日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年広審第73号
件名

貨物船第八進栄丸漁船蛭子丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年12月5日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、西林 眞、横須賀勇一)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:第八進栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:蛭子丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第八進栄丸機関長

損害
進栄丸・・・船首外板に擦過傷
蛭子丸・・・船体中央部から折損し廃船
船長が右手中指靱帯を負傷

原因
蛭子丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
進栄丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、蛭子丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第八進栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八進栄丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年4月29日18時20分
 瀬戸内海 新居浜港沖

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八進栄丸 漁船蛭子丸
総トン数 166トン 4.98トン
全長 49.94メートル  
登録長   10.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 第八進栄丸(以下「進栄丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人(以下、両人の姓「須賀中」を略する。)ほか1人を含む親子3人が乗り組み、チップ200トンを載せ、船首2.00メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成13年4月29日11時10分愛媛県長浜港を発し、同県三島川之江港に向かった。
 ところで、A受審人は、平素から出入港時及び狭水道を除く広い水域では船橋当直をB指定海難関係人ら2人にも単独で行わせていた。そこで、来島海峡を通航して今治港沖に達したところで、在橋中のB指定海難関係人に単独でその後の船橋当直を行わせることにしたが、三島川之江港沖までの間は比較的広い水域であり、同人もそれまでに当直し慣れたところで無難に当直を行い、また自らが他所との連絡などで在橋するので、何かがあれば直ぐ知らせてくれるものと思い、単独当直の注意事項及び指示を与えることなく、16時00分今治港東防波堤灯台から057度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点で、針路を095度に定めて自動操舵とし、同人にその後の当直を行わせた。
 当直に就いたB指定海難関係人は、機関を全速力前進にかけて8.6ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で海獺磯灯浮標の北方を経て東行し、18時05分新居浜港垣生埼灯台(以下「垣生埼灯台」という。)から023度4.2海里の地点で、針路を105度に転じて続航した。同時10分半左舷船首42度2海里に蛭子丸のレーダー映像を初めて探知して同船を視認し、その後同船が接近する状況に不安を感じたが、そのうちに自船の進路を避けてくれると思い、速やかに在橋中の船長にその旨を知らせないまま進行した。
 こうして、進栄丸は、蛭子丸に対して避航を促すための警告信号が行われず、その後間近に接近した際に行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作がとられないまま続航し、18時19分半B指定海難関係人が衝突の危険を感じて機関を微速力前進に減じ続いて停止としたとき、A受審人が異常に気付いて急いで信号を吹鳴し更に手動操舵に切り替え右舵一杯としたが及ばず、18時20分垣生埼灯台から050度4.7海里の地点において、進栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が蛭子丸の右舷側中央部に前方から83度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、日没時間は18時47分であった。
 また、蛭子丸は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が、1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日16時30分愛媛県新居浜市大島の係留地を発し、同島沖合漁場に向かった。
 C受審人は、日没からの操業予定であったので、その間大島から股島にかけての水域で魚群の探索を行っていたところ、股島南沖付近に至って波の高い状況になり操業予定を中止して帰航することにした。
 こうして、18時05分C受審人は、垣生埼灯台から040度7.0海里の地点で、船首目標を大島とする202度の針路に定め、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの速力で帰途に就いた。
 ところが、18時10分半C受審人は、右舷船首41度2海里に進栄丸を認めることができ、その後同船が衝突するおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、折りから日没間近で他船の識別が難しい状況であったにもかかわらず、船首目標の大島に気を取られるなどして、右舷前方に対する見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、同船の進路を避けないまま続航中、進栄丸からの信号を聞くと同時に右舷正横少し前に迫った同船を初めて認めたが、どうする間もなく、蛭子丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、進栄丸は船首外板に擦過傷を生じ、蛭子丸は船体中央部から折損して廃船となり、C受審人は右手中指靱帯を負傷した。

(原因)
 本件衝突は、燧灘南部海域において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下中の蛭子丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る進栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行中の進栄丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 進栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対して当直中の注意事項及び指示を与えなかったことと、無資格の当直者が接近する小型漁船などの動向に不審を感じた際に速やかに船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 C受審人は、日没間近な燧灘南部海域の漁場を南下しながら帰航する場合、折りから日没間近で他船の識別が難しい状況であったから、特に西方から接近する進栄丸を見落とすことのないよう、進行方向の右舷方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、船首目標の大島に気を取られるなどして、右舷方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近する進栄丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して、同船との衝突を招き、進栄丸の船首外板に擦過傷を生じさせ、蛭子丸の船体を中央部から折損し廃船させるに至り、また自らの右手中指靱帯を負傷した。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、来島海峡を通航後、日没間近い燧灘南部海域を三島川之江港に向かう際、無資格者である機関長に単独で船橋当直を行わせる場合、接近する小型漁船などの動向に不審を感じた際に速やかにその旨の報告を受けることができるよう、当直中の注意事項及び指示を与えるべき注意義務があった。しかし、同人は、無資格の当直者であっても三島川之江港沖までの間は比較的広い水域で、それまでに当直し慣れたところでもあり、また自らが他所との連絡などで在橋するので、何かがあれば直ぐ知らせてくれるものと思い、当直中の注意事項及び指示を与えなかった職務上の過失により、当直者が接近する蛭子丸の動向に不審を感じながら、同人から速やかにその旨の知らせを受けられず、警告信号を行うことも、さらに間近に接近した際に衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま進行して、蛭子丸との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷等を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、自船に接近する蛭子丸の動向に不審を感じた際、速やかに在橋中の船長にその旨を知らせなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:37KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION