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平成13年門審第60号
件名

漁船第六十三若宮丸貨物船チュン ヘ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年12月5日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、米原健一、島 友二郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第六十三若宮丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
若宮丸・・・左舷後部外板に凹損
チュン ヘ ・・・右舷後部外板に凹損

原因
チュン ヘ ・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
若宮丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、チュン ヘが、見張り不十分で、前路を左方に横切る第六十三若宮丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第六十三若宮丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年9月27日20時50分
 響灘

2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十三若宮丸 貨物船チュン ヘ
総トン数 324トン 1.215トン
全長 57.07メートル 70.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 883キロワット

3 事実の経過
 第六十三若宮丸(以下「若宮丸」という。)は、専ら活魚の運搬に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、活魚11トンを積載し、船首3.0メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、平成12年9月27日07時15分愛媛県深浦漁港を発し、関門海峡を経由して長崎県五島列島の奈留島港へ向かった。
 A受審人は、出港操船に引き続き、12時00分まで船橋当直を行ったのち一旦(いったん)降橋して休息を取り、18時00分ごろ関門海峡東口の部埼沖で再度昇橋し、当直の機関員を補佐に配して通峡操船に当たった。
 通峡途中、A受審人は、関門海峡の大瀬戸付近で機関員を降橋させ、その後、単独で操船に当たって同海峡を航過し、20時33分半妙見埼灯台から018度(真方位、以下同じ。)7.5海里の地点に至ったとき、針路を245度に定めて自動操舵とし、機関回転数を毎分370の全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、所定の灯火を表示して進行した。
 20時40分A受審人は、妙見埼灯台から011度6.8海里の地点に達したとき、左舷船首61度0.7海里のところに、チュン ヘが表示する白、白、緑の3灯を視認することができ、その後、同船が、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、船舶が輻輳(ふくそう)する狭隘(きょうあい)な関門海峡を航過して広い海域に出たことから気が緩み、周囲の見張りを十分に行わなかったので、左舷側の白島石油備蓄基地タンク群及び同シーバースなどの陸上の明かりに紛れて西行していたチュン ヘが表示する灯火に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき機関を使用するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 こうして、A受審人は、左舷側の陸上の明かりに紛れたチュン ヘが表示する灯火に気付かないまま進行中、20時50分少し前左舷船首至近に接近した同船の前部マスト灯を初めて認め、急いで右舵一杯としたが、効なく、20時50分妙見埼灯台から358度5.9海里の地点において、若宮丸は、右回頭中、船首が274度を向いたとき、原速力で、その左舷後部が、チュン への右舷後部に、両船の船首方位角が5度開いた態勢で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、視界は良好であった。
 また、チュン ヘは、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長Wほか6人が乗り組み、屑(くず)鉄1.176トンを積載し、船首3.6メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、同月25日10時00分静岡県沼津港を発し、関門海峡を経由して大韓民国ピョンテク港へ向かった。
 翌々27日17時00分ごろW船長は、関門海峡東口の部埼沖で昇橋し、一等及び二等両航海士を補佐に配して同海峡を航過し、20時05分妙見埼灯台から047度8.8海里の地点に至ったとき、針路を269度に定めて自動操舵とし、機関回転数を毎分300の全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で、所定の灯火を表示して進行した。
 しばらくして、W船長は、一等及び二等両航海士を降橋させて単独で船橋当直に当っていたところ、20時40分妙見埼灯台から012度6.1海里の地点に達したとき、右舷船尾85度0.7海里のところに、若宮丸が表示する白、白、紅の3灯を視認することができ、その後、同船が自船の前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、その進路を避けることなく続航した。
 こうして、W船長は、若宮丸に気付かないまま、同じ針路、速力で進行中、20時49分同船が右舷正横からやや後方約150メートルまで接近したことを初めて認め、持ち運び式の信号灯及びフライングブリッジに備え付けられたサーチライトを照射し、次いで、同時50分わずか前手動操舵に切り替えて左舵一杯としたが、効なく、チュン ヘは、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、若宮丸は左舷後部外板に、チュン へは右舷後部外板にそれぞれ凹損を生じた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、響灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、チュン ヘが、見張り不十分で、前路を左方に横切る若宮丸の進路を避けなかったことによって発生したが、若宮丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、響灘において、単独で船橋当直に当たり、白島石油備蓄基地北西方沖合を南西方へ航行する場合、左舷側の同基地のタンク群及びシーバースなどの陸上の明かりに紛れて西行していたチュン ヘが表示する灯火を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船舶が輻輳する狭隘な関門海峡を航過して広い海域に出たことから、気が緩み、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷側の陸上の明かりに紛れ、衝突のおそれがある態勢で接近していたチュン ヘが表示する白、白、緑の3灯に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、若宮丸の左舷後部外板に凹損を、チュン ヘの右舷後部外板に凹損を、それぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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