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平成13年門審第23号
件名

貨物船すみりゆう丸防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年11月1日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、佐和 明、相田尚武)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:すみりゆう丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
すみりゆう・・・球状船首右舷側に凹損等
高浜護岸・・・コンクリート製波返し部分を欠損

原因
操船不適切

主文

 本件防波堤衝突は、狭隘な航路内において、他船を避ける際の操船が不適切で、大角度の操舵を繰り返して航路を逸脱し、防波堤に著しく接近したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年6月10日03時00分
 関門港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船すみりゆう丸
総トン数 499トン
全長 77.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,360キロワット

3 事実の経過
 すみりゆう丸は、専ら鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首2.20メートル船尾3.65メートルの喫水をもって、平成12年6月9日18時50分長崎県的山(あずち)大島の大島港を発し、関門港小倉区の住友金属工業株式会社専用岸壁へ向かった。
 翌10日02時00分A受審人は、関門第2航路まで約3海里の地点に至ったとき、その旨の報告を受けて昇橋し、当直航海士と交替して1人で操舵操船に当たった。
 02時19分A受審人は、関門第2航路に入航し、同時22分若松洞海湾口防波堤灯台から003度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点で、関門航路の大瀬戸第1号導灯を船首目標として針路を141度に定め、機関回転数を毎分160の微速力前進にかけ、7.9ノットの対地速力で、所定の灯火を表示して手動操舵により進行した。
 02時52分A受審人は、大瀬戸第1号導灯(前灯)から321度1,400メートルの地点に至ったとき、右舷正横550メートル付近に、作業灯を点けて停留中の1隻の漁船を認めたが、航行予定の砂津航路への入航に際して何ら障害とならなかったことから、同航路に向けて針路を198度に転じ、砂津航路第2号灯浮標(以下、灯浮標に関しては「砂津航路」を省略する。)と第4号灯浮標の見通し線から約50メートル東側を、機関を極微速力前進にかけ4.0ノットの対地速力に減じて続航した。
 02時56分半A受審人は、砂津防波堤灯台から057度700メートルの地点に至り、第4号灯浮標が右舷側50メートルに並行したとき、右舵10度として砂津航路に沿う入航針路に向けて転針を始めたところ、いつの間にか作業灯を消して動き出した前示漁船が、突然、右舷船首至近を左方へ横切る態勢で接近しているのを認めた。
 A受審人は、砂津航路の可航幅が約200メートルであり、その両側には浅瀬が広がっているうえ、南側には高浜岸壁北側の護岸(以下「高浜護岸」という。)が迫っている狭隘(きょうあい)な海域であったが、突然、漁船が船首至近に接近しているのを認めたことから気が動転し、速やかに機関を使用して行きあしを停止するなど、適切な操船を行うことなく、右舵20度を取ってようやく同漁船を左舷側に替わしたところ、自船が右回頭して航路外の浅瀬へ向首しつつある状況となったことから、驚いて予定の針路に復しようとして左舵20度を取った。
 間もなく、A受審人は、船首が予定の入航針路線を越えて左舷側に大きく偏向したことに気付き、一旦(いったん)舵を中央に戻したものの、気が動転していたことから当て舵を取らないまま左に回頭を続け、02時58分半砂津防波堤灯台から076度580メートルの地点に至ったとき、左に一回転して砂津航路に沿う入航予定針路に復すつもりで、再び左舵20度を取って左旋回しながら進行した。
 こうして、A受審人は、左舷側に旋回中、03時00分わずか前高浜護岸に著しく接近していることに気付き、急いで機関を全速力後進としたが、効なく、03時00分砂津防波堤灯台から085度700メートルの地点において、すみりゆう丸は、ほぼ4.0ノットの対地速力で、船首が115度を向いたとき、その右舷船首が、高浜護岸に25度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。
 衝突の結果、球状船首右舷側に凹損、右舷錨に曲損及び同ホースパイプに折損等を生じるとともに、高浜護岸のコンクリート製波返し部分を欠損させるに至ったが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件防波堤衝突は、夜間、狭隘な関門港砂津航路を航行中、船首至近に接近した漁船を避ける際、操船が不適切で、大角度の操舵を繰り返して航路を逸脱し、高浜護岸に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、関門港砂津航路を住友金属工業株式会社専用岸壁へ向けて航行中、漁船が船首至近に接近しているのを認め、これを避航する場合、狭隘な航路内であったから、速やかに機関を使用して行きあしを停止するなど、適切な操船を行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、突然、漁船が船首至近に接近しているのを認めたことから気が動転し、速やかに機関を使用して行きあしを停止するなどの適切な操船を行わなかった職務上の過失により、大角度の操舵を繰り返して航路を逸脱し、高浜護岸に著しく接近して同護岸との衝突を招き、球状船首右舷側に凹損、右舷錨に曲損及び同ホースパイプに折損等を生じさせるとともに、高浜護岸のコンクリート製波返し部分を欠損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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