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平成13年広審第50号
件名

貨物船第二十五天神丸プレジャーボート第二 三孝丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年11月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、坂爪 靖、伊東由人)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第二十五天神丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第二 三孝丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
天神丸・・・右舷船首部外板に擦過傷
三孝丸・・・左舷中央部外板及び操舵室囲壁に亀裂、のち廃船
船長が右肋骨骨折等

原因
天神丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
三孝丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、航行中の第二十五天神丸が、見張り不十分で、漂泊中の第二 三孝丸を避けなかったことによって発生したが、第二 三孝丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年11月25日11時43分
 瀬戸内海 青木瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十五天神丸 プレジャーボート第二 三孝丸
総トン数 497トン  
全長 65.40メートル 7.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 30キロワット

3 事実の経過
 第二十五天神丸(以下「天神丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製砂利運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、兵庫県家島港を基地にして瀬戸内海各地への砂利等の輸送に従事していたところ、空倉のまま、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成12年11月25日10時35分広島県大西港を発し、家島港に向かった。
 ところで、天神丸の前部甲板上にはジブクレーン1基が設置され、航海中は前部甲板上に下されるものの、船橋内舵輪後方でいすに腰掛けた位置からの見張りでは、クレーンの機械室によって前方の見通しが妨げられて船首左右各5度の死角を生じる状況であった。また、A受審人は、船橋当直体制を一等航海士との2ないし3時間交替の単独当直を主体としながらも、適宜機関部当直者も組み入れるようにしていた。
 こうして、A受審人は、出航操船に続いて単独で船橋当直に就き、他の者には船首部甲板上での塗装作業を行わせ、三原瀬戸を東行する予定で大崎上島西側を北上後、柳ノ瀬戸に続いて唐島瀬戸の狭い水道に入り、立直して点在する小型釣り船を見張りながら当直を続けた。その後、三原瀬戸に入ると釣り船等の小船を見かけなくなったので、立ちながら見張らなくても大丈夫と思い、操舵輪の後方に置いたいすに腰掛けた姿勢で当直を行うようになった。11時30分高根島灯台から257度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点で、針路を072度に定め、機関を全速力前進にかけて12.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で自動操舵で進行した。
 ところが、11時40分半A受審人は、高根島灯台から275度0.6海里の地点で、針路を次第に狭くなる屈曲した青木瀬戸の北側に向かう057度に転じたところ、正船首1,000メートルのところに船尾甲板上に白色スパンカを展張して漂泊中の第二 三孝丸(以下「三孝丸」という。)を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、いすに腰掛けた姿勢のままで当直を続け、努めて立直して見張りを十分に行わなかったので、同状況に気付かず、三孝丸を避けないまま続航し、11時43分高根島灯台から338度750メートルの地点において、天神丸は、原針路、原速力のまま、その船首が三孝丸の左舷側中央部に後方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、青木瀬戸はほぼ転流時であった。
 衝突後、A受審人は、三孝丸に気付かないまま三原瀬戸を東行し、同瀬戸東口付近に至り、巡視艇から同船との衝突を告げられた。
 また、三孝丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、たこ釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日09時40分三原市幸崎町の小型漁船等の係留地を発し、青木瀬戸北側水域に至って釣りを始め、その後適宜釣り場を変えた。
 11時ごろB受審人は、前示衝突地点付近に移動し、船尾甲板上に白色スパンカを展張して漂泊しながら釣りを再開したが、付近水域が三原瀬戸のうちでも一段と狭くなり屈曲した水道で、三原瀬戸を通航する船舶が輻そうするところであることから、周囲に対する見張りを十分に行う必要があったが、たまたま航行船も少くまた船尾に白色のスパンカを揚げて漂泊する自船を通航船の方で避けてくれると思い、周囲に対する見張りを十分に行わずに釣りを続けていた。
 ところが、11時40分半B受審人は、船首がほぼ357度を向いた船尾甲板上で釣りを行っていたとき、船尾左舷60度1,000メートルのところに自船に向かって接近する天神丸を視認することができ、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、船尾方を背にして腰掛け右舷方を向いた姿勢のままで、周囲に対する見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行うことも、速やかに機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けた。
 こうして、11時43分わずか前B受審人は、引き続き同じ姿勢で釣りを続けていたとき、船尾方から接近する波音を聞いて振り向いたところ、至近に迫った天神丸の船首部を初めて認めたがどうする間もなく、三孝丸は、漂泊状態のまま、前示のとおり衝突し転覆した。
 衝突の結果、天神丸は右舷船首部外板に擦過傷を生じ、三孝丸は左舷中央部外板及び操舵室囲壁に亀裂を伴った損傷を生じてのち廃船され、またB受審人は右肋骨骨折及び外傷性血気胸等の傷害を負った。

(原因)
 本件衝突は、三原瀬戸において、高根島北方を東行する天神丸が、見張り不十分で、前路で船尾甲板上に白色スパンカを展張して釣りをしながら漂泊中の三孝丸を避けなかったことによって発生したが、三孝丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、単独で船橋当直に就いて三原瀬戸のうちでも一段と狭くなり屈曲した青木瀬戸を東行する場合、前部甲板上に設置されたジブクレーンの機械室等によって前方の見通しが妨げられる状況であったから、前路で漂泊中の釣り船などを見落とすことのないよう、前路に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、発航後釣り船が多い各瀬戸を立直して通航したのち、三原瀬戸に入ると釣り船等の小船を見かけなくなったので、立ちながら見張らなくても大丈夫と思い、操舵輪後方に置いたいすに腰掛けた姿勢で当直にあたり、前路に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の三孝丸に気付かず、同船を避けないまま進行して、三孝丸との衝突さらに転覆を招き、天神丸の右舷船首外板に擦過傷を生じ、三孝丸の左舷中央部外板及び操舵室に亀裂等を生じて廃船させ、さらにB受審人に肋骨骨折等の傷害を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、高根島北方の青木瀬戸において、船尾甲板上に白色スパンカを展張して釣りをしながら漂泊する場合、付近水域が一段と狭くなり屈曲した水道で、瀬戸を通航する船舶が輻そうするところであったから、自船に異常に接近する通航船を見落とすことのないよう、周囲に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、たまたま通航船も少く船尾にスパンカを揚げて漂泊する自船を航行船の方で避けてくれると思い、周囲に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する天神丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わず、さらに機関を使用するなどして衝突を避けるための措置もとらないまま漂泊を続けて、天神丸との衝突を招き、両船に前示の損傷及び傷害を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:41KB)





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