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平成13年門審第37号
件名

漁船涼丸プレジャーボート加代丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年12月4日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:涼丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:加代丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
涼丸・・・船首部に破口
加代丸・・・左舷船首部に亀裂

原因
涼丸・・・動静監視不十分、船員の常務(新たな危険、衝突回避措置)不遵守(主因)
加代丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、涼丸が、動静監視不十分で、無難に通過する態勢の加代丸に対し、転針して新たに衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、加代丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月28日09時10分
 鹿児島湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船涼丸 プレジャーボート加代丸
総トン数 5.8トン  
全長 14.24メートル 11.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70  
出力   132キロワット

3 事実の経過
 涼丸は、小型機船底びき網漁業(手繰第1種漁業)に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.40メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、平成11年10月28日06時00分鹿児島県垂水港を発し、同港北西方の漁場に向かった。
 A受審人は、06時30分垂水港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から324度(真方位、以下同じ。)2.55海里の地点に到着し、トロールにより漁ろうに従事していることを示す形象物(以下「形象物」という。)を掲げずに、同地点に木製の錨を投入して操業を開始した。
 ところで、涼丸は、あまえびの採捕を目的としたかけ回し式底びき網漁業を営み、その漁法は、最初に長さ3.15メートル、爪の長さ1.6メートル及び重さ約55キログラムの木製の片爪錨を投入し、半速力で前進しながら錨綱を約700メートル繰り出して、その先端に浮標識を付け、そこからひき綱を約1.000メートル(以下「上綱」という。)繰り出したところで、上綱に対して約125度の角度で方向を変え、更にひき綱を約150メートル(以下「底綱」という。)繰り出したところで、極微速力前進に減速して長さ約25メートルの漁網を投入し、その後、再び半速力に増速し、漁網の両側の底綱の角度を90ないし100度として、各綱が左右対称となるように繰り出しながら、浮標識のところに戻って曳網の準備に取り掛かり、やがて漁網が着底すると、錨止めした船上からひし形に投入された2本の上綱及び底綱を順次巻き揚げ、漁網を手繰り寄せて揚網する方法を採っていた。この一連の投網作業に10ないし15分、漁網の着底に約10分、曳網に35ないし40分及び揚網に約10分をそれぞれ要し、1回の操業に約1時間10分を要して1日に5回操業していた。
 A受審人は、投錨地点の南西方約700メートルにあたる、南防波堤灯台から315度2.5海里の地点に設置した浮標識のところで2回目の揚網を終え、09時00分同標識のところから発進して3回目の操業を開始し、操舵室で手動操舵に就き、機関を半速力前進にかけ、11.0ノットの速力で、228度方向に進行しながら、前部甲板左舷側に積まれた上綱を左舷側から約1.000メートル繰り出し、同灯台から303度2.6海里の地点において、左転して163度方向に底綱を約150メートル繰り出したところで、機関を極微速力前進にかけ、2.0ノットの速力に減じたうえで、操舵室から出て船尾甲板に赴き、船尾から漁網を投入した。
 09時08分半A受審人は、南防波堤灯台から302度2.55海里の地点において、船尾を270度に向けた状態で投網を終え、船尾方を向いていたとき、左舷船尾76度780メートルのところに加代丸の右舷船首部を初めて視認したが、自船が操業中はいつも他船の方で避けてくれていたので、加代丸も自船を避けるものと思い、その後は加代丸のことを気にも止めず、操舵室に戻っていすに腰をかけ、手動操舵に就いて針路を090度に定め、11.0ノットに増速して、前部甲板右舷側に積まれた底綱を右舷側から繰り出した。
 A受審人は、上綱を繰り出すため左転するに当たり、加代丸の動静監視を十分に行っていなかったので、左転することによって、同船と進路が交差するようになることに気付かず、09時09分少し前南防波堤灯台から303度2.5海里の地点に達して、底綱を約150メートル繰り出したところで左転し、針路を035度に転じたとき、左舷船首51度650メートルのところに加代丸が南東進しており、無難に通過する態勢の同船に対し、新たに衝突のおそれのある態勢を生じさせたが、操舵室右舷側の窓から顔を出し、右舷側から繰り出し始めた上綱の状況を見ていたので、このことに気付かずに進行した。
 こうして、A受審人は、その後も上綱の状況に気を取られ、加代丸に対する動静監視を十分に行っていなかったので、加代丸が左方から衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、減速するなどして同船との衝突を避けるための措置をとらずに続航し、09時10分わずか前左舷船首至近に迫った加代丸に気付き、急いで機関を後進にかけたが、及ばず、09時10分南防波堤灯台から308度2.4海里の地点において、涼丸は、原針路及び約5ノットとなった速力で、その船首部が、加代丸の右舷船首部に前方から88度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
 また、加代丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、養殖用のいけすなどの清掃を行う目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日07時30分鹿児島港本港区を発し、神瀬北東方を通過して沖小島の西側に設置された養殖施設に向かった。
 08時00分B受審人は、南防波堤灯台から303度5.2海里付近の養殖施設に到着し、いけすの清掃を行った後、08時55分同施設を発進し、沖小島の北方を回り、09時00分同灯台から302度4.7海里の地点において、針路を127度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.0ノットの速力で、手動操舵により垂水港に向けて進行した。
 B受審人は、間もなく正船首約1.000メートルのところを、垂水港に向けて先行する父親の漁船を認め、これを追尾したが、両船に速力差があって次第に距離が離れ、そのころ左舷前方の陸岸寄りの海域で操業中の数隻の漁船を認めたものの、周囲に接近する他船を認めなかったことから、当分の間は接近する他船はいないものと思い、垂水港での清掃作業の段取りなどの考え事をしながら続航した。
 09時09分少し前B受審人は、南防波堤灯台から308度2.8海里の地点に達したとき、右舷船首41度650メートルのところを東行していた涼丸が、左転したことによって、新たに衝突のおそれのある態勢を生じさせたが、考え事をしていて、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、減速するなどして衝突を避けるための措置をとらずに進行した。
 こうして、B受審人は、その後も涼丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、09時10分わずか前右舷船首至近に迫った涼丸に気付き、急いで機関を後進にかけたが、効なく、加代丸は、原針路、ほぼ原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、涼丸は、船首部に破口を、加代丸は、左舷船首部に亀裂をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、鹿児島湾において、形象物を掲げないで投網作業に従事中の涼丸が、動静監視不十分で、無難に通過する態勢の加代丸に対し、転針して新たに衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、加代丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、鹿児島湾において、形象物を掲げないで投網作業に従事中、左転する場合、左舷後方に加代丸を視認していたのであるから、無難に通過する態勢の同船に対し、左転することによって、新たに衝突のおそれのある態勢を生じさせないよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が操業中はいつも他船が避けてくれていたので、加代丸も自船を避けるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、無難に通過する態勢の加代丸に対し、左転して新たに衝突のおそれのある態勢を生じさせたばかりか、減速するなどして同船との衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、涼丸の船首部に破口を、加代丸の左舷船首部に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
 B受審人は、鹿児島湾において、沖小島北方から垂水港に向けて進行する場合、接近する他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、陸岸寄りの海域に操業漁船を認めたものの、周囲に接近する他船を認めなかったことから、当分の間は接近する他船はいないものと思い、垂水港での作業の段取りなどの考え事をしていて、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、無難に通過する態勢の涼丸が、左転して新たに衝突のおそれのある態勢を生じさせたことに気付かず、減速するなどして同船との衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。


参考図
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