人にこれを行わせることにして自室で休息した。
 一方、B受審人は、これまでもC営業所の指示で自ら出港操船を行っていたので、休息中のA受審人に昇橋を求めないまま出港することとした。
 こうして、B受審人は、自らは舵輪を握って操舵と見張りに当たり、機関員には機関とサイドスラスターの操作を行わせることとし、船首付けとしたつばさの係船索を全て放し、ケッジアンカーを巻き込んで岸壁から船首を十分に離したのち、機関とサイドスラスターを種々使用して左回頭し、00時45分南灯台から136度1.420メートルの地点で、針路を264度に定め、機関を微速力前進にかけて進行し、中央突堤に並んだころ右舵5度をとり、その後、更に右舵15度をとって徐々に右回頭しながら荒津大橋に向けて進行した。
 00時47分少し前B受審人は、南灯台から146度1.220メートルの地点に達し、その船首が300度を向いていたとき、右舷船首32度480メートルのところに、荒津大橋の北方から水路に沿って南下する幸栄丸の白、紅2灯を初認し、同船とは荒津大橋の狭い水道付近で出会う状況となっていたが、そのうち自船を避けて行くものと思い、速やかに大きく右舵をとり、右側端に寄って航行することなく、警告信号を吹鳴しただけで、右舵15度としたまま、徐々に水路の左側に寄る状態で、6.0ノットの対地速力として続航した。
 00時47分半B受審人は、ほぼ右回頭を終え、南灯台から148度1.090メートルの地点に達したとき、幸栄丸が自船を避ける様子を見せないまま、前路190メートルのところまで接近し、同船の両舷灯を認める状況となり、衝突の危険を感じて警告信号を吹鳴し、その後、機関を停止して左舵20度をとり、更に機関を後進にかけたが、及ばず、00時48分南灯台から148度1.000メートルの地点において、つばさは、右回頭惰力がほぼ止まり、残速力が約5ノットとなって船首が328度を向いたとき、その右舷船首部に、幸栄丸の右舷船首部が前方から16度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、幸栄丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、D受審人ほか2人が乗り組み、あまだいなどの活魚約400キログラムを積載し、水揚げの目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月12日23時50分福岡県玄界漁港を発し、単独の船橋当直に当たり、同県博多漁港に向かった。
 翌13日00時44分少し前D受審人は、南灯台から190度120メートルの地点に達したとき、針路を126度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力として手動操舵により進行し、同時45分同灯台から140度440メートルの地点で、速力を6.5ノットに減じて続航した。
 00時46分わずか前D受審人は、南灯台から136度600メートルの地点に達したとき、針路を水路に沿う164度に転じて同水路の右側端に寄って進行し、同時46分左舷船首19度700メートルのところに、西行するつばさの白、緑2灯と船体を初めて視認し、その後、同船が右転していることが分かり、同船とは荒津大橋の狭い水道付近で出会う状況となっていたが、自船が直進してもつばさが右転しているので、同船とは互いに左舷を対して航過できるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行うことなく、右舷前方の博多漁港からの出漁船の有無などを確認しながら続航した。
 00時47分少し前D受審人は、南灯台から142.5度750メートルの地点に達したとき、左舷船首22度480メートルのところに、徐々に右転しながら自船の前路に接近するつばさを認めることができたが、依然として同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したとき衝突を避けるための措置もとれないまま進行した。
 00時48分わずか前D受審人は、荒津大橋の間近に接近したとき、つばさが吹鳴した警告信号を聞くとともに、前路至近に覆いかぶさるように迫った同船の船体を認め、急いで左舵10度をとり、続いて機関を中立としたが、及ばず、幸栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、つばさは、船首部右舷外板に擦過傷を生じ、幸栄丸は、右舷船首部を圧壊するなどの損傷を生じた。
 また、つばさは、衝突後、船首がほぼ西方を向いたとき、荒津大橋橋脚付近の浅瀬に船尾を乗り揚げて擦過し、推進器翼4枚に欠損を含む曲損を生じたが、のち両船とも修理された。
 衝突後、A受審人は、B受審人から幸栄丸と衝突した旨を知らされ、須崎ふ頭北西方沖合に投錨したのち、事後の処理にあたった。
 C営業所は、本件後、正規の船長のほか代行船長をつばさに乗り組ませ、乗組員の職制を確立し、代行船長には厳原港から博多港に入港着岸するまで船長の職務を執らせるなどの安全な運航対策を講じた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、福岡県博多港港内において、フェリーつばさが、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったことによって発生したが、幸栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 フェリーつばさの運航が適切でなかったのは、船長が自ら出港操船を行わなかったことと、二等航海士が、狭い水道を航行する際、右側端に寄って航行しなかったこととによるものである。
 フェリーつばさの運航者が、船舶の運航が過密となった際、船内の就労体制が不適切で、航海士に出港操船を行わせたことは、本件発生の原因となる。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、福岡県博多港において、荒津大橋付近の狭い水道を航行する場合、同水道の右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち南下する幸栄丸が自船を避けるものと思い、右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により、徐々に水路の左側に寄りながら進行して幸栄丸との衝突を招き、自船の船首部右舷外板に擦過傷を、幸栄丸の右舷船首部に圧壊などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D受審人は、夜間、福岡県博多港において、荒津大橋付近の狭い水道を右側端に寄って航行中、前路にフェリーつばさを視認して同船が出港中であることを知った場合、自船と互いに左舷を対して航過する態勢にあるかどうかを判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、フェリーつばさが右転しているのを認めていたうえ、自船が狭い水道の右側端に寄って航行していたところから、同船とは互いに左舷を対して航過できるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で同船が接近していることに気付かないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人が、夜間、福岡県博多港を出港する際、自ら操船の指揮を執らなかったことは、本件発生の原因となる。
 しかしながら、運航者が、船長に休息を与える目的をもって、博多港発の第1便に限り、航海士に出港操船を行わせるよう指示していた点に徴し、同人の職務上の過失とするまでもない。
 O海運物産株式会社C営業所が、フェリーつばさの運航状況が過密となった際、船内の就労体制を確立しないまま、船長に休息を与えるため、航海士に出港操船を行わせていたことは、本件発生の原因となる。
 O海運物産株式会社C営業所に対しては、本件後、正規の船長のほか、代行船長をフェリーつばさに乗り組ませ、代行船長には長崎県厳原港と福岡県博多港間の船長の職務を執らせ、船内の就労体制を明確にする対策を講じた点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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