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平成13年神審第9号
件名

旅客船咸臨丸護岸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年11月22日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西田克史、阿部能正、内山欽郎)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:咸臨丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:咸臨丸一等航海士 海技免状:一級海技士(航海)

損害
咸臨丸・・・船首部に亀裂を伴う凹損
護岸・・・一部が欠損

原因
変節ダイヤル操作位置の確認不十分

主文

 本件護岸衝突は、可変ピッチプロペラの変節ダイヤル操作位置の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年1月2日15時50分
 兵庫県福良港

2 船舶の要目
船種船名 旅客船咸臨丸
総トン数 384トン
全長 49.40メートル
10.00メートル
深さ 5.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 809キロワット

3 事実の経過
 咸臨丸は、昭和63年2月に進水し、推進器として可変ピッチプロペラを備え、鳴門海峡の観潮遊覧業務に従事する、最大搭載人員506人の鋼製旅客船で、船体中央よりやや前方に船橋を有し、その左右のウイングに可変ピッチプロペラの変節ダイヤル(以下「変節ダイヤル」という。)とバウスラスタ操作ダイヤルが組み込まれた遠隔操縦装置が設備されていた。
 変節ダイヤルは、それを翼角0度の中立位置から右に回すと前進側、左に回すと後進側となり、前後進の切替えとともに翼角度を自在に変えることができるもので、同ダイヤルのパネル内に翼角度の目盛が左右に刻まれ、その上方に緑色で前進、赤色で後進の文字がそれぞれ表示されていた。
 また、咸臨丸の専用桟橋は、兵庫県福良港の港奥にあって、護岸に対して直角に、南西方に向けて設置された長さ40メートル幅10メートルの浮桟橋で、同船がいつも入船左舷付けで着桟しており、同桟橋と護岸との間22メートルが歩廊橋によって連絡されていた。
 咸臨丸は、A及びB両受審人ほか4人が乗り組み、旅客210人を乗せ、船首2.40メートル船尾2.85メートルの喫水をもって、平成12年1月2日14時50分専用桟橋を発し、大鳴門橋付近を周遊したのち、帰途に就いた。
 ところで、B受審人は、前年12月1日ジョイポート南淡路株式会社に船長兼一等航海士として雇い入れられ、同月中旬から船長見習いとしてA受審人及びもう1人の船長から、変節ダイヤルなどの使用法を含め咸臨丸の操船指導を受けるとともに、その指導下でこれまで着桟操船を数多く経験していた。そして、当日も09時30分の福良港始発便から、16時10分の最終便まで1日6便のうち、A受審人の監督のもとで第1、第2及び第4便の操船を任され、これを無難にこなし、引き続き第5便の操船に当たっていた。
 15時44分B受審人は、福良港内の防波堤入口を通過したとき入港部署を発令し、同時45分半少し過ぎ福良港灯台から089度(真方位、以下同じ。)780メートルの地点で、針路を浮桟橋の南西端に向く011度に定め、前進翼角10度として9.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 15時46分B受審人は、前進翼角5度としたのち、これまで機関操作をしていた一等機関士を舵輪操作に当て、左舷ウイングに移動して自ら遠隔操縦装置に就き、右手で変節ダイヤル、左手でバウスラスタ操作ダイヤルをそれぞれつまみ、同時47分前進翼角3度、続いて同時48分翼角0度を呼称しながら変節ダイヤルを操作するとともに、右舵少しを命じて前進惰力で浮桟橋に接近した。
 15時49分B受審人は、福良港灯台から054度1,150メートルの地点に達し、020度に向首してバウスプリットが浮桟橋の先端近くに差し掛かったとき、舵中央を命じるとともに、約3ノットとなった行きあしを止めるつもりで、後進翼角10度を呼称して変節ダイヤルの操作に移ったが、船体と浮桟橋との間隔に気を取られ、前後進の文字表示などで同ダイヤル操作位置の確認を十分に行わなかったので、それが前進側になっていることに気付かなかった。
 一方、A受審人は、B受審人について左舷ウイングに移動し、必要があれば指示するつもりで、その右後方80センチメートルのところに立って操船模様を見守るうち、予定どおりにB受審人の後進呼称があったので、行きあしの状況等を確かめるため船尾方に視線を移したところ、間もなく行きあしが落ちないことから変節ダイヤルの確認を指示した。
 15時49分半B受審人は、A受審人からの指示を聞き変節ダイヤルが前進側であることに初めて気付き、急ぎ同ダイヤルを後進一杯まで操作したが及ばず、15時50分福良港灯台から052度1,240メートルの地点において、咸臨丸は、原針路のまま、0.5ノットの前進行きあしをもって、その船首が、護岸に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 衝突の結果、咸臨丸は、その船首部に亀裂を伴う凹損を生じ、護岸の一部が欠損したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件護岸衝突は、兵庫県福良港において、浮桟橋着桟のため行きあしを止めるにあたり、変節ダイヤル操作位置の確認が不十分で、同ダイヤルが中立位置から前進側に操作され、前進行きあしのまま護岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、兵庫県福良港において、浮桟橋に入船左舷付けで着桟のため行きあしを止めるにあたり、変節ダイヤルを中立位置から後進側に操作する場合、これを前進側に誤操作すると、減速制御ができないから、前後進の文字表示などで同ダイヤル操作位置の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船体と浮桟橋との間隔に気を取られ、同ダイヤル操作位置の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、その位置が前進側になっていることに気付かず、前進行きあしのまま進行して護岸との衝突を招き、咸臨丸の船首部に亀裂を伴う損傷を生じさせ、護岸の一部を欠損させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、自らの監督のもとで船長見習いのB受審人に操船を行わせ、B受審人が浮桟橋に入船左舷付けで着桟する間際で後進をかけて行きあしを止めるつもりが、変節ダイヤルを中立位置から前進側に操作してその操作位置を確認しなかったもので、B受審人がこれまで数多く着桟操船の経験を積み、当日も3回の着桟を無難にこなしていたうえ、予定の位置でいつもどおり後進翼角10度の呼称があってから護岸衝突までが極短時間で、A受審人としては対処することができなかったから、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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